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運命論⑤
しおりを挟む【side 蓮】
「なぁ……DV受けとる奴ってどうしたらええのん?」
「はぁ?」
職場で医師仲間に聞いてみた。
「シェルターやない?」
「でも本人も洗脳状態というかさぁ……抜け切らんのだよ……自分から戻って行くっていうか……」
「でも蓮先生のところには来るんだ」
「んー……昨日は来た……なぁ」
「家置いてきたの?」
「ん、仕事やって言うから一緒に家出たけど」
「それ、また戻るんちゃう?」
「え、今日も来るやんなって、確認して別れたけど」
「甘すぎやろーーー」
パソコンのオーダー画面をカチカチしていた医師仲間は、伸びをして言った。画面には、たった今入院してきた8ヶ月の男の子のデータが並ぶ。
また、忙しくなる。
この子に運命があるとするなら。
それは、長くはない。
「あ、やっぱ。出とるわ……厳しいわぁ……」
「移植かぁー……」
データを見て、治療を決める。
この子どもが、今の時代に生まれて、俺のいる病院に運ばれてきたことも、運命。ならそれを、意味のあることにしてやろうじゃないか。ココには、そういう奴らが集まっている。
「絶対治してやろう……」
絶対に治す、という同じ目指すべきところ。
真面目に、本気で、そう願う。
「オーダー、俺出しとくわ」
「それ終わったら蓮先生、帰ってええよ」
「明日から忙しくなんで?」
「はーーーい」
そう言われて俺は、パソコンに向かってオーダー画面と向き合った。
「あ、そうそう、蓮先生」
「んぁ?」
患者の様子を見に行こうとした医師仲間は、チラリと振り返った。なびく白衣が一瞬、アオの黒いあのマントを連想させて思わず、頬が緩む。
今度着てもらお、なんて呑気なことが浮かぶ。
「蓮先生、その子と関わるの、覚悟しないと蓮先生も危ないよ」
「危ない?」
「1番は専門家に相談すること。それができない事情は知らないけど。その子も相手も視界狭まってそうだし。助けてくれたって入れ込まれる可能性もある。それからわかってると思うけど相手から恨まれることも」
「……うん」
「でも、蓮先生のところに来てるのはやっぱり、なんかあるんだよ」
「……」
「蓮先生の世界に引き込んでやりなって、難しいこと考えないでさ」
俺の世界。
なんだそれは。
「それなんか言ってること矛盾してねぇ?」
「あ、バレた? どっちも大事ってことよ!」
「意味わかんねぇけど……ありがと」
ちゃちゃっとオーダーを入れてその場を立ち去りたいところだけど、間違えられないから計算機片手にじっくり考えてオーダーを出した。
「先生まだいるの?」
「もう帰るよー」
なんて病棟の看護師に通りすがりに声をかけられたりもしながら。
アオに無償に会いたくて。
俺は、急いで家に向かった。
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