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第8章 将軍への道程編

42.墨山の戦い(10)

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墨山城付近において突如発生した霧により志太軍は劣勢の状態に陥った。
そして外河家による一方的な攻撃を受け、全軍壊滅の危機に瀕していた。

すると義秀(頼隆)が軍勢を救うべく立ち上がった。
退却路の確保を行い、軍勢に案内を行うという内容だ。

軍勢はこの頼隆による案内に従うべく進み始めるのだが、外河軍の攻撃を避ける事は困難であった。
そこで義道は、殿を務めて軍勢の退却を促すように提案。
志太軍は全軍退却を行う事となった。

祐宗
「皆の者よ、急ぐのじゃ!急ぐのじゃ!」

祐宗は慌てた様子でそう叫ぶ。
そして頼隆が大声を上げて案内する。

義秀(頼隆)
「こちらにございます!ささっ、早う拙者の後に続いてくだされ!」

そうして軍勢は、頼隆の元を目指して進み始めるのであった。
義道が真剣な表情をして呟く。

義道
「若…いや、殿!どうか皆を頼みましたぞ…」

志太軍が退却を目指して進み始めた事を確認した義道は、唇をきゅっと引き締めて国輝に対して声を上げる。

義道
「さぁ国輝殿よ、どこからでもかかって来るが良い!この大村義道が相手いたそうぞ!」

すると国輝は鼻で笑いながら答える。

国輝
「ふっ、老いぼれの将たった一人で何が出来るいうのじゃ!笑わせおるわ!」

志太軍は、ただでさえ不利な形勢に追い込まれているのだ。
このような状況下で殿として指揮するは年老いた武将ただ一人。
どう見ても外河軍が有利である事に違いは無かろう。
国輝はそう確信していた様子である。

すると義道が険しい表情をして言う。

義道
「良かろう、では試してみるが良い。儂がただの老いぼれでは無いということをお主らに存分に思い知らせてやるわ!後悔するでないぞ?」

義道は、国輝が吐き捨てるように言った「老いぼれ」という言葉に怒りを覚えていた。
この義道の反応に対して国輝は失笑しながら声を上げる。

国輝
「ほう、随分と自信がおありなことで。では、お望み通り…おいお前たち、行くぞ!」

国時
「大村義道殿よ、御覚悟を!」

義道
「皆の者よ、今一度聞け!我ら軍勢は見ての通り不利な状況である。それ故、何としてでも奴らに一矢報いるのじゃ。良いな?」

こうして外河軍は、義道の軍勢に対して総攻撃をかけ始めるのであった。

その様子に祐宗が口を開く。

祐宗
「まさか、叔父御は…この戦で死ぬつもりではござらぬか…」

覚悟を決めたかのような義道の言葉を聞いた祐宗は、心配そうな表情を浮かべていた。
祐永も続いて口を開く。

祐永
「叔父御は出陣前に、こたびの戦いを自らとしての最後の戦いにしたいと口々にされておった。それが真ならば、叔父御は兄者の申す通り…」

義道は今回の墨山での戦いを最後として身を退こうと考えていた。
これがどう言う意図であるかは義道本人にしか分からぬ事ではあるが、この状況では死を覚悟して今回の戦に望んでいたのでは無いかと祐永は考えていた。

すると、崇冬らを始めとする志太家の武将が次々と口を開き始める。

崇冬
「義道殿は、先代である祐藤様の御兄弟にございます。それ故、かような所で敵になぞ討たれはしませぬ。拙者は信じておりますぞ!」

康龍
「拙者も崇冬殿に同じく。義道殿は、数多なる戦では必ず無事に帰還されたとお聞きしております。こたびの戦もご無事に我らと共に帰還されることかと存じます。」

玄名
「我ら志太家の者たちは皆、泰平の世を願って戦っております。かような正しく強き想いを持たれた義道殿が敗れるなど私も考えられません。」

どうやら崇冬らは義道という男の底知れぬ力を認めており、彼が無事に帰還する事を確信している様子である。
これらの言葉を聞いた祐宗は、顔を引き締めて声を上げる。

祐宗
「皆の者よ、叔父御のお気持ちを無駄にせぬ為にもまずは我らがこの場から撤退することを考えよ!良いな?」

祐宗のその声に軍勢は更に退却の足を速め始めるのであった。

祐宗
「叔父御…死ぬなよ…必ず生きて帰って来るのじゃぞ…」

眼に涙を浮かべながら祐宗はそう何度も呟いていた。
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