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金色の蛇は魔女がお好き?
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(魔法薬の存在、すっかり忘れていたわー)
アロウンの口の中に小瓶を突っ込んだメリーエルは、ほくほくと笑った。
蛇退治用に、メリーエルは試験中の筋肉も脂肪も溶かしてしまう魔法薬を持ってきていたのだ。
アロウンが口の中にあふれた液体をごくんと飲み下すのを見て、メリーエルはニヤリとする。
しかしアロウンは、液体を飲み下した後、ぺっと瓶を吐き出すと、メリーエルに怪訝そうな視線を向けた。
「花嫁よ、いったい何のつもりなのだ?」
「え……」
「妙にまずい液体だったが、あれはなんだ」
薬が効きはじめるのには、十数分から三十分程度の時間がかかる。その間の誤魔化す方法を考えていなかったメリーエルは、だらだらと汗をかいた。
ちらりとユリウスに顔を向ければ、彼は「馬鹿だろう」と言いたそうな顔で額をおさえている。
「えっと、えっとぉ……」
何とか誤魔化そうとする者のいい案が浮かばずに困っていれば、ユリウスがやれやれと口を開いた。
「だから言っただろう、魔法薬の実験台にされるぞと」
「ユリウスっ」
どうしてばらすんだとメリーエルは悲鳴を上げたが、対して魔法薬を飲まされたアロウンは豪快に笑った。
「なるほど、あれが魔法薬か。だが残念だな、私にはきかないようだ」
可愛い奴だと言わんばかりによしよしと頭を撫でられて、メリーエルはぷくっと頬を膨らませた。アロウンを怒らせて殺されるのではないかという恐怖よりも、どうしてだろう、なんだか馬鹿にされているような気がする今の方が不服だ。
(何できかないのよ! 蛇にはきかないの? やっぱりユリウスでも実験しておけばよかった)
ユリウスが聞けば怒りそうなことを考えながら、魔法薬もきかないとなれば、やはりユリウスに助けてもらうしかないと、自称保護者をすがるように見つめる。
助けてーと視線で訴え続けていると、ユリウスは仕方がなさそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと片手を振った。すると、次の瞬間、彼の右手に一振りの剣があらわれる。
「こんなところで魔法なんて使えば、山火事になりかねないからな。やるならこれで相手をするが、できれば穏便に、そいつを返してほしいのだが」
「返すと思うか?」
「だろうな」
ユリウスはやれやれと肩をすくめながら剣を構える。
「メリーエル。かすり傷くらいは我慢しろよ」
「えっ、無理! むりむりっ! 痛いの無理!」
「我儘を言うな。もとはと言えばお前が悪いんだろう」
「ぎゃーっ」
メリーエルは悲鳴を上げて、アロウンの腕から逃れるために大暴れをした。このまま彼の腕の中にいては、ユリウスに切りかかられかねない。こいつはする、容赦なく切りかかってくる! かすり傷程度でも、あとでユリウスが直してくれたとしても、痛いのは絶対に嫌だった。
アロウンも、花嫁と呼んでいるメリーエルが傷つくのは忍びないのか、それともメリーエルを抱えたままユリウスの相手をするのが難しいのか、あっさりとメリーエルを解放した。
メリーエルは慌てて洞窟の岩肌に縋りつくと、びくびくしながら二人を見る。
ユリウスならあっさり助けてくれるだろうと期待していたが、これは思ってもみない方へ話が進んでいるようだ。
(ていうか、ユリウスがああいうだけ、アロウンって強いの?)
これはまずいかもしれない。もしもユリウスが負けたりしたら、メリーエルは強制結婚の末に蛇の子供を産まされるのだ。
(いやああああああ!)
メリーエルは頭を抱えて、心の中で必死にユリウスの応援をした。
周囲の森のことを思ってか、アロウンも魔法を使わずに、素手でユリウスの剣の相手をしている。
お互いが涼しい顔をしているので、本気なのか遊んでいるのかメリーエルにはさっぱり区別がつかなかったが、何でもいいからさっさとアロウンを退散させてほしい。
けれど、メリーエルの必死の願いも虚しく、二人の決着はなかなかつかず、不安を通り越して、メリーエルがイライラしはじめたとき、それは起こった。
大きく背後に飛びずさったアロウンが、ぐっと深く眉を寄せた。そのあと微かによろめいた彼の顔色が、明らかに悪くなっていく。
(ん?)
