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復讐しないと魔女の名折れ?
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「あはははははははは!」
メリーエルは腹を抱えて笑い転げた。
目の前にある大きな丸い水晶には、伯父が床に抜け落ちた髪の毛を拾い集めているのが見える。集めたところで髪が戻るわけでもないのに、恐慌状態のためか、そんなこともわからないらしい。
メリーエルは、魔法で姿を消したユリウスに、こっそり伯父のウイスキーの中に脱毛薬を混ぜさせていたのである。
シュピッケルの邸から戻って来て、一緒に水晶を覗き込んでいたユリウスは、眉間に皺を刻んで嘆息している。
「えげつないな……」
ついそう思ってしまうほど、水晶の中の伯父の書斎は阿鼻叫喚の図だった。
しかし、実の姪であるメリーエルは、同情は欠片も覚えないらしく、先ほどから抱腹絶倒である。
「さ、さすがわたし! 天才! 見事な抜けっぷりっ、あ、あはっ、あははははははっ」
メリーエルが笑いながらテーブルをバシバシ叩くものだから、先ほどから水晶が台座の上でガタガタと揺れていた。
水晶が映し出すシュピッケルの頭は、あれよあれという間につるつるピカピカになって、もはや髪の毛一本も残っていない状態。
永久の効果はないため、そのうちにまた髪は生えてくるだろうが、髪が元通りになるまで時間がかかるだろう。
メリーエルはひとしきり笑い転げたあとで、紙とペンを持って、薬の効果を書き留めはじめた。
しかし、しばらくペンを走らせたあとで、ふと水晶の中の伯父の頭を見て、メリーエルはプッと吹き出し、
「あーっ、無理! おかしすぎる、もうだめーっ」
あはははは――と再び笑い転げる。
ユリウスは思わず自分の髪をおさえて、実験台にされなくてよかったと心の底からホッとしていた。
「で、でも――ぷっ! これ……あはっ、どうしたら、いいの、かしら――あははははは!」
ひーっ、ひーっと涙を浮かべて笑いながら、メリーエルが手元にある小瓶を見る。その中にはシュピッケルに使ったのと同じ脱毛薬が入っていた。
どうやら伯父は、とうとう魂が抜けたようにその場に腰を抜かしてしまって、妻のロクサーナがおろおろしながら慰めているようだ。
これを見ている限り、笑いが止まらずに薬について考えられないと判断したメリーエルは、笑いながら水晶に映る伯父の姿を消す。
しばらくして、ようやく笑いがおさまったメリーエルは、小瓶をちゃぷちゃぷ揺らしながら、うーんと首をひねぅた。
「結構な効き目だったわよねー。量だけ調整するんじゃ、髪はやっぱり抜けちゃうよねぇ、あれじゃ……ぷくくっ」
「――俺は今、お前が悪魔の子に見える……」
「何か言った?」
「いや――」
メリーエルは、しゅぽんっと小瓶の蓋を開けると、中を覗き込み、それからユリウスに目を向けた。
「ユリウス――ちょっと」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃん!」
即答したユリウスに向かって、メリーエルは頬を膨らませる。
「聞かなくともわかる! どうせ、ちょっと舐めてみろとか言うつもりだろう! 断固として断る!」
「――ちっ」
メリーエルは小瓶い蓋をして、はーっと息を吐きだした。
「髪が抜けたら意味がないのよー、髪は残ってくれなくちゃー」
「そもそも飲み薬なんかにするから効果の出る場所を選べないんだろう……」
ユリウスはやれやれと肩をすくめると、もう夜も遅いし、馬鹿馬鹿しいから寝ると言って居間を出て行った。
部屋を出るときは暖炉の火と燭台の明かりを消してから出ろよ――と言いながら、ふわっと欠伸を一つして部屋を出て行ったユリウスに「おやすみー」と返しながら、メリーエルはもう一の小瓶を見る。
なるほど、確かに飲み薬にしたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
「つまり――、飲まなきゃいいのよ」
メリーエルはニヤリと笑うと、暖炉と燭台の火を消して、いそいそと魔法薬の研究室へと向かった。
そして、その夜のうちに飲み薬を塗り薬に改良したメリーエルは、ユリウスの寝室にこっそりと忍び込み、額の生え際のところに脱毛薬を塗り込んだのだ。
――そして、その翌朝。
「メリーエル―――――――!」
目を覚まして顔を洗おうと鏡の前に立ったユリウスが、生え際を見て怒り狂ったのは言うまでもない。
余談であるが、メリーエルの開発した脱毛薬は飛ぶように売れ、また、ユリウスのちょっと禿げた生え際は、その後ユリウスに怒られたメリーエルが泣きながら毛生え薬を開発して無事元通りになったのだった。
