異世界をホントは救いたい(希望)

ガランドウ

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序章 異世界を救わない

エピソード8 交錯

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 2019年 8月 前哨砦滞在2日目 (異世界侵入4日目)

 一晩の休息から翌早朝、帝国本土に向け、該世らフラジャイルは行商人に偽装し、馬車を走らせる。

 既に戸邨とむらら斥候部隊は、日が昇る前には自衛隊が使うジープと偵察用バイクを駆り、先行していた。

 真崎 駿まさき しゅん黒木 真夜くろき まや、そして済美 該世さいび がいせのフラジャイルメンバーが現地に溶け込む偽装を使う理由は、この帝国領内で顔を差す該世を隠し、帝都に奇襲を掛ける為だが、戸邨らは潜伏する他の諜報部員が反乱分子をまとめ、そして帝国側の注意を引く派手な行動を取る。

 最終的には奇襲を掛ける該世に、反乱分子を煽動してもらい、帝都を混乱させる狙いだが、いかに迅速且つ安全に保護対象者を奪還出来るかが、真崎の命題であった。



 黒木が御者として馬車を走らせ、真崎は該世は荷台に向かい合って座り、それぞれがくすんだ灰色のマントを羽織り、フードを目深に被っている。

 真崎と黒木の目的は、ガダスミル帝城に囚われている「中村 翔子なかむら しょうこ」の奪還。

 真崎にとって、この異世界での作戦は2度目であり、今回の奪還作戦はどうしても最初の作戦を想起させる。

 昨晩、自身にも宿す精霊について語る該世は、どこか真崎に対して決意の吐露にも取れた。

 三木 和葉を失うその時、精霊ハイジアが語った該世いや、将馬の選択。

 三木 和葉を失った悲しみから、自身の感情すらも捨て去り、そして淡々とウェルミナ共和国を滅ぼしていく将馬の所業を、真崎や戸邨達は止める事が出来ず、ただ見守ることしか出来なかった。

 後になって分かったことだが、ミカラジ司教の計画では、共和国内にある自身の関わる施設のみを破壊するつもりだった。

 それはミカラジ司教自身の秘密を、隠滅する目的があったのだろう。

 だが将馬はそんな思惑など関係なく、共和国を根絶やしにしたのだった。

 将馬の選択。それは今や名を変えた該世の選択として、ガダスミル帝国へと向けられている。

 該世の胸中には、中村 翔子を奪い返す目的よりも、三木 和葉への希望と精霊との約束に重きを置いているのだと、真崎は感じている。

 ならばと、真崎は自身に言い聞かせる。

 「今度こそ、無事に奪還」するのだと。


 
        §



 ガダスミル皇帝城

 居城内に建てられた、真新しい礼拝堂の祭壇にて、一人拝礼を行うミカラジ司教の姿があった。

 祀られた精霊を模した石像に、祈りの言葉を口にするわけでもなく、両膝を付いて頭を垂れたまま手を合わせ、微動だにしない。

 そこへ礼拝堂内に鳴り響く靴音を立てながら歩み寄る男は、軽装ながら甲冑を身に着けている。

 男が近づくのを察知し、ミカラジ司教は祈る手を解き、立ち上がった。

 (司教、話をする時間をいただきたい、構わないですか?)
 立ち上がるミカラジ司教に思念で声を掛ける男、それは皇帝ガザシームの嫡男レギザーム皇太子。

 (これは皇太子殿下、私は構いませんよ。それに今ここには私達以外誰もいませんが、それでも思念での会話をご所望とは、中々に用心深い。皇帝陛下とよく似ていらっしゃる)
 ミカラジ司教は、レギザームに頭を下げた。

 レギザームはミカラジ司教の言葉に顔をしかめる。

 (悪い意味ではなかったのですが、殿下のお気に障られたのならば、お詫びいたします)
 再度頭を下げるミカラジ司教。

 (いえ、こちらも不遜な態度であったのかもしれません、どうか頭をお上げください。それよりも、お聞き願いたいことがあります)

 (異世界で捕らえた、ショウコという女の事で?)
 ミカラジ司教は、全てを知っていると言わんばかりに、レギザームの意図を先立って口にする。

 (・・・ならば話が早い。あの女を私に頂けませんか?聞き入れていただけるのならば、司教の掲げる信仰に、助力することを約束します)
 翔子を保護していた事を知られていたと、動揺する心をおくびにも出さず、胸に手を当てミカラジ司教に頭を下げた。

