ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission20 反撃完了②

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「ぐ……あ……ッ!」

速水沙々はその場で崩れそうになるが咄嗟に地面に刺したマチェットに縋る様にして膝を突いた。
──数瞬、その僅かな時が俺たちに勝利を与えてくれた。

「か、勝った……?あれ……?」

勝利による安堵からだろうか。視界がぐわんと大きく揺らぎ、俺はその場に倒れる。

「東条くん!」
「大丈夫……ちょっと疲れただけ……」
「ちょっとってレベルじゃないでしょう……」

皆もある程度身体が動く様になって来たのか倒れた俺の側へと寄ってくる。
皆は全員倒れた俺を心配しつつ、目の前にいるサイボーグの少女からの攻撃に備えて構えていた。

「ちっ……まさかやられるなんてな……」
「ああそうだ……勢いよく切ったけど大丈夫?」

俺がそう問うと彼女は一瞬「は?」という様な表情を浮かべた。

「……不思議なヤツだな、お前。自分を殺そうとした敵の心配をするなんて」
「そうかもね、ここ一ヶ月ほど見てきたけれど彼は超がつくほどのお人好しだから」

そう渚は言う。
彼女も元々俺たちを殺そうとした立場の人間だったが学園長や生徒会長のお陰で牢屋に入らずに対テロ戦闘員として俺たちの部隊ヴァイオレント・ノクターンの一員になっている。

「うん。それが東条くんを隊長に選んだ理由の一つでもあるからね」
「ええ……あまり自覚ないんだけどな……」

俺はそんなにお人好しなのだろうか。

「これでもサイボーグなんでな、出血抑制機能を搭載してるお陰で別に死にはしねえよ。まぁ、痛覚はあるからいてえけど」

彼女は俺に切られた腹の辺りをさすってはいるが出血はさほどない。
サイボーグというのは随分と便利な機能を搭載しているんだな、と感じた。

「まぁいいや、今回は帰るとすっか。志熊、帰ンぞ」
「ああ。今回はこのくらいにしておこうか」

そう言うと志熊は凛華との戦いを中断し、自身の鎧と剣を再びスライム状へと戻す。
そして速水沙々と共に倉庫から出て行った。
しかし二人の闘争を許さない人間がいた。

「逃がさない」

七菜さんだ。
彼女は闇夜に溶け込む様にして構えた狙撃銃の銃口を二人へと向け、二発の銃弾を放つ。

「おっと」

けれどそれは液体金属兵装を壁状に変形させた志熊によって遮られる。
それを見て、藍川先輩は一対の刃で彼に切りかかる。

「はっ!」
「させるかよ」

しかし咄嗟に彼女の目の前に出てきた速水沙々によってそれは防がれる。
刃とマチェットが擦れる金属音が聞こえてくる。

「志熊司……!イージスを裏切ったお前を……絶対に“断罪”してやる……!」

藍川先輩は速水沙々と鍔迫り合いの状態になりながらも速水沙々ではなく、志熊へと憎悪を含んだ視線を向けていた。
穏やかそうな平生の彼女からは想像もできない、恐ろしい目だ。俺は戦慄した。

「僕をここまで憎むなんてね、君もイージスに救われた身なのかな?」
「君“も”……?」
「おっと、なんでもない。それでは撤退させてもらうよ」

志熊がパチンと指を鳴らすとそれに呼応するかの様にして、プロペラ音が聞こえてくる。
前回彼らが撤退の際に使用していたティルトローターだ。
志熊はテンガロンハットの頭頂部を押さえながら機体の翼に飛び乗った。

「……お疲れ様です。志熊さん、沙々さん」

そう言って翼に乗っていた先客はぺこりと軽く会釈をする。
太刀花たちばな優希ゆうき──GR黒の部隊第三部隊隊長だ。
年齢は13、14くらいの少女だがGRの隊長の座に就いている。

「よっ、と……お前も来なくてよかったのかよ?」
「……メンドくさいですしね。まぁ、それにチップ持ちの相手はチップ持ちがするべきでしょ」

彼女は一度視線を俺と森に隠れている七菜さんへと向ける。

「いや?チップ持ちっつっても能力チカラは使えないみたいだったし、別にお前でも相手は務まったンじゃねえか?」
「能力が使えない?その割にはやられてるみたいですけど……」

少女の視線は速水沙々の腹へと向けられる。
服ごと腹の辺りを切られているのは彼女が敗北したという証左だった。
優希に指摘されて速水沙々はこちらへと瞳を向ける。いや、正確には凛華へと。

「……一人、メチャクチャ強いヤツがいたんだよ」
「メチャクチャ強いヤツ……?」
「“神殺しの少女”さ」

志熊の言葉に無表情な少女はその顔に微かに驚きを浮かべた。

「……それなら無理もないですね。そうだ、せっかくですし……」
「…………?」
「プレゼントします」

優希がおもむろに左手を挙げるとそれに呼応する様にして辺りにある車輌や植わっていた木々が宙に浮かび上がる。
そういえば彼女は“トラクタービーム”と呼ばれるものを武器として使用しているのだと聞いた。

「は?プレゼントって──」

言い終える前に彼女は手を振り下ろす。
その動作に合わせて宙に浮かび上がった車輌や木々やその他色々が俺たちへと勢いよく飛んでくる。

「うわっ!みんな、大丈夫!?」
「ええ……今のプレゼントは彼女たちが逃亡する隙を作るためだったのね……」

渚は遠い紺碧の空を睨みながらそう言った。
三人の乗っていたティルトローターは既に遠くへと行ってしまった。
どうやら先ほどの“プレゼント”は渚の言う通り彼女たちが逃げるための機会をつくるための行為だったらしい。
そのため、飛んできたもの全てが俺たちの目の前に叩きつけられただけで俺たち全員ともそれで怪我をしていない。

「……逃しちゃったね……」
〈しかしこれでこの作戦は終了したと考えてもよさそうだぞ。彼女たちも今さっき終わったところらしい〉

彼女たちに繋ぐ、と言って神崎さんは無線のチャンネルを変えた。

〈ああ。ちょうど先ほど片付いたところだ。君たちもよく勝てたな、流石だ〉

無線に出たのは湖城先生だった。

「凛華のお陰です。……それで、あの男は?」

俺がそう問うと彼女は一瞬間を置いてから〈……ああ〉と呟く様に言った。

〈自害した〉
「自害……って」
〈奥歯に毒を仕込んでいたらしくてな。しかし少しながら聞き出せたことはあるぞ〉

襲撃犯のボスである彼が自害したのは残念なことだが僅かでも情報を聞き出せたのならばいいことだ。
俺たちは彼女から両家襲撃の目的などについて聞かせてもらった。

「それで……男たちはマフィアと両家に不満を持つ人たちの連合だったんですか?」
〈その通りだ。そして男たちを雇っていたのは“ゼロ”という人物だった〉
「「……っ!」」

その人物名を聞いた瞬間に渚と藍川先輩は共にはっとした様な表情を浮かべた。

「ゼロが……?」

渚はそう呟く様な声で言った。
本当に夜風と共に流れていってしまいそうなくらいな小さな呟きだったが藍川先輩はそれを聞き逃さなかった。

「え?西郷さん、もしかして君も?」
「先輩……あなたもですか?」

俺たちにはゼロという人物が誰だかは判らなかったがこの二人だけはその人物について知っているらしかった。

〈おや、知っているのか〉
「はい……」
「……ええ、少しだけですけれど」

情報がないゼロというのに少しだけとはいえ二人は知っているのか。

〈そうか。ならばあとで少し話を聞きたい。それと……〉
「?」
〈蒼たちにも言ったがあとのことは大人に任せてくれ。君たちは家に帰ってゆっくり寝ていてくれ〉
「ああはい、判りました。それじゃお言葉に甘えて寝かせてもらいます」

ありがたい。できることなら今すぐにでも布団に飛び込みたいと思っていたところだ。
この家に泊まってから数回湖城家の布団で寝たが湖城家の布団は沈みそうなくらいに柔らかくて触れているだけでも疲れを吸収されて癒されそうだった。
名家というだけあって寝具にも拘っているのだという一面を垣間見ることができた。

「とにかくこれで終わった……んだよね?」
「はい、全部。七菜さん」

俺がそう答えると彼女は「そっか」と夜空を見上げる。
俺たちもそれに合わせて彼女の瞳に映されているものと同じものを見る。

「わぁ……」
「綺麗……」

その瞬間、俺たちはそれに目を釘付けにされた。
星屑をちりばめた紺碧の海……
心身共に疲れ切った俺たちはそれを見て、心が浄化される様だった。

「この町って田舎だから電灯とかもまだ少ないんだ。だから星が綺麗に見えるでしょ」

七菜さんの説明に俺たちは全員が静かに頷いた。
彼女の言う通り、これだけ綺麗な夜空は人工的な灯りのある都会の方では見られない。
俺たちはしばらくの間冷たい夜風に肌を撫でられながら星屑の浮かぶ夜空を見ていた。
その間、誰も言葉は発しなかったが皆が夜空に対し同じ感想を持っていたことだろう。
俺たちはしばらくして湖城家に帰る、その時まで夜空を見上げ続けた。
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