ちなみに、つるっ禿げになったシュピッケルはショックのあまり寝込んでしまったというが、もちろんメリーエルはこれっぽっちも同情しなかった。
メリーエルは腹を抱えて笑い転げた。
目の前にある大きな丸い水晶には、伯父が床に抜け落ちた髪の毛を拾い集めているのが見える。集めたところで髪が戻るわけでもないのに、恐慌状態のためか、そんなこともわからないらしい。
メリーエルは、魔法で姿を消したユリウスに、こっそり伯父のウイスキーの中に脱毛薬を混ぜさせていたのである。
シュピッケルの邸から戻って来て、一緒に水晶を覗き込んでいたユリウスは、眉間に皺を刻んで嘆息している。
「えげつないな……」
ついそう思ってしまうほど、水晶の中の伯父の書斎は阿鼻叫喚の図だった。
しかし、実の姪であるメリーエルは、同情は欠片も覚えないらしく、先ほどから抱腹絶倒である。
「さ、さすがわたし! 天才! 見事な抜けっぷりっ、あ、あはっ、あははははははっ」
メリーエルが笑いながらテーブルをバシバシ叩くものだから、先ほどから水晶が台座の上でガタガタと揺れていた。
水晶が映し出すシュピッケルの頭は、あれよあれという間につるつるピカピカになって、もはや髪の毛一本も残っていない状態。
永久の効果はないため、そのうちにまた髪は生えてくるだろうが、髪が元通りになるまで時間がかかるだろう。
メリーエルはひとしきり笑い転げたあとで、紙とペンを持って、薬の効果を書き留めはじめた。
しかし、しばらくペンを走らせたあとで、ふと水晶の中の伯父の頭を見て、メリーエルはプッと吹き出し、
「あーっ、無理! おかしすぎる、もうだめーっ」
あはははは――と再び笑い転げる。
ユリウスは思わず自分の髪をおさえて、実験台にされなくてよかったと心の底からホッとしていた。
「で、でも――ぷっ! これ……あはっ、どうしたら、いいの、かしら――あははははは!」
ひーっ、ひーっと涙を浮かべて笑いながら、メリーエルが手元にある小瓶を見る。その中にはシュピッケルに使ったのと同じ脱毛薬が入っていた。
どうやら伯父は、とうとう魂が抜けたようにその場に腰を抜かしてしまって、妻のロクサーナがおろおろしながら慰めているようだ。
これを見ている限り、笑いが止まらずに薬について考えられないと判断したメリーエルは、笑いながら水晶に映る伯父の姿を消す。
しばらくして、ようやく笑いがおさまったメリーエルは、小瓶をちゃぷちゃぷ揺らしながら、うーんと首をひねぅた。
「結構な効き目だったわよねー。量だけ調整するんじゃ、髪はやっぱり抜けちゃうよねぇ、あれじゃ……ぷくくっ」
「――俺は今、お前が悪魔の子に見える……」
「何か言った?」
「いや――」
メリーエルは、しゅぽんっと小瓶の蓋を開けると、中を覗き込み、それからユリウスに目を向けた。
「ユリウス――ちょっと」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃん!」
即答したユリウスに向かって、メリーエルは頬を膨らませる。
「聞かなくともわかる! どうせ、ちょっと舐めてみろとか言うつもりだろう! 断固として断る!」
「――ちっ」
メリーエルは小瓶い蓋をして、はーっと息を吐きだした。
「髪が抜けたら意味がないのよー、髪は残ってくれなくちゃー」
「そもそも飲み薬なんかにするから効果の出る場所を選べないんだろう……」
ユリウスはやれやれと肩をすくめると、もう夜も遅いし、馬鹿馬鹿しいから寝ると言って居間を出て行った。
部屋を出るときは暖炉の火と燭台の明かりを消してから出ろよ――と言いながら、ふわっと欠伸を一つして部屋を出て行ったユリウスに「おやすみー」と返しながら、メリーエルはもう一の小瓶を見る。
なるほど、確かに飲み薬にしたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
「つまり――、飲まなきゃいいのよ」
メリーエルはニヤリと笑うと、暖炉と燭台の火を消して、いそいそと魔法薬の研究室へと向かった。
そして、その夜のうちに飲み薬を塗り薬に改良したメリーエルは、ユリウスの寝室にこっそりと忍び込み、額の生え際のところに脱毛薬を塗り込んだのだ。
――そして、その翌朝。
「メリーエル―――――――!」
目を覚まして顔を洗おうと鏡の前に立ったユリウスが、生え際を見て怒り狂ったのは言うまでもない。
余談であるが、メリーエルの開発した脱毛薬は飛ぶように売れ、また、ユリウスのちょっと禿げた生え際は、その後ユリウスに怒られたメリーエルが泣きながら毛生え薬を開発して無事元通りになったのだった。
ちなみに、つるっ禿げになったシュピッケルはショックのあまり寝込んでしまったというが、もちろんメリーエルはこれっぽっちも同情しなかった。
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