19 / 75
服の中の痛み①
しおりを挟む【side 蓮】
「病院は行かんて言うたやん」
「やっぱ病院はあかんのですか?」
「あかん」
「なんで……不法滞在でもしとるんすか?」
「ちゃうわ」
「もう……じゃあモノだけ取りに行くわ」
腕は離さない。だってすぐ逃げそうだから。
救急外来の物品置き場に入る。
「あ、蓮先生お疲れ様ですー」
「お疲れっすー」
「どうしたんですか? え、誰ですか?」
「知り合いが怪我してさぁ、ちょっと道具持って帰ってええすか?」
「え、やだーそんなん私に聞かないでよ、なに持って帰るんですか?」
「んーーあ、ディスポのものだけ持って帰るわ、こっちで処理するから」
「私はなんも聞いてないですからねー」
絶対ダメなヤツだけど。
仕方ない。ごめんなさい、と心の中で懺悔して、メス刃、消毒を鞄に入れた。ガーゼやテープは家にあったはず。抗生剤も、家にあるので多分大丈夫だ。
「あのさぁ、手……離してくれへん?」
「逃げるやろ」
「逃げへんから」
「嘘やん、すぐ消えそう」
「捕まれとるの……痛いねん」
強く力が入っていたのか。
必死で逃げられないように腕を掴んで、ずっと連れて歩いていた。
病院から家に抜ける暗闇の公園を歩きながら、そっと、手を緩めた。
「やっぱ逃げるやろ……」
「どんだけ疑っとんねん」
「信じられる要素がどこにあるん」
「知らんわそんなん……」
静かな口調で、変わらぬやりとり。
埒があかない。
緩めた手で、するすると男の腕をなぞった。
こんなこと、男としたことなんてないけど。
逃げられるよりマシだ。
暑い日に、少しだけ冷たい指先を、キュッと握った。なぜか、ドキドキして、そんな自分の心の音の意味がわからなくて。ジッと前を見て歩いた。
「どんだけ信用ないねん」
「あるわけないやんか」
小さくそう言い合って。
手を繋いで、家に帰った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる