ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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六月

Mission7 scary smile

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得物を構え直した彼女は早速俺へと迫る。
サイボーグ化した彼女の脚力は凄まじく、地を一蹴りしただけで俺との間合いはあっという間に詰められる。

「ホラッ、攻めて来いよ!隊長サン!」

戦いに喜びを見出しているらしい彼女は狂った笑みを浮かべながら刃を振り下ろした。
一先ずそれを受け止めると素早く後ろに下がると刃を水平に振るった。

「ヘッ……やるな」

速水沙々はバックステップでそれを回避しようとしたが頬を脇差が掠めた。
湧き出た紅血が口元まで垂れてくるとそれを舌で舐めた。

「行くぜっ!」

再び彼女は肉薄してくると今度は斜めに山刀を振るってきた。
しかし冷静に身を引いてそれを避け、速水沙々へと得物を突き出した。

「ぐっ……ハァ……ハァ……」

──藍色に輝く刀身は彼女の腹を貫いた。
速水沙々は一瞬苦しそうに喘ぐもののすぐに俺の目を見て、にたりという笑みを浮かべた。

「……その顔、オマエもオレと同類みてえだな」
「……え?」

無意識に左手を顔にやった。一体どんな顔をしていたのだろうか。
彼女は満足そうに微笑みながら続けた。

「戦うことが生きがいで、日常生活じゃ充足されない欲望を戦うことで満たしてる……」
「なにを……?」
「いいや、なんでもねえ……よっ、と」

彼女はよっ、という掛け声と同時に身体を後ろにやった。
腹部には刃が突き刺さっている。そんな状態で勢いよく身を引いたのだ。

「う゛……痛えなぁ……」

当然彼女の腹からは血が泉の如く湧き出てくる。
けれどサイボーグである速水沙々の腹部から血はさほど出ていなかった。

「あ゛ー……出血抑制機能が付いててよかったわー。痛覚はあるから痛えけど」

腹をさすりながらそう言う。
そういや一ヶ月前のGWの時も彼女が似た様なことを言っていた記憶がある。

「まさかオマエが本気を出したら一瞬で終わるなんて思いもしなかったぜ」
「……これもチップのお陰、だね」

握っている得物の刀身をゆっくりと見た。
淡い藍色をまとった刃は徐々に輝きを失っていき、元の色へと戻った。

「あれ……?」

それと同時に一気に身体から力が抜けていき、その場に座り込んだ。
立とうにも立てない。戦いでたかぶっていた心が急激に冷めたからだろうか。

「……ま、とにかくこれで今度からチップのチカラを使ってり合えるな」

落ちたマチェットを拾い、切っ先を自身の左の掌へと向ける。
そしてゆっくりと押し込むとまるで刀身を飲み込む様にして消えていった。
得物をしまうための装置かなにかが入っているらしい。

「そんじゃま、オレの出番はここまでだな」

彼女はそう言うと地面を蹴り、跳躍する。
身体を機械に置換している速水沙々は跳ぶだけで近くの建物の屋根に乗った。

「じゃ、元気でな」

俺へと一瞥くれると彼女は歩いてその場から去っていった。
思わず追おうとしたが身体を動かした瞬間に全身が悲鳴を上げた。

「ぐっ……」
(想像以上に体力を使ったな……)

身体がキシキシと音を立て、地に倒れそうになるがなんとか堪える。
そして意識を失っている仲間の元へと鉛と化した身躯を引きずって歩み寄る。

「うっ、イテテ……大丈夫?ベア」

まず近くに倒れていたのは波打った茶髪を持つ少女だ。
無骨な斧を振り回せるとは思えないほどの華奢な身体を揺すると瞼をぴくぴくと動かした。

「んっ……終わったんですの……?」
「ああ勝ったよ」
「よかった……ごめんなさい、大して力になれなくて……」

申し訳なさそうに黄の瞳を伏せる。
しかしそんな彼女に対して俺は首を横に振った。

「そんなことはない。さっきのマカミ戦で活躍してくれたじゃんか」
「……ええありがとう。そう言ってくれて」

微笑みを作ると斧を手に立ち上がる。
鳩尾を突かれ少なからず痛みはあるはずだというのに彼女はそれを表情に出さずに気丈に振舞っている。

「痛た……遠慮なしに殴ってくれちゃって」
「大丈夫、レイちゃん?」

倒れていたベアを起こしているとレイと森さんが首筋を押さえつつ、歩いてきた。
そういえば彼女たち二人は先ほどの戦いで速水沙々に峰打ちで気絶をさせられた。
強化された膂力で、首を鉄の塊で打たれたら当然痛いだろう。骨が折れてもおかしくはない。

「森さん、レイ……二人とも大丈夫?」
「うん、冷静さを失ってた……」

三人気絶されられたことに対する怒りで彼女は無謀に速水沙々に切りかかっていった。
彼女は迂闊な攻撃だったと自省している様だ。

「やれやれ……あの子、遠慮なく蹴飛ばしてくれたわね」

建物の屋上にいた狙撃手はゆっくりと目覚める。
そして音もなくそこから飛び降り、俺たちの方へと歩み寄る。

「全く……処刑させて欲しいわ」
「寝起きから物騒だね、渚……」

こめかみに青筋を立てながら渚は笑みを浮かべながら言った。
滅多に見ない彼女の笑みは「どう殺してやろうか」とでもいう様な、殺意で塗り固められた笑みだった。
元殺し屋の彼女のことだ。放っておいたら本当に殺しかねない。それも甚振いたぶる様にして殺すだろう。

「…………」

俺の隣にいたレイがその肩を震わせた。
彼女は震えを押さえつける様に、掌を乗せた。

「ほら、物騒なこと言うからレイが怖がって……」
「……ううん」

長い金髪を左右に揺らしながら俺の言葉を否定する。
しかしその表情には僅かであるがなにかに対する恐怖が感じ取れる。

「……ヤマト、さっきまでの戦い……あたし、少しだけど意識があったんだ」

痛くて動けはしなかったけど、と付け加える。

「ヤマト以外全員倒れて……戦いの様子を見てた。そしてヤマトが勝った時、ヤマトすっごい怖い顔してた」

どうやら彼女が恐ろしいと感じているのは渚の殺意たっぷりスマイルではないらしく、俺らしい。
そんなに怖い顔をしていたのだろうか。

「え?そりゃあ……戦ってたんだから表情の一つも険しくなって当然──」
「ううん、違うの……」

レイは首を横に振る。
そして赤い唇を震わせながら、

「あの子を……ササを刺した時、ヤマト──」

ゆっくりと言葉を紡ごうとするレイ。
そんな彼女の肩はよく見なければ気付かないくらい微かに震えていた。

「──笑ってた」
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