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運命論④
しおりを挟む【side 蓮】
朝、起きたら俺はいつものように、ベッドに大の字で寝ていた。
「……あ、れ……?」
隣にいたはずのアオが、いなかった。
狭すぎて寝れなかったかと部屋を見渡すも、そこには人の気配すら感じない。
「アオ……?」
帰ったのか。
やっぱり、そういうことなのか。
簡単に、アオの心が変わるわけじゃない。
アイツとアオの関係なんて知らないし、アオがどんな気持ちで昨日うちに泊まったのかも、知らない。
笑って眠りについて、ただ、穏やかな気持ちで朝まで呑気に寝ていた自分に、腹が立つ。
「くっそっ!!!」
枕をパフンと壁に投げつけ、鈍い音が、虚しい。
ガラガラと、ベランダの窓を開けた。
今日も暑い。
眩しい日差しに「アオって暑さで溶けそうだな」なんてどうでもいいことを考えて。
伸びをして「おわっ!!」と思わず声を上げた。
ベランダの脇にしゃがみ込んで誰かと電話をしていたのは、俺のヨレヨレの服を着たアオだった。
アオは俺に相変わらずの冷めた視線を送りながら、声だけは冷静に「うん、わかった」と答えている。
誰と電話なんだか。
アイツなのかと気になって、アオの隣に俺もしゃがんでみた。
全然聞こえない向こうの声。
「別にそんな決まりはないねんやろ?」
ウザがるように俺を肩で押しながら、その口調は変わらない。
「うん、……大丈夫やわ。だって結婚した人とかもおんねんやろ? いやぁーそれはできひんけどな! はははっ!」
声を上げて笑うアオに少し驚いて、なんだか少し悔しくなって。ピンとハネたアオの横の髪をくるくるといじる。
「わかったわかった大丈夫やから、仕事、今日入るなら早よ送ってや。うん、よろしくー」
ピッと電話を切ったアオはジーッと俺を見つめた。
「暑いわ」
ひとこと、アオはそう言って部屋へと逃げ込もうとして。
「アオーーー帰ったかと思ったわお前気配なさすぎやねんて!」
「知らんて!」
「毎回ビビるんやわ!」
後ろから追いかけて、アオの小さな背中を見て、頬が緩む。と、突然アオが立ち止まって俺は「おわっ!!」とアオの背中にぶつかった。
思わず腕を回してしまって、アオの髪が俺の顔に触れた。「ごめっ……」とすぐに離れようともしたが、俺は、なぜか離れられなかった。
カラダが固まったように動かなくなって。
いや、それはきっと言い訳で。
アオの小さな背中、サラサラの髪。
壊れてしまいそうな、細い肩。
それを腕の中に抱いて、離したくないと、思った。
「アオ……なんで急に止まるん」
「だって部屋狭いやんこれ以上歩いたら壁ぶつかんで」
「……可愛くないなぁ」
「いやなんの他意もないねんけど」
壊れてしまいそうな背中を、壊れかけたカラダを、守りたいと思って。そんな自分の心に戸惑って。
「可愛くなっ!!!」
「いや俺に何を求めてんねん!!!」
アオの肘打ちを腹にくらった。
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