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黒い鳥も転ける①
しおりを挟む【side アオ】
仕事後の1杯を手に、倒れた人を眺める。
仰向けに倒れ、その時に倒れた観葉植物から、土がパラパラ床に流れ出ている。
「なんや最近あんま怖がらへんなぁ」
コクリと渋みが喉を伝う。
「この斧じゃあかんのか? やっぱ流行りの鎌か?」
斧を振り上げてみて、窓に映るその姿を確認する。
「結構イケとると思うんやけどなぁ」
この仕事は基本的に個人プレイ。
ひとりで向き合う。
だから自然と、独り言が増える。
ずっとブツブツひとりで喋っていて、異様だとは思う。けど止められない。
仕事が終わると自動的にその数が集計されるシステムになっているが、こちらからも報告をしなければいけない。と言っても、アプリの任務完了ボタンを押せば良いだけなのだが。
それにしても今日はアッサリ終わった。
もう思うようにしてくれと言うような人で。
死にたかったんやろか、なんて言葉を浮かべて「つまらんなぁ」と呟く。
「死ぬかもって、思うやろ? 俺が現れたらさぁ。もうちょっとこう、怖がらへん? 一応死神のプライド持ってやってんねん、怖がってほしいわぁ」
倒れた姿に、語りかける。
返してくれることは、ない。
ふと窓の外を見ると、洗濯物が2人分あるのが、わかる。
「同居人がおるんか……びっくりするやろなぁ」
その洗濯物の向こうに見える、まんまるの月。
満月の夜。
「月……綺麗やなぁ」
ボーっと眺めて、酒を飲んで。
『まだ仕事なん?』というサツキさんからのメッセージを開いた。今日もまた、家に帰ればサツキさんがいる。
「早よ帰ろ……」
明日は休み。飛ぶのも結構疲れるからいつもは電車で帰るけど。今日は飛んで帰ろうか。
月も綺麗だし。
サツキさんも待ってるし。
小瓶をローブに戻し、ゆっくり目を閉じた。
目を閉じて、眉間のあたりに意識を集中させる。すぅーっと息を吸い込み、カッと目を開いた。
その瞬間、何かが頭に当たり、「イテッ!」と思わず声を上げた。バルコニーに干してある洗濯物のハンガーが、風にゆらゆら揺られていて、それが頭に当たったようだ。
「ったく、もう少し正確に場所移動できたらいいのになぁ」
どれもこれも中途半端な気がする。
特殊なチカラ。
それを使って、高く、遠くに、飛ぶ。
バサリとローブを風にはためかせ、暗闇に、黒い鳥が飛んでいるかのように。
高く。遠くに。
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