あの日、好きになったのは君でした

SNOW❄️

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番外編第1話 ハルカの気持ち

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私は、きっとあの人のことを、
「先輩」と呼ぶだけの存在だと思っていた。

最初に名前を知ったのも、
クラスの誰かが話しているのを偶然聞いたときだった。
大庭ユウト先輩。
どこか、周りの男子と
少し違う雰囲気を持っていて、
いつもどこかに影を落とすような、
でもその奥に柔らかい光を隠している人。

体育祭のダンスの練習が始まったとき、
私は少しだけ憂鬱だった。
人前に出るのが苦手で、
視線を集めるのが怖かったから。
でも、当日ペアになったのが
先輩だとわかったとき、
胸が少しだけ高鳴った。

それは緊張とも違う、
何かあたたかいものだった。

「お疲れ様でした」

踊り終わったあとの先輩の声が、
優しくて、でも少し震えていて。
あの一言だけを、
何度も頭の中で思い出してしまう。

……こんなふうに思い返すたびに、
私って変だなって思う。
だって話したことなんて、ほんの数回で。
きっと先輩にとっては、
私なんてすぐに忘れてしまう後輩だろうに。

でも、実習中にふと視線を感じて顔を上げると、
少し離れた場所でこちらを見ている先輩がいた。

あのときも、胸の奥がくすぐったくなった。
なのに、私は何も言えなかった。
ただ、視線を逸らしてしまった。

……臆病だなって、自分でも思う。
声をかければいいのに。
「こんにちは」って言えば、
それだけで少し変わったかもしれないのに。

六月の終わり、テストの前日、
昇降口で先輩を見かけた。
目が合って、一瞬だけ、
先輩の顔が柔らかくほどけるのを見た。

でも、私にはどうしても言葉が出なかった。
あのとき、ちゃんと笑えたらよかったのに。
ごめんなさい。
きっと先輩はがっかりしたんじゃないかって、
帰り道ずっと考えていた。

……私なんて、ただの一人の後輩で。
名前すらちゃんと
覚えてもらえているかも分からない。

それでも。
それでも、やっぱり、
先輩のことを考えてしまう。
朝の光の中に立っている後ろ姿も、
友達と話すときの、
ちょっと恥ずかしそうな横顔も。
どれも全部、少しずつ心に残っていく。

先輩は私のこと、どう思っているんだろう。
もう忘れてしまったんだろうか。
私のことなんて、気にしてもいないんだろうか。

……でも、信じてみたいと思う。
どこかで、少しだけでも心に残っていることを。
それが、きっと今の私にできる一番の勇気。

もしまた目が合ったら、
今度はちゃんと笑えるように。
ちゃんと声をかけられるように。

その日が来ることを、
心の奥で、ひっそりと願っている。
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