 (ほう、それは殿下が即位した暁には、改宗なさると?それは魅力的な提案ですな)
 ミカラジ司教は考える素振りを見せつつ、レギザームへと歩み寄る。

 まだ若い皇太子であるレギザームと、そう年の差を感じさせない容貌であるミカラジ司教とが向かい合う。

 (いいでしょう、ただし・・)
 ミカラジ司教はそこで言葉を止め、辺りを見渡す。

 (いかがした、司教?)
 ミカラジ司教の素振りを訝しみ、同じように辺りを見る。

 ミカラジ司教は見渡す先を、祭壇に祀られている石像で留め、ニヤリと頬を吊り上げた。

 (失礼をいたしました殿下、なぁに少し気になる事がございましたので。では殿下、異世界の女をお譲りいたしましょう。確か今は、召喚の間にいるかと思いますよ)
 ミカラジ司教はその場所へ案内するように、手を差し向けた。

 だがレギザームは躊躇する。

 それは翔子を保護した事実を知られていたとしても、皇太子の私室から翔子を連れ出すような真似は出来ないと思っていた。

 (司教、暫し時間を頂きたいが、よろしいですか?)
 そこでレギザームは思案をする素振りで、その場に踏み止まった。

 (ふむ、それは構いませんが?)
 ミカラジ司教は座った目でレギザームを見据える。

 (いや実は、現在この帝都へ向け、不穏分子が結託し攻め入ろうとしております。私は禁軍の指揮権を戴く身であり、討伐軍の編成を急がねばなりません)

 (ほう、不穏分子ですか・・さすれば我が信徒達を、殿下の軍にお加えくだされ。これは皇帝陛下の御意志でもございます)

 ミカラジ司教の申し出を受け入れる訳にはいかなかったが、皇帝の名を出されては断る事は出来ない。

 (分かりました、我が禁軍に加えましょう。事が済み次第、約束は守ってもらいますよ)
 レギザームは祀られた石像に黙礼をし、礼拝堂を後にした。

 残されたミカラジ司教は、ゆっくりと祭壇へ振り返る。

 (中々にさかしいものよ・・まぁよい、いざとなれば依代もよい働きをしてくれよう)
 ミカラジ司教は祀られた石像を見上げ、ほくそ笑むのだった。


 
        §



 帝城正門吊り橋前で、警備兵による検問が行われており、様々な荷を積んだ馬車や牛車が、順番待ちの列を作っていた。

 該世らが乗る馬車に順番が回り、黒木が警備兵へ通行の為の書類を手渡し、入城の許可を得る。

 昼前に帝城下に辿り着き、城内に入る許可を得た今は、日は傾き夕暮れを迎えようとしていた。

 「やっとですよ~、順番待ちが長すぎるって」

 「お疲れさん、けど検問をすんなり通れたのは、該世のおかげだよ」
 愚痴る黒木をなだめ、真崎は該世に微笑みかけた。

 帝国領へ向かう道中、荷台には何も荷が無く、木箱だけを用意していた。

 そして帝都の手前で一旦馬車を隠し、該世が能力を使い、鉄や鉛のインゴットを錬成し木箱に詰めた。

 この該世の能力は、該世の身に宿す精霊の権能の力であり、また該世が行使出来る精霊からの技能ギフトだ。

 「喉から手が出るほどの軍需品ともなれば、通行許可なんて無に等しいだろうからね」
 該世は木箱から鉛のインゴットを手に取り、その出来栄えに自ら頷く。



 該世の異能の力「物質変換」は、元の世界に戻り、その後手に入れた力だと言っても過言ではない。

 というのもそれまでは、そこに在る物を分解したり、結合する等の使い方しか出来なかった。

 正確に言えば、物質に対する知識が無さ過ぎたのだ。

 朱鷺 将馬とき しょうまが元の世界に戻った時、既に時代は30年の月日が流れ、唯一の親族である父親は他界し、同じ世代の友人達は立派なになっていた。

 最愛の人を失った悲しみも癒えぬまま元の世界に戻っても、そこには自分を認知できる者はいなかったのだ。

 その時の寂寥せきりょう感たるや、傍に付いていた真崎も、居た堪れなかった。

 だが、済美 静香が将馬を養子に迎え、新たな姓、済美 該世を名乗るようになってからの該世は、今までの遅れを取り戻すかのように勉学に熱中する。

 兎角化学に関しての知識欲は旺盛であり、結果精霊からのギフトが「物質変換」と呼ばれる異能の力に昇華したのだった。



 「該世に宿る精霊、確か名はマリクリウスだったね」
 真崎は何気に精霊の話を該世に振る。

 「マリクリウス・・あー、メルクリウスじゃないですか!?確か商人の神で、錬金術の名としても・・すごいですよね!その精霊の名は的を射てます!」
 黒木は精霊の名が琴線に触れたのか、御者席から後ろへ身を乗り出し話に割って入った。

