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記憶③
しおりを挟む【side アオ】
あと30分。
サツキさんに与えられた時間が、あと30分であるということ。そして、連絡がつかないということ。
自分も報告がないからと何度もケイからメッセージが届いていたことがあった。
『スマホの電源も入ってへんねん』
だから本部が、焦っていた。
あんなんだけど仕事ができる人で、難しい仕事をしていた。
サツキさんの部屋のバルコニーに降り立ち、大きな窓から中を覗き込む。
暗くてよく中が見えない。
うっすら見える、真っ赤な部屋に影を探す。
「サツキさん、いる? サツキさん?」
俺は、窓をガンガン叩きながら叫んだ。
が、中で何かが動く様子は、ない。
俺は目を瞑り、ローブの力に念を込めた。
ここでも、使えるはずだ。
自分自身の内側から、ぶわっと風が吹き出す感覚と共に、部屋の中に入る。
目を開けると真っ暗で、真っ赤な部屋の中にいた。
「入るよ? サツキさん……?」
あたりを見渡し、パチンと電気をつけた。
と、そこに現れたのは、部屋の片隅の椅子で、あの絵をくしゃっと掴んだままジッと動かない、サツキさんの姿。
「え、……サツキさんいるんじゃないですか!」
「ん……アオか……」
その目は鋭くてしっかり俺を捉えていて、でも意識はどこか遠くにあるような、そんな気がした。
サツキさんと最後に会ったのは、数日前のあの日。サツキさんは、どうしていたんだろうか。
もう行くなと、蓮に言われていた。
蓮に嘘をつきたいわけではない。
蓮を裏切りたいわけではない。
これは仕事。
俺が動かなきゃ。
任務は遂行されないし。
サツキさんは、消える。
「なにやってんすか! スマホは!? 時間、あと30分らしいやないすか!」
「……」
黙ったままサツキさんは、動かない。
「何やってるんすか!! 消えますよ!?」
俺の叫び声は、全然サツキさんには届いていない。
「アオ……あの絵……」
「絵?」
サツキさんが手に握っていたのは、あのやけに雑な絵。そして、それを何度も何度も書き直したのか、少し何かを付け足されたような、微妙に違いがあるかないか、そんな絵が、何枚も描かれていた。
「これが……どうしたの……」
「誰やろ……この人、思い出しそうやねんけど、思い出せんくて……」
「は?」
「昔よく行った場所にも行ってみて……もう少しなのに、なんも思い出せん……」
「ちょ……何言っとるん……まず仕事やん!」
「そやねんけど……」
「サツキさん!! 行きますよ仕事! スマホ……充電……」
ベッドに投げられているスマホを充電器に繋いで電源を入れる。ウェルカムメッセージが、とんでもなく長く感じる。
「はやく……」
慌ててカチカチとタップして本部からのメッセージ画面を押す。
仕事の情報。
場所、近い。間に合う。まだ。
「サツキさん、とりあえず行こう! それから! 絵のことはそれから!!」
俺はサツキさんのローブと鎌を無理矢理持たせ、バルコニーに出た。
「行くよ? 飛んでよ?」
引き摺るようにサツキさんの脇を抱えて、俺は高く、高く夜空に飛び上がった。
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