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旦那様は魔王様≪最終話≫
星降る夜に 2
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「お誕生日、ですか?」
シヴァのお膝抱っこから回避する術を見いだせないまま、さらに数日がたったある日のことだった。
ミリアムとお茶会をすると言ってシヴァの膝から抜け出した沙良は、自室にと与えられている部屋で、ミリアムからシヴァの誕生日について聞かされた。
「そ。もうじきお兄様の誕生日なのよ。お兄様ったらいっつも無頓着で、自分の誕生日に気づかないまま当日をすごしてるんだけど、今年は沙良ちゃんを奥さんに迎えてはじめてのお誕生日じゃない? 何かしないかしら?」
面白そうだから、という余計な一言は飲み込んで、ミリアムがにっこりと微笑む。
「シヴァ様、おいくつになるんですか?」
そういえばシヴァの年を知らなかったと思った沙良が何気なく訊ねてみたのだが。
「えっと。いくつだったかしら……。確か……、そう、三百四十六歳よ!」
「ぶーっ!」
沙良はミリアムの答えを聞いて、思わず紅茶を吹き出した。
「さ、さ、三百四十六歳なんですかっ」
「そうよ。だから沙良ちゃんとはぁ……、三百二十九歳差ね! きゃっ、年の差夫婦ね」
ミリアムもアスヴィルとは三百歳以上年が離れているのだが、それを棚に上げてぽっと頬を染めると、楽しそうにふふふっと笑い出す。
「……三百二十九歳差……」
沙良は何かに打ちひしがれたようにつぶやくと、紅茶を吹き出して汚したテーブルを拭きながら、「それは子ども扱いもされるはずだ」としょんぼりする。
「魔族って……、長生きなんですね」
「そうねぇ。千年以上生きる人もいれば、五百歳にもならずに死んじゃう人もいるから、人それぞれなんだけど。王族や七侯《ななこう》の一族は、たいてい長生きねー。きっと死に際がわからないのね」
「死に際がわからない……」
そんな言葉、はじめて聞いた。だが、これ以上知ると頭がパンクするかもしれないので、沙良は追及せずにおく。
それよりも、シヴァの誕生日だ。
「シヴァ様のお誕生日のお祝い、したいです」
沙良は今まで一度も誕生日を祝われたことがない。もちろん他人の誕生日を祝ったこともなく、はじめての誕生日パーティーにドキドキと胸を躍らせる。
シヴァに魔界に連れてこられてから、たくさんの「はじめて」をもらった。あのまま親元で生活していれば、きっと一生、一人ぼっちだっただろう。沙良はシヴァの誕生日に、改めてその感謝を告げたかった。
ミリアムはクッキーを口に運ぶと「どうしようかしらねー」と唸った。
「お兄様のことだから、誕生日パーティーをするって言ったら『余計なことはするな!』って言いだすと思うのよぉ。いっそ、サプライズパーティーにしちゃいましょうかー?」
「サプライズパーティー! シヴァ様をびっくりさせるんですよね?」
「そう。お兄様をびっくり……って、沙良ちゃん、なんだか嬉しそうね」
「シヴァ様がびっくりした顔って見たことがないです!」
「あー……、そうね。確かに。目を丸くしたりとか、微かに表情には出すんだけど、『わあ!』って感じで驚いたところは、わたしも見たことがないわねぇ。……あら、沙良ちゃん、もしかしなくてもお兄様を『わあ!』って言わしたいの?」
「はい!」
キラキラと瞳を輝かせた沙良に、ミリアムが困ったように柳眉を寄せた。
「あらぁ……。それはずいぶんと難易度が高いわよぉ? お兄様が『わあ!』。うぅん……、確かにわたしも見たいけど、うまくいくかしら?」
面白がってお菓子に媚薬を仕込んで沙良に食べさせたときも、怒りこそすれ、びっくりはしなかった。沙良にシースルーの夜着を着せて寝室に送り込んだときは驚いたと思うが、それでも沙良が『わあ!』と驚いたのを見たことがないと言うくらいだから、あの凝り固まった表情筋はたいして仕事をしなかったのだろう。
「どうやったら驚きますかね?」
「そうねぇ……」
沙良とミリアムは顔を見合わせて、うーんと首をひねる。
いつしか誕生日を祝うことよりも「驚かせる」ことに重点をおきはじめた二人は、この後、しびれを切らしたシヴァが「まだ終わらないのか!」と沙良を呼びに来るまで、シヴァを驚かせる方法について延々と悩み続けたのだった。
