11 / 14
10
しおりを挟む
しばらくは黙々と朝ご飯を食べていたけれど、しーんという音すら聞こえてきそうなほどの静寂に、セシリアはとうとう耐えきれなくなった。
長ーいテーブルの反対側に座っている魔王陛下はずっと無表情で、ただ機械的に食事を口に運んでは咀嚼するを繰り返している。
セシリアの隣では、かきこむようにご飯を食べたリュークが、椅子の上で丸くなってうとうとしていた。満腹になって眠くなったようだ。
セシリアは口の中のパンをオレンジジュースで胃の中に流し込むと、意を決して顔を上げた。
「あ、あのっ、魔王陛下!」
大声で話しかければ、リュシルフルが無言で顔を上げた。
そのきれいな月色の瞳に、セシリアはぐっとひるむが、大きく深呼吸をして口を開く。
「きょ、今日は……」
「……」
「今日、は……」
「……」
「きょっ、今日は……今日はいいお天気ですね!」
「…………、雨が降っていたと思うが」
(ああああああああ! わたしのばかー!)
いくら話題が思いつかないからと言って「今日は何されるんですか」とか「よかったら今日、一緒にお茶しませんか」とかほかにもいろいろあっただろうに。なぜ天気の話題など振ったのだろう。ぶっちゃけ天気なんてどうでもいいが、こうなればやけくそだ。
「わ、わたし、雨が好きなんです!」
「へえ。変わっているな」
(ぐ……)
心底どうでもよさそうに返されて、早くも凹みそうになった。だがここで引き下がれない。少しでも魔王陛下とお近づきにならなくては。
「だ、だって雨が降れば、庭にお水をやる手間も省けるし、水不足にもならないじゃないですか。雨が降らないと大変なんですよ? 水が淀んで疫病が蔓延しちゃうし、畑の作物が枯れちゃって税収も落ちちゃうし、飢饉にもなるんです。だから雨は大切なんですよ!」
「……それはわかるが、雨の大切さを拳を握り締めて力説するような女ははじめて見たな」
「そ……そうですよねー」
みなまで言わずともわかっている。ええ、ええ、セシリアは姫らしくないですよ。姉のプリシラにも散々「品がない」だの「不出来」だの言われ続けたのだから、自分がおかしな王女であることは重々承知の上だ。
(ハロルド、やっぱりわたしじゃ無理があったんじゃないかなあ?)
セシリアは心の中で、頑張って魔王を落としてこいとセシリアを送り出したハロルドの姿を思い浮かべて、はーっと大きく息を吐く。
十七年間、社交もせず男っ気もなかったセシリアには、女嫌いの魔王の心を射止めるのは世界一高い山を登るよりも大変だ。無謀もいいところ。こういう時、微笑み一つで男性を虜にするらしいプリシラなら違ったのだろうか。残念ながらセシリアはプリシラが実際に男性を虜にしているところを見たことがないし、プリシラのような美人でもないから、その極意を真似しようもない。
打ちひしがれていると、リュシルフルが食事を再開しながら言った。
「雨が退屈だとうるさい女は知っているが、お前のような女の方が楽でいい」
果たしてそれは褒められているのだろうか。
セシリアはがっくりと肩を落とした。
長ーいテーブルの反対側に座っている魔王陛下はずっと無表情で、ただ機械的に食事を口に運んでは咀嚼するを繰り返している。
セシリアの隣では、かきこむようにご飯を食べたリュークが、椅子の上で丸くなってうとうとしていた。満腹になって眠くなったようだ。
セシリアは口の中のパンをオレンジジュースで胃の中に流し込むと、意を決して顔を上げた。
「あ、あのっ、魔王陛下!」
大声で話しかければ、リュシルフルが無言で顔を上げた。
そのきれいな月色の瞳に、セシリアはぐっとひるむが、大きく深呼吸をして口を開く。
「きょ、今日は……」
「……」
「今日、は……」
「……」
「きょっ、今日は……今日はいいお天気ですね!」
「…………、雨が降っていたと思うが」
(ああああああああ! わたしのばかー!)
いくら話題が思いつかないからと言って「今日は何されるんですか」とか「よかったら今日、一緒にお茶しませんか」とかほかにもいろいろあっただろうに。なぜ天気の話題など振ったのだろう。ぶっちゃけ天気なんてどうでもいいが、こうなればやけくそだ。
「わ、わたし、雨が好きなんです!」
「へえ。変わっているな」
(ぐ……)
心底どうでもよさそうに返されて、早くも凹みそうになった。だがここで引き下がれない。少しでも魔王陛下とお近づきにならなくては。
「だ、だって雨が降れば、庭にお水をやる手間も省けるし、水不足にもならないじゃないですか。雨が降らないと大変なんですよ? 水が淀んで疫病が蔓延しちゃうし、畑の作物が枯れちゃって税収も落ちちゃうし、飢饉にもなるんです。だから雨は大切なんですよ!」
「……それはわかるが、雨の大切さを拳を握り締めて力説するような女ははじめて見たな」
「そ……そうですよねー」
みなまで言わずともわかっている。ええ、ええ、セシリアは姫らしくないですよ。姉のプリシラにも散々「品がない」だの「不出来」だの言われ続けたのだから、自分がおかしな王女であることは重々承知の上だ。
(ハロルド、やっぱりわたしじゃ無理があったんじゃないかなあ?)
セシリアは心の中で、頑張って魔王を落としてこいとセシリアを送り出したハロルドの姿を思い浮かべて、はーっと大きく息を吐く。
十七年間、社交もせず男っ気もなかったセシリアには、女嫌いの魔王の心を射止めるのは世界一高い山を登るよりも大変だ。無謀もいいところ。こういう時、微笑み一つで男性を虜にするらしいプリシラなら違ったのだろうか。残念ながらセシリアはプリシラが実際に男性を虜にしているところを見たことがないし、プリシラのような美人でもないから、その極意を真似しようもない。
打ちひしがれていると、リュシルフルが食事を再開しながら言った。
「雨が退屈だとうるさい女は知っているが、お前のような女の方が楽でいい」
果たしてそれは褒められているのだろうか。
セシリアはがっくりと肩を落とした。
2
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。
再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。
妻を一途に想い続ける夫と、
その想いを一ミリも知らない妻。
――攻防戦の幕が、いま上がる。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる