ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
82 / 92
六月

Mission6 indigo blade awaken

しおりを挟む
「オラオラオラァ!」

速水沙々は紅に輝く山刀やまがたなで次々と空に光芒を描いていく。
一撃一撃は大振りだが腕力を強化されているだけあって素早い。

「くっ……」
「速い……それに重い……!」

彼女は一人で俺とレイの二人を相手に白兵戦を仕掛けてきた。
本来ならば人数が多い方が有利なのだろうが違った。

「ホラッ、攻めてこねえと勝ちはこないぜッ!」

彼女の人間離れした高速移動にマチェットによる重い一撃、それは一人で多数を相手にできるものだった。

「はあッ!」

ベアはそんな彼女へとジャガーノートを振るう。
大振りで隙は多いが斧の先端の重量を活かした打撃は強力だ。
しかし──

「ムダだぜ」

斧の先端を左手の指で挟んだ。白刃取りだ。
刀と違い、重い刃を持つそれは勢いよく振られたらとても素手で受け止められる代物ではない。
けれど速水沙々はそれを受け止めてみせたのだ。

「なっ……」
「オラッ!」

そして右の手に握られた得物でベアを突く。

「あ……が……ッ」

鳩尾に柄頭を叩き込まれた彼女はゆっくりと倒れ、その場にうずくまる。
どうやら特殊繊維でできたこの制服でも衝撃を吸収しきれなかったみたいだ。

「ベアッ!」

レイは一度飛び退いて速水沙々との距離を離すと倒れたベアへと近付く。

「なんとか大丈夫ですわ……それよりも……」

彼女の視線の先は刃を交わし合う俺と速水沙々だった。
レイはその視線から察し、再び加勢する。

「外さない──」

俺たちが刃を交える中、慎重に狙い続ける者がいた。
渚だ。彼女は建物の屋上から速水沙々をスコープに捉える。
だが、

「っ!?消え──」

突然標的が照準内から消えた。
それに数瞬狼狽えた。

「よお」

その僅かな狼狽の間にターゲットが目の前に立っていた。

「なっ……!」
(この短時間であそこからここまで……!)

俺たちと白兵で戦っていた場所と渚の狙っていた場所まで数十メートルはある。
渚の目の前に立つ彼女は距離など関係ないとでもいうかの様だった。

「化け物じみた素早さね……」
「チップの力も使ってるしな」
「へぇ、やっぱりチップの能力って厄介ね……」

渚はゆっくりと狙撃銃は地面に置きつつそう言った。
そして──背中の鞘からナイフを抜き取り、速水沙々に切りかかる。

「ムダだって言ってンだろ」

しかし、神速と言っても過言ではない素早さを誇る彼女の前には無意味だった。
少女は自身の身体に当たる前にひらりと避け、渚の腹に蹴りを入れた。

「うぐ……っ」

鳩尾を蹴られ、鈍い痛みにその場に倒れる。
そんな彼女を見下ろす速水沙々のすぐ横にいくつもの銃痕が刻まれる。
森さんが乱射したのだ。二挺の拳銃のその口から一筋の煙が上がっている。

「外した……っ」

トリガーを引くが銃弾は放たれない。撃ち尽くしたのだ。
空の弾倉を抜き取り、新たなものに入れ替えようとした時だった。

「!」

一瞬にして目の前に彼女が現れた。
そして持っているマチェットの峰で森さんの首を打った。

「っ……」

そのまま糸を切られた人形の様に地面に倒れる。
ベア、渚、森さん……三人が僅かな間にやられてしまった。
そこで俺たちは気付いた。

──これまで彼女は本気を出していなかったのだ、と。

チップは武器の使用者の行動原理を感じ取り、力へと変える。
彼女の行動原理は俺たちを容易くねじ伏せるものだった。

「少しは期待してたンだけどな……残念だ」
「まだまだァッ!」

レイは刀を手に、速水沙々へと切りかかる。
仲間が三人やられたことに対する怒りを込めた一撃だ。

「え……」

しかしサイボーグの少女はそれを容易に回避してみせた。
そして森さん同様に首筋にマチェットの峰を叩きつけた。

「う……っ」

刀を手放し、倒れる。
そして速水沙々は唯一残った俺へと切っ先を向ける。

「あとはオマエだけだ、隊長サン」
「……ッ!」

圧倒的な力で俺たちを蹂躙した彼女は俺へと遠慮なしに歩み寄ってくる。
その余裕のある様子に脇差を握る手から汗が滲み出してきた。

「オマエを倒したら……全員楽に殺してやらないとな」
「くっ……」

守らないと、みんなを。
自然と手に力が入り、痛いほどに刃を握り締めた。

「ああああっ!」

なにも考えずに彼女へと向かっていく。
彼女はそんな俺の振るう刃をひらりと半身を逸らして避けた。

「少しは期待してたンだけどな……残念だよ」

そう吐き捨てる様に言うとマチェットを背中に向けて振るった。
瞬間、背中がじんわりと熱くなっていく。切られた、のだとすぐに理解した。

「ぐっ……」

特殊繊維さえも容易に切れる速水沙々、戦わずに逃げるべきだったかもしれない。
背からどろりとした鮮血が流れ出るのを感じつつ、俺も地に倒れる。

「……オマエも力がないからなにも守れない」

彼女は見下ろす様にして俺に言った。

「立ちはだかる壁を壊せねえ」

そして山刀の切っ先を俺の喉元に突きつけた。

「──信念を貫けない」

更に鋭利な先端を近付ける。
冷たい感触が微かに皮膚に触れる。

「……そうだね。力がなければ守りたいものも守れない」

彼女の言う通りだ。
脳裏にとあるイメージが思い浮かぶ。日常の壊れるイメージだ。
全てが崩れ去り、全てが血に染まり、全てが黒く塗り潰される……そんな風景だ。

「──取り戻したいものも取り戻せない」

その瞬間、脇差を手放しそうになっていた手に力が入る。
そしてゆっくりと身体に起こし、立ち上がる。

「オマエ……?」

速水沙々は機鋒を向けながらゆっくりと俺から距離を離していく。
俺は一度刃を空に向けて振るった。

「ありがとう。お陰で自分の行動原理を思い出すことができたよ」

刀身がゆっくりと淡い藍色に色付いてゆく。
更にプラズマを放って、バチバチという音を立てている。

「は、はは……そうだよ、それだよ!」

速水沙々は嬉しそうに言ってマチェットを構え直す。

「仕切り直しといこうか!死ぬまでり合おうぜ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

Amor et odium

佐藤絹恵(サトウ.キヌエ)
ファンタジー
時代は中世ヨーロッパ中期 人々はキリスト教の神を信仰し 神を軸(じく)に生活を送っていた 聖書に書かれている事は 神の御言葉であり絶対 …しかし… 人々は知らない 神が既に人間に興味が無い事を そして…悪魔と呼ばれる我々が 人間を見守っている事を知らない 近頃 人間の神の信仰が薄れ 聖職者は腐敗し 好き勝手し始めていた 結果…民が餌食の的に… ・ ・ ・ 流石に 卑劣な人間の行いに看過出来ぬ 人間界に干渉させてもらうぞ

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...