43 / 46
隣国の王子は好敵手
5
しおりを挟む
チクチクチクチク―――
丁寧に絹織物の端を縫い合わせながら、カレンはふと窓の外を見た。
空は青くて、いい天気だが、今日は肌寒い。
「殿下、あったかくして行かれたかしら……?」
秋も深まって、もうじき冬になる。つい先週までは朝晩は冷えても日中はすごしやすかったが、今週に入って急に寒くなった。遠くに見える山の葉も、半分以上色づいている。
(季節の変わり目って風邪を引きやすいし……)
部屋の中にいる分はいい。暖炉に薪がくべられて、ぽかぽかと温かい空気に包まれているから。でも、リチャードは今日、外に視察に出かけている。
「カバーももうすぐ出来上がるし、ひざ掛けくらいだったら、この柄でも派手すぎないわよね?」
上着にするには少々派手だが、ひざ掛けならばいいだろう。絹だから温かいし、手触りが柔らかくなめらかだから気持ちいいはずだ。
カレンはクッションカバーのあとはリチャード用のひざ掛けを縫おうと決めて、せっせと針を動かしていく。
カバーの中に入れるクッションは、ロスコーネ夫人に言えばすぐに取り寄せてくれた。クッションを作ると言えば面白がって、午前中、勉強を早めに切り上げて一緒に針仕事をしてくれたのだが、その時のロスコーネ夫人の不器用さを思い出してカレンは吹き出した。
縫い目はがたがただし、針で指は刺すし――、なんでもそつなくこなしそうな夫人の欠点が裁縫だとは知らなかった。
聞けば、夫にハンカチの刺繍を頼まれても、いつもいびつなものが出来上がるそうだ。なぜかそのあとは、ロスコーネ夫人に刺繍を教えることになり、無地のハンカチにロスコーネ男爵家の家紋をひたすら刺繍した。
そして、数枚のハンカチが出来上がると、喜んだロスコーネ夫人が城下町の行きつけの店からマカロンを取り寄せてくれた。その華やかな包装紙に包まれた箱はテーブルの家においてあり、休憩のときにお茶と一緒にいただこうと思っている。
暖炉の火で沸かしていた水が、ぐつぐつと小さな音を立てている。加湿にもなって、お茶が飲みたいときはすぐに飲めて一石二鳥。カレンは実家にいたときから暖炉を焚いているときはこうして水の入った鍋を暖炉の上に吊るすようにしていた。
(これが終わったら休憩しようかしら)
カレンの部屋の棚には、たくさんの茶葉が並んでいる。リチャードにも煎れるから常に十数種類の茶葉がおかれているが、好きに飲んでいいと言われているので、カレンも好きな時に煎れることができる。
つい二週間ほど前にロゼウスに渡された新しいお茶――金木犀のお茶がカレンの最近のお気に入りだ。
茶葉はどれも高級品だろうが、茶葉をケチると入れたお茶が美味しくないので、そこは遠慮なく使わせてもらうことにしていた。
カレンはクッションカバーを縫い終えると、立ち上がって茶葉が並ぶ棚に向かう。
目当ての金木犀の茶葉を取り出しながら、ふと干したショウガがブレンドされたハーブティーが目に入った。
「殿下が帰ってきたら、このお茶を入れようかしら」
ショウガは体を温めてくれる。きっと体を冷やして帰ってくるだろうから。
ティーポットにお湯を注ぎながら、風がガタガタと叩いている窓を、もう一度見やった。
丁寧に絹織物の端を縫い合わせながら、カレンはふと窓の外を見た。
空は青くて、いい天気だが、今日は肌寒い。
「殿下、あったかくして行かれたかしら……?」
秋も深まって、もうじき冬になる。つい先週までは朝晩は冷えても日中はすごしやすかったが、今週に入って急に寒くなった。遠くに見える山の葉も、半分以上色づいている。
(季節の変わり目って風邪を引きやすいし……)
部屋の中にいる分はいい。暖炉に薪がくべられて、ぽかぽかと温かい空気に包まれているから。でも、リチャードは今日、外に視察に出かけている。
「カバーももうすぐ出来上がるし、ひざ掛けくらいだったら、この柄でも派手すぎないわよね?」
上着にするには少々派手だが、ひざ掛けならばいいだろう。絹だから温かいし、手触りが柔らかくなめらかだから気持ちいいはずだ。
カレンはクッションカバーのあとはリチャード用のひざ掛けを縫おうと決めて、せっせと針を動かしていく。
カバーの中に入れるクッションは、ロスコーネ夫人に言えばすぐに取り寄せてくれた。クッションを作ると言えば面白がって、午前中、勉強を早めに切り上げて一緒に針仕事をしてくれたのだが、その時のロスコーネ夫人の不器用さを思い出してカレンは吹き出した。
縫い目はがたがただし、針で指は刺すし――、なんでもそつなくこなしそうな夫人の欠点が裁縫だとは知らなかった。
聞けば、夫にハンカチの刺繍を頼まれても、いつもいびつなものが出来上がるそうだ。なぜかそのあとは、ロスコーネ夫人に刺繍を教えることになり、無地のハンカチにロスコーネ男爵家の家紋をひたすら刺繍した。
そして、数枚のハンカチが出来上がると、喜んだロスコーネ夫人が城下町の行きつけの店からマカロンを取り寄せてくれた。その華やかな包装紙に包まれた箱はテーブルの家においてあり、休憩のときにお茶と一緒にいただこうと思っている。
暖炉の火で沸かしていた水が、ぐつぐつと小さな音を立てている。加湿にもなって、お茶が飲みたいときはすぐに飲めて一石二鳥。カレンは実家にいたときから暖炉を焚いているときはこうして水の入った鍋を暖炉の上に吊るすようにしていた。
(これが終わったら休憩しようかしら)
カレンの部屋の棚には、たくさんの茶葉が並んでいる。リチャードにも煎れるから常に十数種類の茶葉がおかれているが、好きに飲んでいいと言われているので、カレンも好きな時に煎れることができる。
つい二週間ほど前にロゼウスに渡された新しいお茶――金木犀のお茶がカレンの最近のお気に入りだ。
茶葉はどれも高級品だろうが、茶葉をケチると入れたお茶が美味しくないので、そこは遠慮なく使わせてもらうことにしていた。
カレンはクッションカバーを縫い終えると、立ち上がって茶葉が並ぶ棚に向かう。
目当ての金木犀の茶葉を取り出しながら、ふと干したショウガがブレンドされたハーブティーが目に入った。
「殿下が帰ってきたら、このお茶を入れようかしら」
ショウガは体を温めてくれる。きっと体を冷やして帰ってくるだろうから。
ティーポットにお湯を注ぎながら、風がガタガタと叩いている窓を、もう一度見やった。
6
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる