魔王陛下の押し掛け女房~姉に押し付けられた縁談ですが、頑張って祖国を再興しようと思います~

狭山ひびき

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「つまりね、あれなんだよ。せっかく封印が解けたのに、リュシルフル様がいつまでたってもお妃様をむかえないから、みーんな困っているんだ。だからこの城のみんなはセシリアの味方だよ。押しかけ女房万歳、みたいな?」

 セシリアをダイニングまで先導しながらリュークが言う。

 王がいつまでも妃を取らないと困るというのは、人間も魔族も同じらしい。かつて魔王を封印したグリモアーナ国の王族の末裔であるセシリアは、これでも一応、魔族たちから邪険にされることを覚悟してきたのだが、そういう理由でまさかの大歓迎らしい。魔族と言うのは想像に反してずいぶんと寛大な性格をしているようだ。

「だからね、ぜひともセシリアにはリュシルフル様の心を射止めてほしいんだよね」

「そう言われてもね……」

 セシリアだってグリモアーナ国の再興を願われてここに来たのだから、魔王の妻の座を得たいところではあるけれど――、魔王、女嫌いらしいし。いっそ魔王らしく女好きで酒池肉林万歳的な性格をしていたらセシリアだってやりようがあったのかもしれないけれど、女嫌いの攻略方法はわからない。

(近づくなって言われたし。というか近づくなって言われたのに朝ご飯を一緒に食べてもいいのかしらね?)

 リュークの母レシティは「当たって砕けろ」と言うが、魔王を怒らせて真実この身が砕けたらどうしよう。

 能天気な性格だと言われるセシリアでも、昨日の今日でこれはまずいのではないかと思うのだ。

 それだというのにリュークは、ご機嫌で尻尾をふりふりしながらセシリアを先導中である。人の気も知らないで。

 真っ赤な絨毯が敷かれている長い廊下を進んでいけば、ドラゴンの彫刻がされた両開きの大きな扉の部屋の前にたどりつく。

「ここがメインダイニングだよ」

 扉の前に見張りがいなかったので、セシリアはごくりと唾を飲み込むと、扉に両手をかけた。重そうな見た目なのに意外と軽く、軽く押すだけで簡単に開く。

 メインダイニングだけあって室内は広かった。五十人は座れそうな縦に長いテーブルが部屋の中央にでーんとおかれている。一番上座にはすでにリュシルフルが座っていて、入ってきたセシリアを見て金と銀を混ぜたような月色の瞳をすうっとすがめた。

「何の用だ」

 機嫌が悪そうである。

(そうだよねー……)

 近づくなと忠告したのに、舌の根の乾かぬ内にその相手があらわれれば、それは面白くないだろう。

 それだというのに一緒にダイニングに入ってきたリュークは、テーブルの上に飛び乗ると、偉そうに後ろ足で仁王立ちした。

「朝ご飯を食べに来たんだよ! セシリアだったご飯が必要だからね!」

「…………そうか」

(ん?)

 怒ると思ったのに、リュシルフルはあっさり頷いた。

 リュシルフルには出て行けとは言われなかったし、リュークに座れと言われたので、セシリアは魔王から一番遠い席に腰を下ろす。

 遠くに座っているリュシルフルが、じっとセシリアを見つめた後で、何事もなかったように食事を再開した。

 セシリアの前に、耳やら尻尾やらが生えているメイドたちがやってきて、料理を並べていく。最後にトカゲのような尻尾を生やした青い紙のメイドが小さくウインクしたのが見えた。

(えっと……応援、されてるのかな?)

 この状況で、どうしろと。

 セシリアはほかほかと湯気の立つ朝食と、遠くのリュシルフルを交互に見比べて、とりあえず食べるかとフォークを手に取った。
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