 「精霊達の名は、全部和葉が名付けたんだ。だから俺は由来など知らなかった」
 該世は座った姿勢のまま指を組んで俯く。

 「どうせだったら、マーキュリーって呼んだ方がカッコ良くないですか、どうです?・・ダ、ダメですよね・・はいすみません」
 場の空気が読めない黒木は、真崎の鋭い視線に気付き、すごすごと前を向くのだった。


 城内にある、軍備品を管理する鍛冶加工場に馬車を横付けし、荷物を降ろしながら城内の様子を伺う。

 今まさに帝国禁軍が出陣の合図と共に、城外へと行進を始めるところであった。

 鍛冶加工場の入口で、荷を降ろす真崎の傍まで、同じように荷を降ろしに来た該世が、真崎に耳打ちする。
 「じゃあ作戦通り、後は真崎さん頼んだからね。失敗するなよ?」

 「ちょっと待て、該世」
 ニヒルに笑顔を見せて行こうとする該世の腕を掴み、引き戻す。

 「まさかここで派手にやるつもりじゃないだろうな!?」
 周りに聞こえない程の小声で話すが、真崎の言葉には怒気が孕んでいる。

 「ははは、まさかそんな、ねぇ?」
 真崎の顔色を伺うように話す該世の目は泳いでいる。

 「該世・・まぁいいけどさ、せめて僕等が潜入するまでは待てないか?」

 「いいんかい!って、分かってるよ。アイツ等の後をついて行って、頃合いを見てやるつもりだから」
 該世と真崎はお互いサムズアップを交わし、別れようとしたその時。

 「ガッシャーン!」と大きな音を立て、インゴットの入った木箱をひっくり返してズッコケる黒木。

 その様子に、進み始めていた禁軍が立ち止まり、黒木へ注目が集める。

 コケた拍子に黒木が被るマントが翻り、中に着ているフラジャイルの制服が覗いていた。

 隊列の中から、虫の鳴き声にしか聞こえないこの異世界の共通語を怒鳴らせ、三騎の騎馬が駆け寄ってくる。

 黒木のドジっ子は織り込み済み、とはとても言えない状況に、該世は真崎に無言で頷き、黒木の傍へと向かう。

 馬上から耳障りな共通語をがなり立てる騎士を無視し、黒木の身を起こす。

 「クロちゃん、真崎さんと一緒に行ってくれ。大丈夫、後は任せて」
 該世は懐からハンドガンを引き出そうとする黒木の手を抑え、そのまま背中を押して真崎の元へ送り出す。

 一人の騎士が馬から降り、該世に向けて剣を抜き、他の騎馬が真崎の元へ向かう黒木を追おうとする。

 (オイ、動くんじゃない。死にたいか?)
 該世はフードを目深に被ったまま、顔を上げるわけでもなく、騎士達に思念を飛ばす。

 その思念に、騎馬は動きを止め、剣を抜き放った騎士は、剣先を該世の鼻先まで近づける。
 
 (大層な口を利く。貴様何者だ?)
 剣を突き付ける騎士が、該世に思念を返しながら、騎馬達に目配せをした。

 (動くな、と言ったよな)
 該世は徐ろに右手を自分の顔近くに掲げた。

 「キチチキッ!」
 共通語を叫び、該世の顔を突き刺そうと剣を伸ばす。

 その叫びを合図に、馬上の騎士は馬腹を蹴り、真崎らの元へ駆けようとした。

 だが該世は、自分を串刺しにしようとする剣を右手で掴み、騎士から簡単に奪い取る。

 「ギチギッ!」
 鳴き声を上げ、苦悶の表情を見せる剣を奪われた騎士の肘から先が、消えて無くなっている。 
 
 奪い取った剣のグリップを左手で握り、刀身を右手でなぞりるように動かすと、その刀身部分が消えて無くなり、何かを握り込んだ右手を駆けてゆく騎馬に向け、てのひらを下にして開く。

