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序
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しおりを挟む―七十年後。
康泰は妻に先立たれ、三人の子等の助けを受けながら、海が見える家で老いた愛犬との暮らしを満喫していた。
潮風が心地よい。
足元に伏せていた愛犬が、ひょいと顔を上げた。康泰の皺くちゃな手が優しくその頭を撫でる。
「ああ…久し振りだね…ミオンさん…」
穏やかな双眸が眇められ、目尻には生きた年数だけの皺が刻まれていた。
「はい、お久しゅうございます…皇妃閣下…っ」
今も昔も変わらぬ姿のミオンは、はらはらと再会の涙を零しながら康泰の足元に膝を付き、温かな手に己が手をそっと重ねた。
「長い間…心変わりのない自分に驚いたものだ…」
ふふ、と穏やかに微笑む翁は、いつかのときと変わらず美しいとミオンは更に涙した。
「ミオンさん…ひとつ、我儘を許してくれるかい…?」
「ええ…ええ…何なりとお申し付けください」
「ありがとう…この子も、共に連れて行っても良いかね…」
次に子供が来るのは三日後で、それまでの間に死してしまうだろうと康泰は目尻に涙を浮かべた。
「ひとりで逝かせるのは、しのびない…」
飼い主の勝手ではあるが、と眉尻を下げれば、愛犬は気にするなとでも言うように康泰の手の平を舐め上げた。
「もちろん、問題ございません」
康泰は再び礼を述べると、ゆっくりとその瞼を閉じた。
「私の人生は、とても、良いものだった…」
―そして、呼吸は、ゆるりと途絶えた。
***
ミオンは温かい光を放つ魂を二つ胸に抱き、こつりと石畳に降り立った。
とくとくと小さく脈打つその無垢な魂を、ガラス製の美しい瓶の中に優しい手つきでそっと入れる。二つの魂は、柔らかな光を放ちながら瓶の中で漂った。
真紅の双眸が、自室の窓の外に向けられる。
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