セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾

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第2章

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 怒りがひと段落すれば、次に出て来た感情は少しばかりの不安である。
「とりあえず、コータ様が皇妃の候補である事は…」
「それは大丈夫。ただ、別の意味で目は付けられたと思う」
 邪魔者として。
 言葉にしなくともミオンとシュノアは、それを察した。
「…コータ様、これを」
 ミオンがテーブルの上に置いたのは、木箱。美しい装飾の施された箱は、相応の価値を示して堂々とそこに鎮座する。
 首を傾げながら取り上げた康泰がそっと箱を開けば、シルバーのピンキーリングが煌いた。埋め込まれているのは一粒の小さなルビー。
「それは、特殊な術が組み込めれている指輪です。ビビの客人としての証になります。これがあれば、王妃たちも下手に手出しは出来ません」
 特に、ヴィヴィアンは先代から王妃の座に居る。先代魔皇の時代から数えて幾百年。魔王としての座が揺らいだ事は無く、その魔力の強さは折り紙付きだ。
 そんな立場のヴィヴィアンの客人と知りつつ手を出したのならば、その報復に何をされるか。過去に数名の王妃が入れ替わった事もあったが、その真相は当時の魔皇と皇妃しか知らない。
「まあ、こちらから何か仕掛ける事は無いし、何かあればすぐに報告する」
 笑いながら指輪を嵌めれば、眉尻を下げたミオンが「約束ですからね」と何度も念を押しその度に「約束、やくそく」と繰り返す。言っている内に、逆に嘘のように聞こえて来るのだから不思議だ。
 四人の王妃の相関図を面白おかしく聞きながら、しかし、と康泰は思案する。
 恐らく、あの彗星の如き少女は自身がヴィヴィアンの客人であろうとミオンの客人であろうと、魔皇のツガイであろうと関係無く始末しようとするだろう。
 理由は、邪魔だから。その一点に尽きる。
 自身の魔力が通用しない存在は、邪魔。愛する魔皇の隣に立つから、邪魔。それだけだ。
(実に、清々しい。魔族らしく、欲望に忠実だ)
 まるで他人事のように胸中で呟いた。否、他人事のようになどではなく、その実、全く以って興味が無いのである。
 生前からそうであるように、興味が無い事ほど退屈な事も無い。興味が無いから、好きに喚いていれば良い。退屈な事に時間を割くほど優しくも無い。
(精々、楽しませてくれる事を願うさ…)
 魔皇あの人が目覚めるまでの遊び相手にはなってくれるだろうと嗤った。

   ***

「なんや、えぐい御仁がいらしゃったもんやのー…」
 胸に縋り付く黒猫の顎を擽って宥めながら、海底の城の王は苦く笑う。
 男の忠実な僕である黒猫―ノディは、いまだ恐怖に震えていた。
「ええ加減、落ち着いたんちゃうか?」
『…はい、ありがとうございました…あの、お恥ずかしいところをお見せいたしまして…』
 少しばかりの恥じらいを滲ませるノディに、男は笑みを浮かべて気にする事は無いと長い尾をするりと撫でた。
「かめへんよ。君はなかなか甘えてくれへんから、ボクも嬉しいわ」
 男はノディを腕に抱き上げ、ソファーから立ち上がり窓に歩み寄る。外を泳ぐ人魚の群れが男に気付き、ひらひらと手を振った。軽く手を上げてそれに応え、どうしたものかと息を吐く。
「『渦』を持っとる男の子なあ…。なあ、ノディ、君の見間違いと言う可能性はあるんか?ああ、君の『魔眼』を疑っとるわけちゃうよ?そこは勘違いせんでな」
 男の言葉にノディは「分かっております」と頷いた。
 ノディの一族、金花猫きんかびょう一族は『魔眼』の魔力を持つ者が多くいる。その魔力は死して尚効力を持つ為、人の世と同じく求める者たちに乱獲され、その数は少ない。ノディは最後の世代と言っても過言では無い。
『邪魔が入りましたので、あまり解析は出来ませんでしたが…それで良かったのだと今は思います。解析しようと少しでも足を踏み入れれば、『渦』に呑み込まれていたでしょう…』
「邪魔者…」
『はい、彼の方の従僕魔でございます。アレもまた『渦』に関連する者…いえ、恐らく『渦』より生まれいでし者かと…』
「うーん…」
 男は窓を開けた。外に一歩踏み出せば、そこは水の中。城は男の魔力に覆われ、水の侵入を一切許さない。
 男とノディの口元からこぽんと空気の泡が生まれて浮上する。
 うんうんと唸りながら、男は浮上する泡を目で追った。
「…よし、決めた。ノディ、これを宰相フィニに渡して来て」
『ひえ!?』
 一瞬だけ拳を握り、そっと手を開けばサファイアの巻貝が鎮座する。
 だが、ノディは気が気では無い。
『あ、会われるのですかっ?』
 巻貝と男の顔を何度も見比べ、落ち着いていた尻尾が再びぶわりと膨らんだ。
「まあ、会ってみんと強さは分からんし…『渦』に呑まれんよう見張っといてや」
 やはり自分も行くのかとノディは肩を落とす。
「ほな、よろしゅう」
 ノディの首に巻かれたリボンの結び目にサファイアの巻貝を刺し込み、頭を撫でた。
『ご命令ならば従います…でも、引き際を間違えないでくださいませ、ガロン様』
 ちりんと小さな鈴の音を残して、ノディは男の腕から姿を消した。
「だーいじょうぶ、今までその辺は見誤った事は無いって知っとるやろ」
 男―水閣区域第四階層の魔王、ガロン・ティシェア=ジュエラは純粋な楽しさに口角を吊り上げたのだった。
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