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第7章 天下分け目の大決戦編

65.三浦宮御所の戦い(18)

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志太軍本陣にて祐藤との一騎討ちの前に政豊は祐藤の話を聞いていた。
祐藤の語る理想の幕府に政豊は心を揺れ動かされていた。
そして政豊は思い立った様子で彦八に対して声をかける。

政豊
「彦八よ!すぐに全軍に告げよ!標的は志太祐藤にあらず。真の標的は三浦幕府将軍 三浦継晴であるとな!」

その内容は、攻撃目標を祐藤から継晴に切り替えると言うものだ。
政豊の中で継晴を討つべし、と言った決意が新たに生まれていた。
先程の祐藤による話によほど共感を得る物があったのであろう。

この、朝令暮改とも言える突然の命令に彦八は驚いた様子で言う。

彦八
「お、お頭…本当に良いのですか?」

彦八はなおも面を食らったような表情をしている。

政豊
「良きも悪きも無い。儂の言うことが聞けぬのか?もう一度言うぞ、三浦継晴を討ち取れとな!」

困惑する様子の彦八に対し、政豊は苛立った表情でそう言った。
すると彦八は慌てた様子で答える。

彦八
「ははっ!承知いたしました!すぐに全軍に対して命令を下して参ります!」

そう言うと彦八は早々に馬に跨り、その場を離れた。

祐藤
「政豊殿よ、分かってくれたか。感謝いたすぞ。」

その光景を見た祐藤が政豊に対して感謝の言葉を述べていた。

政豊
「何度も言うが勘違いするなよ。儂はお前さんの造る太平の世に興味があるだけで、志太家に味方するつもりは今後も無いぞ。」

あくまでも政豊は、志太家に味方をするつもりは無いと主張していた。
この行動は祐藤の開く幕府、すなわち「太平の世」をこの目で見て見たいと言う純粋な気持ちからであった。
始めは半信半疑ではあったが、結果として祐藤の巧みな話術に政豊は次第に心を動かされたのである。

政豊
「へへっ、あばよ!志太の殿様よ。次に会う時こそは必ずや決着を付けようぞ!」

まるで長年来の友人に話しかけるように政豊はそう言った。

祐藤
「うむ、儂もお主のことを待っておるぞ。じゃが、共に地獄で決着を付けることになるかも知れぬがな…」

現世で政豊と再び会える事は難しいと感じていたのであろうか、祐藤は少し弱気な言葉を発していた。
すると政豊が声高らかに笑い飛ばしながら言う。

政豊
「ははは、お前さんらしくねぇな。弱気なことは言うもんじゃねえぞ。なに、お前さんは幾多もの困難を今まで乗り越えて来ておる故、かような心配をするでない!」

政豊の言葉に祐藤も笑みを浮かべて答える。

祐藤
「どうしたものか、政豊殿の言葉を聞いて儂も力が湧いてきたわい。あい分かった、必ずや生きて決着を付けようではないか。」

祐藤は政豊の激励の言葉を受け、みるみるうちに生気を取り戻していった。
その光景は、先程までは敵であるはずの人間に励まされているという実に滑稽な様子であった。

政豊
「よぅし、ではそろそろ儂も行くかね。木内政豊、修羅に入る!」

そう言うと政豊も馬に跨り、木内軍は祐藤の元を後にした。

一方その頃、彦八は祐宗らの陣付近にいた。
祐宗らの行く手を阻む炎の壁は数刻が過ぎた事により、幾分か火力は弱まっていた。
その壁を彦八がするりと通り抜けると、志太軍と木内軍による激しい戦いが繰り広げられている光景が目に入った。

彦八は鉄砲を空へ向けて数回発砲した。
鉄砲によるけたたましい音を聞いた両軍は一旦動きが止まった。
次の瞬間、彦八が兵たちに向けて叫んだ。

彦八
「木内軍の兵どもに告ぐ!志太軍との戦いを今すぐに止め、将軍 継晴を討つのじゃ!」

彦八のその言葉を聞いた木内軍の兵たちは皆、戸惑いの表情を見せていた。
そして兵たちが次々と口を開く。


「彦八殿、それは真にございますか?」

彦八の報告に、兵たちは耳を疑っていた。
先程まで敵として戦っていた志太軍と共に今度は幕府軍を相手に戦えと言うのだ。
あまりの突然な出来事である故に、これには両軍共に混乱した様子であった。

すると間もなくして一人の男がその場に姿を現した。
木内軍総大将、木内政豊である。

政豊は困惑する兵たちに向けて説明を始めた。

政豊
「あぁ、真じゃ。我が木内軍は、たった今から将軍である継晴の首を貰いに志太軍と共に御所へ向かうことになった。」

総大将である政豊自身が説明の言葉を発した事で兵たちは、この命令が事実である事をようやく理解したようである。
すると祐永が政豊を睨みつけながら怒鳴り声を上げた。

祐永
「政豊!貴様よくもぬけぬけと拙者たちの前に戻って来たな!今さらかような話が信じられると思うか!」

祐永は政豊に対する怒りをあらわにしていた。
興奮している祐永をなだめるように政豊が答える。

政豊
「済まぬ、あんたらが怒るのも無理は無いよな。じゃが、儂は祐藤殿には手をかけておらぬ。嘘じゃと思うのならば、今この場で儂を斬り捨ててもらっても構わぬぞ。」

政豊は自身の刀を祐永に差し出してそう言った。
信用ならぬと言うのであれば、斬り捨ててもらっても結構。
実に体を張った大胆な行動であった。

するとその様子を見た祐宗が口を開く。

祐宗
「もう良い、分かった。政豊殿よ、お主の言葉を今一度信じようではないか。これより我ら志太軍は木内軍と共に御所を目指す。それでよろしゅうございますな?」

どうやら祐宗は政豊の言葉や表情を見て、それが偽りでは無い事を感じ取っていた。
人間の心情などを深く読み取る才能に人一倍長けていた祐藤の才能をしっかりと引き継いでいたように思える。

政豊
「分かってもらえたか。礼を申すぞ。」

政豊は祐宗に対して頭を下げてそう言った。
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