セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾

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第3章

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 魔力が粗方馴染み、活動するに支障が無くなり始めた頃、康泰に部屋が用意された。稀に訪れるまろうどの為に用意された居館パラスへと身を移す事となったのである。シュノアも護衛兼侍従として傍にいるよう『宰相フィニ』からの令が下った。
 ミオンとシュノアが雇う侍従や侍女も手伝い、引越しが行われた。
 気が付けば多くの服がクローゼットを埋めている。
「こんなにあったか…?」
 仕舞われて行く服や靴、装飾品の数々を見て首を傾げた。
 ミオンが幾つか設えてくれていたのは覚えているが、大きなクローゼットが埋まるほどの量ではなかったと記憶している。
「ビビからの贈り物が大半ですね…」
 どうぞと差し出された温かい紅茶を受け取り、礼を述べると「ヴィヴィアンさんから?」と眉間に皺を刻み込んだ。
「贈り物と言うよりも、貢ぎ物のような…」
 苦笑を浮かべるミオンに、康泰は「あー…」と頷き深く聞く事は止めようと温かなカップに口を付けた。
 康泰の引っ越しも落ち着き、侍従たちは自身の準備をする為に退室し、部屋には康泰とミオンの二人だけになる。
 部屋は広く、暖炉もあり、扉の無い別室に鎮座するベッドも大きなものだ。
「コータ様、ご相談があるのですが…」
 口にしていいものか。何を躊躇うのか、ミオンは眉尻を下げた。
「選択肢はコータ様にありますので、嫌な時は断られて結構です」
「ん、何?」
 カップをソーサーに戻して、康泰はミオンに向き直り先を促した。
水閣区域第四階層を治める王妃、ガロン・ティシェア=ジュエラが面会を求めております」
「ふーん、会うくらいなら構わないが…?」
 意を決して伝えたミオンに反して、康泰はさらりと了承の言葉を紡ぐ。それを予想していたのか、ミオンは康泰から目を逸らしてそっと息を吐き出した。
「もう少し、警戒心を持たれても良いと思うのですが…」
「ガロンってリィが侵入者って言ってた黒猫の飼い主だろ?一度は会って、わざわざ苦労してこの城に侵入させた真意を知りたいじゃないか」
 にこりと笑う康泰の目の奥は、昏い。猜疑心に塗れている。
 その魔族らしい昏い双眸に、ミオンは小さく喉を上下させて気を持ち直すように息を吐き出した。
「実は、五日ほど前から煩くて…」
「五日も?めげないねー…」
 呆れた顔で康泰が呟けば、その通りだとミオンは頷く。
「コータ様がよろしいのならば、その旨をお伝えしてこちらに招きます」
「うん、よろしく。日程はミオンさんにお任せします…と、言いたいところだけれども」
 悪戯染みた笑みが康泰の表情を彩る。
「招くための触媒があるんでしょ?」
「え?ええ…こちらになります」
 差し出され、手のひらに転がされたのは青色の巻貝。きらきらと照明を反射する様に、宝石で出来ているのだろうと察した。
「じゃ、こっちのタイミングで呼ぼう。あちらの都合に合わせる必要は無いし?」
 礼に則った者には礼で返すが、無礼を以って足を踏み入れた者に礼で持て成す必要性を感じないと康泰は笑う。
「これは魔力を流し込むだけ?」
 指先で巻貝を摘み上げ光に透かせば、小さな紋様が中に刻まれているのに気が付いた。
「ええ、魔力を流すだけです。お気付きかと思いますが、中の紋様は転移術の陣です。魔力を注げば、その陣に魔力が蓄積され術が展開されます」
「へー…」
 一通り眺め満足したのか、康泰が左手で巻貝を握り込めば、付加装飾具エンチャント・アイテムのバングルがほんの一瞬だけ光を纏い、次に手を開けばきらきらと魔力が煌いて手のひらに収まる小さな箱を作り出した。不純物の混じらない、透明度の高い氷の宝石箱だ。
 ミオンがぱちくりとまばたいた。
「コータ様…」
 康泰は魔族になってから期間が短く、馴染みの無い魔力は安定を見せない。安定すら付加装飾具に頼らざるを得ない現状、碌に魔力を扱う事が出来ないのは自他共に認める事実である。
 どう説明したものかと、頬を掻いた。
「俺は想像しただけだ。小さな宝石を収める箱って感じで。後はこのバングルが調整してくれたとしか…」
「いえ、あの…まあ、その事もなのですが…その…氷の魔力をお使いになられるのですか…?」
 魔力は実際に発現した時に特性を振り分ける事が出来る。
 例えば、くしゃみをした反動で火が散れば、それは『熾火おきび』の魔力の一端。
 例えば、池に落ちてしまった時に水の中で呼吸が出来るようになっていれば、それは『水沫すいまつ』の魔力の一端。
「所謂、四大元素である地水火風の他にも色々と魔力の種類はありますし、複数を保有する者もいます。例えば、メリディア妃が『幻惑』と『誘惑』の魔力を持たれていますね。…ですが、氷の魔力…『氷鏡ひかがみ』を持つ方は、魔皇以外に居る筈が無いのです」
 それが皇妃であっても例外では無いとミオンは言う。だが、先ほど康泰が使用したのは『氷鏡』の魔力だ。
 しかし、考え込もうとするミオンを制し、康泰は自身の魔力を推測する。
「多分、氷…『氷鏡』では無いと思う。確信は無いけれど」
「では…一体…?」
 何故、氷の魔力が使役出来たのか。
「んー…何とも言え無いけど、俺に特定の魔力は無いような気がする」
 自身の中で渦巻く魔力は、何とも混沌としており、下手をすれば持て余して暴走してしまうかも知れない。
「強いて言うなら、他者の魔力をコピーする、とか…?」
 城の中、と言うより凍土地区最終階層は魔皇の魔力に満たされており、もし、康泰の言うように他者の魔力を複製する事が出来る特殊な魔力であれば、『氷鏡』を使役した事にも納得出来る。
「まあ、要検証だけどな」
「…そう、ですね」
 ミオンが俯いた時、扉がノックされ、会議の時間が迫っていると侍女が頭を下げた。
「もうそんな時間か…コータ様、申し訳ございませんが…」
「いや、こちらこそ長く引きとめてすまなかった」
 いってらっしゃいと手を振れば、ミオンは微笑んで行って参りますと部屋を出て行った。
 ため息と共に、ソファーに深く沈み込む。ちらりと静かなリィに目を向ければ、シングルソファーのクッションを寝床に健やかな寝息を立てている。その愛らしい姿にくふりと笑みを零し、テーブルに置いた透明な宝石箱をじっと見た。
「コピー…とも違うかな…?」
 もっと性質の悪いものでは無いだろうかと康泰は首を傾げる。
 何にせよ、制御する術を早急に身に付けなければ後々面倒な事になり兼ねないなと小さく唸った。
「さて、これをどうしたもんか…」
 箱を手に取り軽く振れば、からんからんと巻貝が狭い箱の中で踊る。
「ふむ…」
 箱の角を唇に押しつけ、考える。
 此方に来る事が出来る転移陣ならば、あちらに行く事は?
 康泰の唇が弧を描いた。
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