 掌の下には3本の尖った太い針が生成され、該世が騎馬を睨みつけると同時に、1本を残し射出された。

 針は見事に二騎の騎馬達の後頭部を兜ごと貫き、騎士を絶命させる。
 
 腕を失い、ひざまずいて錯乱する騎士を見下ろし、騎士の頭上で残した1本の針を握り込み、振り下ろそうとしたその時。

 (そこまで!お待ち下さい!)
 該世の頭に強い思念が響き、隊列から指揮官らしい豪奢な甲冑を身に着けた騎馬が、駆けてくる。

 少し離れたところで、馬上からヒラリと飛び降り、脱いだ兜を脇に抱えて真っ直ぐ該世を見据えたまま駆け寄る。

 (どうかその者に慈悲を、砂塵の英雄殿)
 該世に対して、片膝をついて頭を下げるは、レギザーム皇太子であった。

 該世は横目でレギザームを見ながら、針を握る手を振りかぶる。

 (私の話をお聞きください、砂塵の英雄、いやショウマ殿!)
 レギザームは該世の元の名を呼び、食い下がる。

 将馬と名を呼ばれ、該世は嫌悪感を剥き出しにレギザームを睨んだ。

 (どうか鉾をお収め下さいショウマ殿。この会話は2人だけの念話にて、私は精霊様より授かりし儀があります)

 (チッ・・分かったよ。ところでアンタ誰だ?なんで俺の事を知ってる?)
 レギザームから出た精霊と言う言葉に、取り敢えず自分の名を知る男の身元を確認する。

 (も、申し遅れました・・私は帝国禁軍の指揮を任されている、レギザームと申します)
 皇太子であることを口に出さなかったのは、あくまで余計な圧力を発生させない為だけに過ぎない。

 (私はあなたに会える日を、待ち望んでおりました)
 レギザームは兜を地に置き、手を合わせ組んで、祈るように該世に頭を下げた。

 (ふーん、じゃあアイツらもそんな感じかな?)
 該世は禁軍の隊列の方を見やり、隊列から躍り出た9人程の修道服を着た魔道士が、3人3列で陣を組み始めてるのを顎で示す。

 (くっ、ムカズナ信徒・・大丈夫です、私が制しますのでご安心を)
 レギザームは該世を庇うように前に出ようとするが、該世はそのレギザームの肩を抑え付けて前に出させない。

 (俺の楽しみ邪魔すんなよ?アレをるのが俺の趣味なんだから)
 口角を釣り上げ、邪悪な笑みを浮かべる該世の口ぶりに、レギザームは言葉を失う。

 該世は横を見ながら、魔道士との距離を詰める。

 該世が見る先では、真崎と黒木が連れ立って城の回廊へと走り込んでいた。

 (ショウマ殿!)
 レギザームが注意を即す思念を飛ばす。

 陣を組んだ前列の魔道士が詠唱を終え、それぞれに火球を作り上げていた。

 該世はレギザームへ振り返り、羽織っているマントの肩口を掴みながらレギザームを指差す。
 (一つ言っておくが、俺を将馬と呼ぶな。今の俺の名は該世だ)

 該世に向かって3つの火球が放たれる。

 該世は羽織っているマントを引き剥がし、火球に向かって広げる様に投げ放った。

 マントと火球とが衝突し、その場で魔導士達と該世を隔てる、炎の幕が出来上がる。

 魔導士達は攻撃を防がれた事に動揺する事無く、魔法を放った前列が後ろに下がり、中列の3人が詠唱をしながら前列と入れ替わろうとした刹那。

 前に出た3人の内、真ん中の魔導士の眉間に針が突き刺さり、その勢いを失うこと無く後ろに待機していた魔導士諸共吹き飛ばした。

 炎の幕が消滅し、残る熱が陽炎かげろう作り出す。

 陽炎がフラジャイル専用ジャケットを身に付け、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、ゆっくりと魔導士達に向かって歩む該世の姿を揺らめかせる。

