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行商人は女好き
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カレンにとって予想外だったのは、アレクがそのあと、あっさりと引き下がったことだった。
宣言通り、美しい柄の反物は半ば強制的にプレゼントされたが、そのあとアレクは荷物を抱えて店を出て行ったのだ。
去り際、「またね」と言われたことが気になったが、今日たまたま会っただけの行商人と「また」があるはずはない。
ヨハネスとカレンも、土産用のショコラタルトを受け取ると帰途についた。
「……アレクとかいう人、変な人でしたね」
馬車の中でカレンがつぶやくと、ヨハネスがカレンが抱えている絹織物に視線を向けた。
「確かに妙な人だったけど、……何か引っかかるね。行商という割には荷物が少ないようだったし、たまたま売り払ったあとだったのかも知れないけど、それにしても……」
ヨハネスは何か気になることがあるらしく、「少し見せて」とカレンの手から反物を受け取ると、しげしげとそれを眺める。
「普通の反物だね。しかも相当高価なものだ。……変なものが仕込まれている様子はない、かな」
「変なもの?」
「毒針とか?」
「毒針!?」
驚愕したカレンに、ヨハネスは肩をすくめた。
「ああ、君が狙われるってことじゃないよ。ただ、君は殿下のそばにいるからね。殿下に渡されるものはすべて検品されるけど、君から渡ったものはそのまま殿下の手に渡ると考えられてもおかしくない。もちろん、君の身の回りものも、きちんと検査されてるよ? この反物も、いったんは預かることになると思う」
つまり、リチャードはいつ狙われてもおかしくない立場にいるということだ。
王族とはそう言うものだよとヨハネスは何でもないことのように言うが、カレンは「そうですね」と頷けなかった。
(そっか……、リチャード殿下も、大変なのね……)
いつも穏やかに微笑んでいるけれど、過去に何度、命を狙われたことがあるのだろう。
「わたし、不用意に受け取らない方がよかったんでしょうか……?」
いくらプレゼントだと強引に渡されたからと言っても、強く突っぱねた方がよかったのだろうかとカレンは不安に思ったが、ヨハネスは首を横に振った。
「大丈夫だよ。怪しいと思えば私やほかの人間が止めるし、なにより君が不自由用にしていたら殿下が悲しむだろうからね」
「だっらた、よかったです……」
頷きながらも、カレンはリチャードのそばでのんきに暮らしてきた自分に少し後悔した。リチャードは常に命を狙われる可能性がある。王族であるのはもちろん、彼は王位継承順位一位の第一王子。城の中に刺客が潜んでいるとまでは思いたくはないが、それでも常に自分の身の安全には気を配っていないといけない立場なのだ。
(……あれ? でも……)
リチャードはまだカレンが伯爵邸で暮らしていたころ、ロゼウスと二人で領地に視察に来ていた。命が狙われやすい立場なのに、不用心すぎやしないだろうか。
もっと言えば、いくら城の中だとはいえ、護衛もつけずに一人でうろうろしていることがある。舞踏会の夜もたった一人で中庭にいた。
「ああ、殿下はあれでかなりの武術の使い手だからね。ロゼウス殿も国では五本指に入るほどの剣士だから。確かに少し不用心かもしれないけど、四六時中護衛に張り付かれては疲れるだろう?」
カレンが不用心だと言えば、ヨハネスは何でもないことのように答えた。
「だから、殿下の身の回りで一番気をつけないといけないことは、刺殺ではなくて、毒殺だね。毒に体は慣らしているから多少の毒なら大丈夫だろうけど、さすがにね、不死身じゃないから」
ヨハネスは反物の表面をひと撫でして、青ざめているカレンに向かって、薄く微笑んだ。
宣言通り、美しい柄の反物は半ば強制的にプレゼントされたが、そのあとアレクは荷物を抱えて店を出て行ったのだ。
去り際、「またね」と言われたことが気になったが、今日たまたま会っただけの行商人と「また」があるはずはない。
ヨハネスとカレンも、土産用のショコラタルトを受け取ると帰途についた。
「……アレクとかいう人、変な人でしたね」
馬車の中でカレンがつぶやくと、ヨハネスがカレンが抱えている絹織物に視線を向けた。
「確かに妙な人だったけど、……何か引っかかるね。行商という割には荷物が少ないようだったし、たまたま売り払ったあとだったのかも知れないけど、それにしても……」
ヨハネスは何か気になることがあるらしく、「少し見せて」とカレンの手から反物を受け取ると、しげしげとそれを眺める。
「普通の反物だね。しかも相当高価なものだ。……変なものが仕込まれている様子はない、かな」
「変なもの?」
「毒針とか?」
「毒針!?」
驚愕したカレンに、ヨハネスは肩をすくめた。
「ああ、君が狙われるってことじゃないよ。ただ、君は殿下のそばにいるからね。殿下に渡されるものはすべて検品されるけど、君から渡ったものはそのまま殿下の手に渡ると考えられてもおかしくない。もちろん、君の身の回りものも、きちんと検査されてるよ? この反物も、いったんは預かることになると思う」
つまり、リチャードはいつ狙われてもおかしくない立場にいるということだ。
王族とはそう言うものだよとヨハネスは何でもないことのように言うが、カレンは「そうですね」と頷けなかった。
(そっか……、リチャード殿下も、大変なのね……)
いつも穏やかに微笑んでいるけれど、過去に何度、命を狙われたことがあるのだろう。
「わたし、不用意に受け取らない方がよかったんでしょうか……?」
いくらプレゼントだと強引に渡されたからと言っても、強く突っぱねた方がよかったのだろうかとカレンは不安に思ったが、ヨハネスは首を横に振った。
「大丈夫だよ。怪しいと思えば私やほかの人間が止めるし、なにより君が不自由用にしていたら殿下が悲しむだろうからね」
「だっらた、よかったです……」
頷きながらも、カレンはリチャードのそばでのんきに暮らしてきた自分に少し後悔した。リチャードは常に命を狙われる可能性がある。王族であるのはもちろん、彼は王位継承順位一位の第一王子。城の中に刺客が潜んでいるとまでは思いたくはないが、それでも常に自分の身の安全には気を配っていないといけない立場なのだ。
(……あれ? でも……)
リチャードはまだカレンが伯爵邸で暮らしていたころ、ロゼウスと二人で領地に視察に来ていた。命が狙われやすい立場なのに、不用心すぎやしないだろうか。
もっと言えば、いくら城の中だとはいえ、護衛もつけずに一人でうろうろしていることがある。舞踏会の夜もたった一人で中庭にいた。
「ああ、殿下はあれでかなりの武術の使い手だからね。ロゼウス殿も国では五本指に入るほどの剣士だから。確かに少し不用心かもしれないけど、四六時中護衛に張り付かれては疲れるだろう?」
カレンが不用心だと言えば、ヨハネスは何でもないことのように答えた。
「だから、殿下の身の回りで一番気をつけないといけないことは、刺殺ではなくて、毒殺だね。毒に体は慣らしているから多少の毒なら大丈夫だろうけど、さすがにね、不死身じゃないから」
ヨハネスは反物の表面をひと撫でして、青ざめているカレンに向かって、薄く微笑んだ。
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