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金色の蛇は退屈している
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メリーエルが不在の間、留守を任された――と勝手に解釈している――アロウンは、居間のソファの上に寝そべりながら、ふわっと欠伸をかみ殺した。
退屈である。
ものすごく退屈だ。
「すぐに戻るんじゃなかったのか……」
アロウンの妻――にする予定――のメリーエルはいまだに戻らない。ささっとマリアベルに会って戻ってくると聞いていたのに、かれこれもう二日は経っていた。
メリーエル一人ならばいざ知らず、一緒にくっついて行ったのはユリウスだ。あの龍族の王子が一緒ならば、移動にだって時間はかからない。悔しいかなあの王子の力はアロウンと拮抗していて、なおかつ空が飛べてとても便利。行って帰るだけの弾丸旅行ならユリウスとともに行かせた方が早くて楽だろうからと、今回は素直に見送る側に回ったというのに。
「くそ、意地でもついて行けばよかった」
アロウンはメリーエルが気に入っている。メリーエルにちょっかいを出すのが大好きだ。彼女に会うまで、惰眠を貪りつつ腹が減ったときに適当に食事を取るだけの毎日だったが、メリーエルに会ってからは「積極的に彼女をいじり倒す」方へと興味が向いた。その興味の対象がいないのは――つまらない。
(太った女が好きなら太らせればいいだけだろう。人間って面倒くさいな)
利己主義なアロウンは、どうして他人の気持ちを考えるのかがわからない。太った女と結婚したいなら太らせればいいだけだ。単純だろう?
アロウンは「退屈だ」とぶつぶつと口の中で文句を言いながら目を閉じる。
しかし、昼寝が大好きなはずのアロウンだが、どうしてか眠る気になれずにすぐに目を開けた。
「あーくそっ、やっぱりただ待っているのは性に合わん!」
アロウンは居間から出て行くと、勝手にメリーエルの実験部屋に足を踏み入れた。確かこの中にはいろいろなガラクタ――アロウンにはがらくたにしか見えない――が入っていて、その中に大きな水晶があったはずだ。
「あったあった。やはり魔法がかかっているな」
アロウンは自分の手のひらよりも大きな水晶を抱え持つと、いそいそと居間に戻って、テーブルの上にクッションを置き、その上に水晶玉を据えた。
アロウンが手をかざせば、水晶玉は彼の魔力に反応して淡く光り出す。やがて、水晶にメリーエルの顔が映し出されると、アロウンは満足そうに笑った。
気が強いが抜けていて、無自覚にお人好し――放っておけば何をしでかすかわからないメリーエルは、見ていてとても面白い。そして、彼女の突飛な行動につきあってやりたくもあり、籠に閉じ込めてひたすら愛玩したくもなる不思議な娘。甘やかしてみたいが、いじめ倒してみたい気もする、とにかく見ていて飽きない女だ。
水晶の中のメリーエルは、何やら難しい顔をしていた。
(なんだ、このちんちくりんは?)
メリーエルの周りをパタパタと飛び回る蝶のような物体を見つけて、アロウンは首を傾げた。どうやら妖精らしいが、普段は人に姿を見せたがらない妖精が、どうしてメリーエルのそばにいるのだろう。
何か面倒ごとでも起こったのか――アロウンのその予測は、どうやら当たったらしい。
―――それって、お姫様は妖精の国に攫われたってこと!?
メリーエルの素っ頓狂な声が水晶の中から響いてきて――
「なんだって!?」
突然叫び声が聞こえたので振り返れば、ロマリエ王国、第三王子シュバリエが青い顔をして立っていた。
退屈である。
ものすごく退屈だ。
「すぐに戻るんじゃなかったのか……」
アロウンの妻――にする予定――のメリーエルはいまだに戻らない。ささっとマリアベルに会って戻ってくると聞いていたのに、かれこれもう二日は経っていた。
メリーエル一人ならばいざ知らず、一緒にくっついて行ったのはユリウスだ。あの龍族の王子が一緒ならば、移動にだって時間はかからない。悔しいかなあの王子の力はアロウンと拮抗していて、なおかつ空が飛べてとても便利。行って帰るだけの弾丸旅行ならユリウスとともに行かせた方が早くて楽だろうからと、今回は素直に見送る側に回ったというのに。
「くそ、意地でもついて行けばよかった」
アロウンはメリーエルが気に入っている。メリーエルにちょっかいを出すのが大好きだ。彼女に会うまで、惰眠を貪りつつ腹が減ったときに適当に食事を取るだけの毎日だったが、メリーエルに会ってからは「積極的に彼女をいじり倒す」方へと興味が向いた。その興味の対象がいないのは――つまらない。
(太った女が好きなら太らせればいいだけだろう。人間って面倒くさいな)
利己主義なアロウンは、どうして他人の気持ちを考えるのかがわからない。太った女と結婚したいなら太らせればいいだけだ。単純だろう?
アロウンは「退屈だ」とぶつぶつと口の中で文句を言いながら目を閉じる。
しかし、昼寝が大好きなはずのアロウンだが、どうしてか眠る気になれずにすぐに目を開けた。
「あーくそっ、やっぱりただ待っているのは性に合わん!」
アロウンは居間から出て行くと、勝手にメリーエルの実験部屋に足を踏み入れた。確かこの中にはいろいろなガラクタ――アロウンにはがらくたにしか見えない――が入っていて、その中に大きな水晶があったはずだ。
「あったあった。やはり魔法がかかっているな」
アロウンは自分の手のひらよりも大きな水晶を抱え持つと、いそいそと居間に戻って、テーブルの上にクッションを置き、その上に水晶玉を据えた。
アロウンが手をかざせば、水晶玉は彼の魔力に反応して淡く光り出す。やがて、水晶にメリーエルの顔が映し出されると、アロウンは満足そうに笑った。
気が強いが抜けていて、無自覚にお人好し――放っておけば何をしでかすかわからないメリーエルは、見ていてとても面白い。そして、彼女の突飛な行動につきあってやりたくもあり、籠に閉じ込めてひたすら愛玩したくもなる不思議な娘。甘やかしてみたいが、いじめ倒してみたい気もする、とにかく見ていて飽きない女だ。
水晶の中のメリーエルは、何やら難しい顔をしていた。
(なんだ、このちんちくりんは?)
メリーエルの周りをパタパタと飛び回る蝶のような物体を見つけて、アロウンは首を傾げた。どうやら妖精らしいが、普段は人に姿を見せたがらない妖精が、どうしてメリーエルのそばにいるのだろう。
何か面倒ごとでも起こったのか――アロウンのその予測は、どうやら当たったらしい。
―――それって、お姫様は妖精の国に攫われたってこと!?
メリーエルの素っ頓狂な声が水晶の中から響いてきて――
「なんだって!?」
突然叫び声が聞こえたので振り返れば、ロマリエ王国、第三王子シュバリエが青い顔をして立っていた。
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