 (さ、砂塵の叛徒を殺せ!我らの使命を果たすのだ!)
 信徒のリーダーらしき魔導士が、該世に指を突き立て、仲間を鼓舞する。

 (ハッ!笑わせるなよ、ゴキブリ共)
 該世は歩きながらポケットから両手を出し、左腕のリストバンドに填め込まれた液晶画面に触れる。

 詠唱が完了し、尖った氷柱を作り出す魔道士の一人が、両手を全面に突き出し射出する。

 該世は歩みを止めること無く左手を前に出し、迫る氷柱に手を合わせた。

 掌に接触する寸前に、氷柱の先端から蒸発して無くなっていく。

 それでも魔道士達は次々に詠唱を始め、火炎と氷結の魔法を繰り出す。

 該世はその全てを軽々と左手だけで受け止め、その場に水蒸気爆発を巻き起こさせる。

 霧が立ち込め、辺りの視界が奪われると、霧の中から該世の手が伸び、前列にいた魔導士の顔面を掴む。

 掴まれた魔導士は一瞬にして石像と化し、該世はその後ろにいた別の魔導士に、その石像を突き放す。

 魔導士は慌てて受け止めるが、石像から石の棘が飛び出し、魔導士を串刺しにした。

 残る魔導士達は跳び退き、該世と距離を取る。

 だがその時。

 (失礼する)と思念を残し、魔導士達の後方に人影が現れたと同時に、リーダーの魔導士と併せた3人の魔導士の首が、一斉に宙を舞う。

 該世と対峙しているのも関わらず、残る魔導士達は何事かと後ろを振り向くが、首を飛ばされた魔導士の血煙から、煌びやかな黄金の甲冑を身に付けた巨漢の騎士が現れ、その騎士が大剣を横に薙ぎ、残る魔導士を全て胴から真っ二つに切り裂いた。

 巨漢の騎士は、魔導士達の屍を跨ぎ、1.5mはある両刃の大剣を肩に担いで該世の前に出る。

 (はぁ・・何してんくれてんだ?人の楽しみ奪うなよ)
 該世は巨漢の騎士に太々しく絡むが、先程とは違い両手をだらりと垂らし、若干前屈みの態勢を取っている。

 巨漢の騎士は無言のまま、担いでいた大剣を地面に突き刺し、その場にひざまずいた。

 (殿下への暴挙、火急ゆえの処断、失礼をした、砂塵の英雄よ)
 片言の思念を飛ばし、該世の後方、レギザームへ視線を向けた騎士は、兜を被らず伸ばした銀髪を後ろに流し、切れ長な瞳が端正な顔立ちを思わせるのだが、2mは優に超える体躯がアンバランスさを感じさせる。

 (ショウマ、いやガイセ殿。我々禁軍には、あなたへの敵意は一切ございません)
 該世の後方で、片膝を付き首を垂れるレギザーム。

 その所作に合わせて、巨漢の騎士といつの間にか整列をした100名程の禁軍が、一斉に該世へ片膝を付き礼を取る。

 り合うつもりでいた該世は、うまく躱された格好になり、不満げに口をへの字に曲げ、巨漢の騎士を見下げた。

 (って言われてもな、俺はこの国をぶっ潰しにきたんだぜ?)
 巨漢の騎士を見詰めながらも、思念はレギザームにだけ飛ばしている。

 (私は正直、あなたの真意は測りかねます。ですが私は精霊ハイジア様より神託を受けた身であり、ガイセ殿に知っていただきたい意志があるのです)
 レギザームは立ち上がり該世に近づくと、懐から何かを握り込んだ手を差し出す。

 (ハイジア様より賜った物。これをガイセ殿に手渡すよう、仰せつかっております)
 レギザームは握った手を開く。

 その手にあるのは、小さな十字架のペンダントだった。



        §


 
 まんまと帝城内に潜入した真崎と黒木は、敵との遭遇を避ける為に外回廊を辿り、事前に当りを付けていた中村 翔子が幽閉されているであろう場所を目指す。

 ミカラジ司教の狡猾さを知る真崎は、慎重に慎重を重ねて歩みを進めていくが、以外にも危機察知が発動しない。

 だからといって緊張を緩めることはしないが、城内が静かである事は確かであった。

 前回同様、今回も保護対象者の居場所は大凡でしか分かっていない。

 それはムカズナ教専用施設が、この城内に存在している事実があり、そこ以外にミカラジ司教の所在が確認されていないのだった。

 「真崎さん、多分だけどこれって教会かな?そんな感じの場所見つけましたよ」
 外回廊の突き当りにあった待合所に身を隠し、黒木が小型ラジコンを使い目的の場所を見つける。

 「ちょっと見せて」
 黒木からドローンゴーグルを借りて、その画像を確認する。

 車型ラジコンの為、カメラの目線は低いが、並べられた長椅子と、前方に祭壇らしき台が見える。

 「当たりだよ真夜。ここは礼拝堂だ」
 真崎はドローンゴーグルを被ったまま、黒木にサムズアップして見せる。

 「真夜、カメラを前方に、その辺りを見せてくれないか・・待って、ストップ!そこからカメラを上に向けて・・」
 小型ラジコンに付いたカメラの動きを指示していた真崎は、そこで言葉を失う。

 「どうしたんです?何かあったんですか?」
 
 「・・・真夜、兎に角この場所に向かおう」
 真崎は黒木にドローンゴーグルを手渡し、腕時計を見やり時間経過を確認した。

 黒木は真崎の行動を訝しみ、何気にドローンゴーグルを被る。

 そこには祭壇の上部に祀られた石像が映っていた。

 「真崎さん、これって・・三木 和葉さんですよね?」

 ・・つづく・・
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