どうかしたのだろうかとメリーエルは首をひねった。
「まあ、そろそろだろうな」
そう言って、ユリウスが剣をおさめて、メリーエルのそばまで歩いてくる。
メリーエルが不思議そうな顔をしてユリウスを見え下れば、彼は苦笑した。
「何を不思議そうな顔をしている。薬を飲ませたのはお前だろう」
「え? でもきかないって」
「そんなはずはあるか。この前の脱毛薬だって、俺に効果が表れただろう」
「あ……」
メリーエルはハッとしてアロウンを見えれば、彼は光り輝くような美貌を苦し気に歪ませていたが、どうにも限界だったのだろう、メリーエルに向かって「諦めていないからな!」と告げるや否や、その場から脱兎のごとく駆け出した。
ポカンとした顔で彼がいなくなるまで見つめていたメリーエルは、「さて」というユリウスの冷ややかな声にハッと我に返った。
見れば、ユリウスは目の笑っていない笑顔を浮かべている。
一難去った後にもう一難が待ち受けていると知ったメリーエルは、身を翻して逃げ出そうとした。
けれども、メリーエルはあっさりとユリウスに捕まり、猫の子を掴むように首根っこを掴み上げられる。
「覚悟はできているんだろうな?」
果たして、アロウンの花嫁になるのとユリウスの大激怒を食らうのと、どっちがよかったのだろうかと、この時メリーエルは本気で考えた。
アロウンの口の中に小瓶を突っ込んだメリーエルは、ほくほくと笑った。
蛇退治用に、メリーエルは試験中の筋肉も脂肪も溶かしてしまう魔法薬を持ってきていたのだ。
アロウンが口の中にあふれた液体をごくんと飲み下すのを見て、メリーエルはニヤリとする。
しかしアロウンは、液体を飲み下した後、ぺっと瓶を吐き出すと、メリーエルに怪訝そうな視線を向けた。
「花嫁よ、いったい何のつもりなのだ?」
「え……」
「妙にまずい液体だったが、あれはなんだ」
薬が効きはじめるのには、十数分から三十分程度の時間がかかる。その間の誤魔化す方法を考えていなかったメリーエルは、だらだらと汗をかいた。
ちらりとユリウスに顔を向ければ、彼は「馬鹿だろう」と言いたそうな顔で額をおさえている。
「えっと、えっとぉ……」
何とか誤魔化そうとする者のいい案が浮かばずに困っていれば、ユリウスがやれやれと口を開いた。
「だから言っただろう、魔法薬の実験台にされるぞと」
「ユリウスっ」
どうしてばらすんだとメリーエルは悲鳴を上げたが、対して魔法薬を飲まされたアロウンは豪快に笑った。
「なるほど、あれが魔法薬か。だが残念だな、私にはきかないようだ」
可愛い奴だと言わんばかりによしよしと頭を撫でられて、メリーエルはぷくっと頬を膨らませた。アロウンを怒らせて殺されるのではないかという恐怖よりも、どうしてだろう、なんだか馬鹿にされているような気がする今の方が不服だ。
(何できかないのよ! 蛇にはきかないの? やっぱりユリウスでも実験しておけばよかった)
ユリウスが聞けば怒りそうなことを考えながら、魔法薬もきかないとなれば、やはりユリウスに助けてもらうしかないと、自称保護者をすがるように見つめる。
助けてーと視線で訴え続けていると、ユリウスは仕方がなさそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと片手を振った。すると、次の瞬間、彼の右手に一振りの剣があらわれる。
「こんなところで魔法なんて使えば、山火事になりかねないからな。やるならこれで相手をするが、できれば穏便に、そいつを返してほしいのだが」
「返すと思うか?」
「だろうな」
ユリウスはやれやれと肩をすくめながら剣を構える。
「メリーエル。かすり傷くらいは我慢しろよ」
「えっ、無理! むりむりっ! 痛いの無理!」
「我儘を言うな。もとはと言えばお前が悪いんだろう」
「ぎゃーっ」
メリーエルは悲鳴を上げて、アロウンの腕から逃れるために大暴れをした。このまま彼の腕の中にいては、ユリウスに切りかかられかねない。こいつはする、容赦なく切りかかってくる! かすり傷程度でも、あとでユリウスが直してくれたとしても、痛いのは絶対に嫌だった。
アロウンも、花嫁と呼んでいるメリーエルが傷つくのは忍びないのか、それともメリーエルを抱えたままユリウスの相手をするのが難しいのか、あっさりとメリーエルを解放した。
メリーエルは慌てて洞窟の岩肌に縋りつくと、びくびくしながら二人を見る。
ユリウスならあっさり助けてくれるだろうと期待していたが、これは思ってもみない方へ話が進んでいるようだ。
(ていうか、ユリウスがああいうだけ、アロウンって強いの?)
これはまずいかもしれない。もしもユリウスが負けたりしたら、メリーエルは強制結婚の末に蛇の子供を産まされるのだ。
(いやああああああ!)
メリーエルは頭を抱えて、心の中で必死にユリウスの応援をした。
周囲の森のことを思ってか、アロウンも魔法を使わずに、素手でユリウスの剣の相手をしている。
お互いが涼しい顔をしているので、本気なのか遊んでいるのかメリーエルにはさっぱり区別がつかなかったが、何でもいいからさっさとアロウンを退散させてほしい。
けれど、メリーエルの必死の願いも虚しく、二人の決着はなかなかつかず、不安を通り越して、メリーエルがイライラしはじめたとき、それは起こった。
大きく背後に飛びずさったアロウンが、ぐっと深く眉を寄せた。そのあと微かによろめいた彼の顔色が、明らかに悪くなっていく。
(ん?)
どうかしたのだろうかとメリーエルは首をひねった。
「まあ、そろそろだろうな」
そう言って、ユリウスが剣をおさめて、メリーエルのそばまで歩いてくる。
メリーエルが不思議そうな顔をしてユリウスを見え下れば、彼は苦笑した。
「何を不思議そうな顔をしている。薬を飲ませたのはお前だろう」
「え? でもきかないって」
「そんなはずはあるか。この前の脱毛薬だって、俺に効果が表れただろう」
「あ……」
メリーエルはハッとしてアロウンを見えれば、彼は光り輝くような美貌を苦し気に歪ませていたが、どうにも限界だったのだろう、メリーエルに向かって「諦めていないからな!」と告げるや否や、その場から脱兎のごとく駆け出した。
ポカンとした顔で彼がいなくなるまで見つめていたメリーエルは、「さて」というユリウスの冷ややかな声にハッと我に返った。
見れば、ユリウスは目の笑っていない笑顔を浮かべている。
一難去った後にもう一難が待ち受けていると知ったメリーエルは、身を翻して逃げ出そうとした。
けれども、メリーエルはあっさりとユリウスに捕まり、猫の子を掴むように首根っこを掴み上げられる。
「覚悟はできているんだろうな?」
果たして、アロウンの花嫁になるのとユリウスの大激怒を食らうのと、どっちがよかったのだろうかと、この時メリーエルは本気で考えた。
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