魔王陛下の押し掛け女房~姉に押し付けられた縁談ですが、頑張って祖国を再興しようと思います~

狭山ひびき

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 城の中は自由に歩き回っていいそうなので、セシリアは午後から城の中を探検することにした。

 魔王城はグリモアーナ国が滅亡したあとで建てられたものらしいが、わずか十五年でこれだけ大きくて立派な城が建てられたものだと感心していると、リュシルフルの魔法で一瞬だったという。人間の中にも魔導士と言われる人間がいるが、魔族と人間では魔法のレベルが格段に違うそうだ。言わずもがな、魔族の方が圧倒的にすごい魔法が使えて、その中でも魔王は段違いなのだとか。……魔法に詳しくないセシリアにはピンとこないが、リュークが誇らしげに「リュシルフル様は世界一」というから、きっととてもすごいのだろう。

 ともかく、そのすごい魔王の魔法で作られた城はとにかく広くて、一人で歩き回ると確実に迷子になるだろうから、道案内をリュークに頼んだ。今日は城の一階を重点的に回る予定だ。

「こっちが大広間で、こっちがサロン、ずっと奥に大浴場があって、あっちには図書室。それからそれから」

 とっとっとっと軽やかに歩きながらリュークが一つ一つを説明していく。

「あっちの階段から地下に降りられるけど、地下には近づいたら駄目だよ」

「そう言えば魔王陛下もそんなことを言っていたわね」

 城の中を自由に歩き回っていいとは言われたけれど、リュシルフルは地下にだけは近づくなと言っていた。禁止されれば人間心理かちょっと気になるところだが、リュシルフルの機嫌を損ねるわけにはいかないので、わざわざ地下に下りようとは思わない。

 一通り城の中を回ったあとで、リュークが疲れたと言い出したから、一階のサロンで休憩をとることにした。サロンの窓からは庭の一部が見える。昼前に一度強くなった雨足は、今は穏やかになっていて、少し明るくなってきたから、そろそろ雨が上がるのかもしれない。

 サロンから窓の外を眺めていると、メイドがティーセットを運んできた。本当にこの城のメイドたちは親切だ。

「そう言えば、この国にいる魔族のみんなも、魔王陛下と一緒に封印されていたの?」

「そうだよ」

 リュークがあっさり頷くが、それはとてもすごいことではないのだろうか。なぜならリューク曰く、魔王陛下は世界で一番すごい魔法が使える存在で、魔族たちも人間より強い魔法が使えるという。その魔王と魔族たちを全員封じ込めてしまうなんて、普通の人間にはできないのではないだろうか。

 セシリアが首をひねっていると、茶請けに用意されているフルーツサンドを食べながらリュークが言う。

「馬鹿だよね。リュシルフル様と魔族たちを封印するために、千人の人間を犠牲にするなんてさ」

「え……?」

「だから、二百年前の王様だよ。リュシルフル様を封印するためだけに、国の人間を千人殺したんだ。大掛かりな黒魔術だよ。でも、千人じゃ二百年が限度だったみたいで、あっさり解けちゃったけどね」

「……ちょ、ちょっと待って!」

 セシリアは真っ青になった。

「魔王陛下たちを封印するために、罪もない人が千人も犠牲になったの!?」

「罪があるのかないのかは知らないけど、千人殺されたのは本当だよ。ママが言ってた。大きな穴の中に人を落として、生き埋め……」

「わー! ストップ!」

 なんだかとても恐ろしいことをリュークが言いかけたので、セシリアは慌てて待ったをかけた。血の気が引いて頭がくらくらする。想像してしまうから、これ以上は言わないでほしい。

(ご先祖様、なんてことをしたのよ!)

 娘可愛さに自国の民を虐殺するなんて、どっちが魔王かわかったものではない。

 リュシルフルは二百年前のことだから、恨みはないというが、本当にそうだろうか。

「……わたし、ここにいちゃいけない気がしてきたわ」

 自国民を大量虐殺して魔王たちを封印したグリモアーナ国の王の末裔。いくら能天気なセシリアでも、さすがにここに来たにはまずかったのではないかと思う。

(祖国の復興とか馬鹿だったわ。ここはこのまま、魔王陛下のおさめる魔族の国のままの方が、絶対に平和よね)

 万が一、この先の未来で同じようなことが起きないとも限らない。

(ハロルドには申し訳ないけど……帰ろう)

 帰ったあとで、湯水のように血税を使う母と姉に倹約を教え込んだ方がずっと健全だ。二人が言うことを聞くかどうかはわからないが、セシリアたちグリモアーナ国の王家の末裔はここに戻ってきてはいけない。

 セシリアがそう決意した時だった。

 ドーン! と大きな音がして、「キャン!」と鳴いたリュークがソファから転がり落ちた。
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