守りたい、君のこと

SNOW❄️

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第3話「教室に流れる日常」

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教室の窓から差し込む朝日が、少し眩しく目に刺さる。
二学期が始まって数日。まだ夏の名残の暑さが、
教室の空気に溶け込んでいた。

 ユアトは机に肘をつき、窓の外を眺めていた。
校庭で部活の掛け声が響き、
軽く風に揺れる木々の葉が揺れる。
心は昨日の渡り廊下の出来事にまだ少し揺れていた。

 ――ユズホの拍手、あの笑顔……

視線を前に戻すと、
ユズホがミナと並んで話しているのが目に入った。
二人の笑い声は、教室のざわめきに溶け込んでいるけれど、
ユアトの心には確実に届く。

「ユアト、また見てたろ」

アオイの声で、現実に引き戻される。
お姉さん的存在の彼女は、眉をひそめつつも微笑む。
ユアトは慌てて視線を逸らした。

「な、何も見てねぇし」

「ふーん……嘘も方便ってやつね」

アオイは小さく笑い、ユアトの肩を軽く叩く。
その仕草だけで、なんとなく安心する。

そこへケンジが、例によってでかい声で割り込んできた。

「おーい!ユアト!また加西の方見てただろー!」

「ケンジ!うるせぇよ!」

ユアトが振り返ると、
ケンジはスマホを取り出しながらニヤニヤしている。

「昨日も一昨日も渡り廊下で加西と
二人きりだったって噂だぜ?お前、モテモテじゃん」

「うっ……それは、ただの相談だから!」

 アオイが苦笑しながら、ケンジに小声でつぶやく。

「もう、ケンジはやめなよ。ユアト困ってるじゃん」

「いいじゃん、青春だろ?ユアト、もっと堂々としてみろよ」

ユアトは顔を赤らめつつも、窓の外の青空を見て小さく息をつく。

 ***

一方、前方のユズホとミナは、
ユアトには聞こえない声で話していた。

「ねぇ、ユズホ。大久保くん、
最近ちょっとあんたのこと気にしてるよね?」

「え……?そうかな?」

 ユズホはペン先でノートを軽く叩き、顔を赤くする。

「うん、絶対見てるって。
ほら、昨日の渡り廊下の件もあるし」

「や、やめてよ……ただ相談されただけだし」

 ミナはにやりと笑い、髪をくるりと回す。

「まぁ、可愛い反応だね。
あんまり意識しすぎると、ユアトくん気づいちゃうよ」

「……そ、それは困る」

二人の小声の会話は、ユアトには届かない。
けれど読者には、
ユズホがほんの少し意識していることが分かる。

 ***

 昼休み。教室の空気は昼食の匂いと笑い声で満ちていた。
ユアトはアオイとケンジと机を囲む。

「なぁユアト、昨日の渡り廊下のことどうだった?
やっぱり拍手もらったのか?」

「そ、そんなわけねぇだろ」

ケンジはスマホを取り出し、
さもスクショでもあるかのように見せるふりをする。

「見せろよ、ほら!」

「うわ、やめろ!変な顔するな!」

 アオイはため息混じりに、
しかし笑顔でユアトの肩を叩く。

「……焦らなくていいんだよ。
別に恥ずかしいことじゃないんだから」

「……そ、そうかな」

 その声に、ユアトは少し安心する。
アオイはふっと微笑み、
まるで姉のようにユアトを見守っていた。

教室の前方では、
ユズホとミナが弁当を広げながら笑い合う。

ユアトの視線を意識してか、
ユズホがちらりとこちらを向く。

すぐに視線を逸らす様子が、
ユアトの胸をドキリとさせる。

 ミナは小声で、ユズホに向かって耳打ちする。

「ほら、見られてるよ。どうする?」

「……ちょっと、やめてよ」

ユズホは頬を赤くし、ペンで弁当箱の端を軽く押さえた。

 ***

 放課後。教室のざわめきが収まると、
ユアトは机に残り荷物をまとめる。
アオイが近づき、優しく声をかける。

「ユアト、無理に頑張らなくていいんだよ。
気になるなら、少しずつでいいから行動してみな」

「……うん」

 アオイの柔らかい笑顔に背中を押され、ユアトは深呼吸する。

 窓の外に沈む夕日が、教室を赤く染める。
静かな放課後の空気に包まれながら、
ユアトは心の奥でそっと決めた。

 ――俺は、どうしたいのか。

その答えはまだ出ない。
けれど、日常の中で芽生えた想いは、

確かに俺の、胸の奥にあった。
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