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想②
しおりを挟む【side 蓮】
困った。
アオが突然俺の腕に触れて。
俺もアオを腕に抱いて。
この後、どうすればいい?
どうするんだっけ?
そもそも俺とアオの関係ってなんだ?
自然とじわじわ距離縮めてすんなりここまで来てしまって、ふと冷静に考えたら、おかしくないか!?
なんてドギマギが突然現れて。
今まで気にもしてなかったけど、アオは俺の好きな香りがしている。あの香水を、つけてくれているんだろうか。
胸元に当たるアオの息があたたかくて、少しくすぐったい。鼻には髪が当たって、これもまた少しくすぐったくて。
結局全身がくすぐったくて、どうしたら良いかわからない。
視線をずらすと、アオの細いカラダが見える。
それは俺の部屋着を着ていて、少し大きめのダボっとした服で。
女の子が彼氏の服を着たら可愛いと思うのと、今俺が感じるこのソワソワする感じは、なんだろう、違うのか? 同じなのか?
「アオ……?」
「ん……?」
「……おやすみ」
「……寝るん?」
「え……?」
アオの思わぬ返事にさらに心音が高鳴って。
俺の胸元にいるアオには聞こえているんじゃないかと思って。
「蓮、シャワー浴びてへんやん」
「は?」
さらなる思わぬ返事に、変な声が出た。
「そのまま寝るん、気持ち悪ない?」
「あー。シャワー、仕事場で浴びてくんねん」
「え、そうなん?」
「うん、病院て汚いんよ。シャワー室あるで浴びてきちゃう」
「そうなんや……」
どうでもよい会話を挟んでまた、静かになる。
「……寝る?」
「……うん……」
「アオは、シャワー浴びたん?」
「……うん。さっき……」
「動けた?」
「うん、もう結構、大丈夫」
アオの手が、俺のシャツをくしゃっと掴む。
その手が、何かを訴えている気になって、でもそれを俺はわからない。
「アオ……?」
「うん?」
腕の中からアオが不意に、俺を見上げた。
この上目遣い。
これがまた、俺を惑わす。
「……狭いな」
「うん。狭い」
「はっきり言うなー」
「だってくっついとらんと落ちんで」
「広い家……引っ越そか」
「いや、俺いつまでもココにおるわけやないやん」
「へ? 何言っとるん? 出てくつもり?」
「え?」
「あかんで?」
「いや蓮こそなに言っとるん?」
「お前は1人でおったらあかんのやって」
「いやだからって……」
「あかんて!」
思わず大きな声が出て。
アオの目が一瞬大きく見開いた。
そして俺はなぜか、ぐりんとアオを組み敷いて、そして見下ろしていた。
なんだ、この構図はなんだ。
「ここにおってや……出てったらあかんって」
いやいや俺は、なにを言っているんだ。
これは好きな女にいう言葉。
「蓮?」
でも俺を見上げる蓮の顔は、一瞬女なんじゃないかと思うほど、可愛くて、綺麗で。俺の心のドキドキは、最高潮で。
アオの手が、俺の頬に触れた。
「蓮……? なんか……」
「なに……?」
「……」
「え、無言……?」
「蓮が……おって良かった」
アオが、笑った。
それはちょっと恥ずかしそうで。
そんなアオの顔を見て俺の心が少し、穏やかになって。ドキドキが少し、おさまって。
「俺も、アオがおって良かったと思っとるで?」
アオの瞬きが、スローモーションに見えた。
意外と長いまつ毛が、ゆっくりと持ち上がって。
またグレーの瞳が、俺を捉える。
なんだろう。
この感じ。
俺は、どうしたんだろう。
この感情の意味を考えながら。
なぜか俺は、アオにキスをした。
柔らかい唇と。
驚いたアオの顔と。
目の前にあるグレーの瞳を見つめて俺が発したのは、アホな言葉だった。
「アオ……あー、この後……どうしたらいい?」
「は?」
アオが、ポカンと口を開けて俺を見上げる。
「なんでもない! やめよ、うん……ごめん」
慌ててゴロンと上を向いた。
チラリと隣を見て、俺をじっと見つめるアオと、パチンと目が合う。
「……なに?」
「……いや……別に」
「なんやん……」
「あー……まずは……治そ」
アオがモゾモゾと、俺の方に身体を向ける。
アオは、何も言わなくて。
ただ俺を見つめていて。
それがなんだか少し怖くて。
そして何より自分の言動にビビっていて。
キスした?
まずは治そって、治ったらどうするつもりだ?
なんつって、落ち着いたフリして心の中は忙しくて。
そんな俺にアオは、ギュッとしがみついた。
「……どしたん?」
「……こうしとかんと……落ちる……」
「……せやんな……」
何も言わないアオの細い腕の重みを感じて。
目を、閉じた。
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