シヴァのお膝抱っこから回避する術を見いだせないまま、さらに数日がたったある日のことだった。
ミリアムとお茶会をすると言ってシヴァの膝から抜け出した沙良は、自室にと与えられている部屋で、ミリアムからシヴァの誕生日について聞かされた。
「そ。もうじきお兄様の誕生日なのよ。お兄様ったらいっつも無頓着で、自分の誕生日に気づかないまま当日をすごしてるんだけど、今年は沙良ちゃんを奥さんに迎えてはじめてのお誕生日じゃない? 何かしないかしら?」
面白そうだから、という余計な一言は飲み込んで、ミリアムがにっこりと微笑む。
「シヴァ様、おいくつになるんですか?」
そういえばシヴァの年を知らなかったと思った沙良が何気なく訊ねてみたのだが。
「えっと。いくつだったかしら……。確か……、そう、三百四十六歳よ!」
「ぶーっ!」
沙良はミリアムの答えを聞いて、思わず紅茶を吹き出した。
「さ、さ、三百四十六歳なんですかっ」
「そうよ。だから沙良ちゃんとはぁ……、三百二十九歳差ね! きゃっ、年の差夫婦ね」
ミリアムもアスヴィルとは三百歳以上年が離れているのだが、それを棚に上げてぽっと頬を染めると、楽しそうにふふふっと笑い出す。
「……三百二十九歳差……」
沙良は何かに打ちひしがれたようにつぶやくと、紅茶を吹き出して汚したテーブルを拭きながら、「それは子ども扱いもされるはずだ」としょんぼりする。
「魔族って……、長生きなんですね」
「そうねぇ。千年以上生きる人もいれば、五百歳にもならずに死んじゃう人もいるから、人それぞれなんだけど。王族や七侯《ななこう》の一族は、たいてい長生きねー。きっと死に際がわからないのね」
「死に際がわからない……」
そんな言葉、はじめて聞いた。だが、これ以上知ると頭がパンクするかもしれないので、沙良は追及せずにおく。
それよりも、シヴァの誕生日だ。
「シヴァ様のお誕生日のお祝い、したいです」
沙良は今まで一度も誕生日を祝われたことがない。もちろん他人の誕生日を祝ったこともなく、はじめての誕生日パーティーにドキドキと胸を躍らせる。
シヴァに魔界に連れてこられてから、たくさんの「はじめて」をもらった。あのまま親元で生活していれば、きっと一生、一人ぼっちだっただろう。沙良はシヴァの誕生日に、改めてその感謝を告げたかった。
ミリアムはクッキーを口に運ぶと「どうしようかしらねー」と唸った。
「お兄様のことだから、誕生日パーティーをするって言ったら『余計なことはするな!』って言いだすと思うのよぉ。いっそ、サプライズパーティーにしちゃいましょうかー?」
「サプライズパーティー! シヴァ様をびっくりさせるんですよね?」
「そう。お兄様をびっくり……って、沙良ちゃん、なんだか嬉しそうね」
「シヴァ様がびっくりした顔って見たことがないです!」
「あー……、そうね。確かに。目を丸くしたりとか、微かに表情には出すんだけど、『わあ!』って感じで驚いたところは、わたしも見たことがないわねぇ。……あら、沙良ちゃん、もしかしなくてもお兄様を『わあ!』って言わしたいの?」
「はい!」
キラキラと瞳を輝かせた沙良に、ミリアムが困ったように柳眉を寄せた。
「あらぁ……。それはずいぶんと難易度が高いわよぉ? お兄様が『わあ!』。うぅん……、確かにわたしも見たいけど、うまくいくかしら?」
面白がってお菓子に媚薬を仕込んで沙良に食べさせたときも、怒りこそすれ、びっくりはしなかった。沙良にシースルーの夜着を着せて寝室に送り込んだときは驚いたと思うが、それでも沙良が『わあ!』と驚いたのを見たことがないと言うくらいだから、あの凝り固まった表情筋はたいして仕事をしなかったのだろう。
「どうやったら驚きますかね?」
「そうねぇ……」
沙良とミリアムは顔を見合わせて、うーんと首をひねる。
いつしか誕生日を祝うことよりも「驚かせる」ことに重点をおきはじめた二人は、この後、しびれを切らしたシヴァが「まだ終わらないのか!」と沙良を呼びに来るまで、シヴァを驚かせる方法について延々と悩み続けたのだった。
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