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金色の蛇は魔女がお好き?
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時間は少し遡る――
朝からメリーエルの姿が見えないことに気がついたユリウスは、人の姿になってユリウスの腕に張り付いているナナリーを引きずるようにしてメリーエルの自室に向かった。
「お兄様っ! あの馬鹿女は寝坊しているだけよ! それよりもわたしと遊びましょう!」
なぜかメリーエルの部屋に向かおうとすればナナリーが決まって騒ぎ立てる。最初はただメリーエルを嫌っているだけかと思ったが、どうも様子がおかしい。
「あいつは睡眠よりも食い気だ。朝飯はなんだと言いながら起きてくるいつもの時間を、もう一刻もすぎている。もしかしたら、体調が悪いのかもしれないだろう?」
するとナナリーはちっと舌打ちした。
「つくづく色気のない魔女ね!」
「まあ確かに、色気よりも食い気だな」
「ああああっ、でも! もし風邪とかなら、お兄様に移ったら大変だわ! やっぱり起きてくるのを待っていましょうよ!」
「人間の風邪が龍にうつるわけないだろう」
「……そうだった。あいつ人間なんだった。ああっ、でも、風邪じゃなくても、なにか危ない病気かもしれないじゃない!」
「ナナリー」
ユリウスは眉を寄せて足を止めると、じっと従妹を見下ろした。
「お前、何か俺に隠し事をしていないか?」
ぎくりと肩を揺らしたナナリーは、ユリウスから視線を逸らす。
「何のこと?」
「いくらお前がメリーエルを嫌いでも、部屋に行くくらいでそこまで騒ぎ立てるのもおかしな話だ。――お前まさか、メリーエルに何かしたのか?」
ユリウスの声が低くなる。ナナリーは、なんだか、周囲の空気まで冷たくなった気がした。
だらだらと冷や汗をかきながらユリウスを見上げれば、その目は間違いなく怒っている。
「メリーエルに危害を加えるなと、俺は言ったな? ナナリー、メリーエルに何をした?」
ユリウスは怒ると怖いが、ナナリーはいまだかつて、ここまで凍りつきそうな怒りを向けられたことがない。彼女は真っ青になって、ぶんぶんと首を横に振った。
「なにも! わたしはあいつに危害なんて加えていないわ!」
「それではなぜ俺がメリーエルの部屋に行くのを邪魔をする?」
「それは……」
「ナナリー?」
「うぅー」
ナナリーは唸って、それから観念したように口を開いた。
「……部屋に行っても、魔女は部屋にはいないもの」
「なに?」
ナナリーはビクビクしながら、昨夜、メリーエルと交わした約束を語った。ナナリーが説明し終えると、ユリウスは眉間に指を当てて、はーっと盛大にため息をつく。
「あの、馬鹿。また魔法薬の材料に目がくらんだのか……」
おそらくだが、後先考えないメリーエルは、大蛇が本当にちょっと大きいだけの蛇だと思っているのだろう。
(ちょっと大きいくらいで、一角獣が国から出てこられなくなるはずがないだろう)
ユリウスはあきれながらも焦燥に駆られて、ナナリーに邸で留守番をしておくように告げると、急いで一角獣の国の入口にある洞窟へと向かった。
朝からメリーエルの姿が見えないことに気がついたユリウスは、人の姿になってユリウスの腕に張り付いているナナリーを引きずるようにしてメリーエルの自室に向かった。
「お兄様っ! あの馬鹿女は寝坊しているだけよ! それよりもわたしと遊びましょう!」
なぜかメリーエルの部屋に向かおうとすればナナリーが決まって騒ぎ立てる。最初はただメリーエルを嫌っているだけかと思ったが、どうも様子がおかしい。
「あいつは睡眠よりも食い気だ。朝飯はなんだと言いながら起きてくるいつもの時間を、もう一刻もすぎている。もしかしたら、体調が悪いのかもしれないだろう?」
するとナナリーはちっと舌打ちした。
「つくづく色気のない魔女ね!」
「まあ確かに、色気よりも食い気だな」
「ああああっ、でも! もし風邪とかなら、お兄様に移ったら大変だわ! やっぱり起きてくるのを待っていましょうよ!」
「人間の風邪が龍にうつるわけないだろう」
「……そうだった。あいつ人間なんだった。ああっ、でも、風邪じゃなくても、なにか危ない病気かもしれないじゃない!」
「ナナリー」
ユリウスは眉を寄せて足を止めると、じっと従妹を見下ろした。
「お前、何か俺に隠し事をしていないか?」
ぎくりと肩を揺らしたナナリーは、ユリウスから視線を逸らす。
「何のこと?」
「いくらお前がメリーエルを嫌いでも、部屋に行くくらいでそこまで騒ぎ立てるのもおかしな話だ。――お前まさか、メリーエルに何かしたのか?」
ユリウスの声が低くなる。ナナリーは、なんだか、周囲の空気まで冷たくなった気がした。
だらだらと冷や汗をかきながらユリウスを見上げれば、その目は間違いなく怒っている。
「メリーエルに危害を加えるなと、俺は言ったな? ナナリー、メリーエルに何をした?」
ユリウスは怒ると怖いが、ナナリーはいまだかつて、ここまで凍りつきそうな怒りを向けられたことがない。彼女は真っ青になって、ぶんぶんと首を横に振った。
「なにも! わたしはあいつに危害なんて加えていないわ!」
「それではなぜ俺がメリーエルの部屋に行くのを邪魔をする?」
「それは……」
「ナナリー?」
「うぅー」
ナナリーは唸って、それから観念したように口を開いた。
「……部屋に行っても、魔女は部屋にはいないもの」
「なに?」
ナナリーはビクビクしながら、昨夜、メリーエルと交わした約束を語った。ナナリーが説明し終えると、ユリウスは眉間に指を当てて、はーっと盛大にため息をつく。
「あの、馬鹿。また魔法薬の材料に目がくらんだのか……」
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(ちょっと大きいくらいで、一角獣が国から出てこられなくなるはずがないだろう)
ユリウスはあきれながらも焦燥に駆られて、ナナリーに邸で留守番をしておくように告げると、急いで一角獣の国の入口にある洞窟へと向かった。
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