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運命の時①
しおりを挟む【side 蓮】
遅い。
遅い、遅い。
眠いし何度かウトウトしたことも認めるけどそれでも、やっぱり心配で。
アオの帰りを、イライラしながら待った。
ベッドに横になったり。
専門書を読んだり。
風呂掃除をしてみたり。
全然落ち着かなくて。
窓の外に出た。
ベランダに手をかけ、外を眺める。
アオの部屋から見た夜景は、これでもかというほど綺麗で。遠くの光まで見えて。俺の部屋から見えるのは、道路挟んで向こう側の、隣のマンションの壁。
「引っ越してぇなぁ……」
引っ越すなら、あんな家がいい。アオの家みたいな。綺麗なマンションで、夜景が綺麗で。アイランド型のキッチンでアオが料理とかしちゃって、俺は料理はできひんから洗濯物でも畳もうか。
なんて想像をして、頭をぶんぶんと振った。
何を当然のようにアオを奥さん化しているのか。
アオも料理はできんかったわ。
いやそういう問題やなくて。
そもそも出会ったばっかりで。
知らないことの方が多くて。
「何の仕事してんねやろ?」
吸血鬼とか、死神みたいな格好して。
仕事って言っても依頼が来て仕事をするみたいで。定時とかなさそうな雰囲気。
本当にこの世に死神がいるなら。
アオみたいな容姿なら、見惚れてるうちに殺されてしまいそうだと思う。
いや、ということはサツキという男も死神仲間で、いやいやあの人には睨み殺されそうだなと、想像して笑う。
その時遠くに黒い鳥が一直線に降りてくるのが見えて、まるでコウモリのような飛び方をする鳥で。そしてどこかから、ふわりとあの香りがした。
「アオ……?」
思わずキョロキョロと見回して、誰もいなくて首を捻った。
その瞬間、ものすごい勢いで背後で音がした。
思わず振り返ると荷物を放り投げて走ってくるアオがいて。
「お、おかえ……おわっ……」
言い終わる前に、アオが俺に全力で抱きついてきた。
ベランダの柵に派手に背中を打ち付けて、ガゴンと音がして。でもそんなことは気にしていないのかアオはキツく俺を、抱きしめていた。
「ど……どした? アオ?」
アオは泣いているのか、ふるふる震えていて。
何かあったのかと心に不安が走る。
「蓮……会いたかった」
「なに? ……なんかあったん……?」
「思い出したかったこと……思い出してん……蓮のかざぐるまのおかげやねんっ!!」
「へ?」
「そしたらもう……蓮に会いたくてさぁ、急いで帰ってきた」
俺を見上げたアオの目は赤くて泣いた後なのかもしれないと思ったけど。今のアオは全然泣いていなくて、それよりなんだか嬉しそうな顔をして俺を見上げていて。
「おー、そうかなんや全然わからへんけど良かったわ」
「ごめん、仕事のことも絡んどるでうまく言えへんけど、蓮のおかげやん」
「ん? んーーなら良かった」
「蓮ありがとうー」
ぎゅうぎゅう痛いくらいに抱きしめられて。
嬉しそうに俺を見上げるアオがかわいくて。
「と……とりあえず部屋戻ろか? ココ、見られんで?」
「うん……」
「うん」と言いながらアオは全然動こうとしなくて。今度は俺の胸に顔を埋めて動かなくなって。「もしもーし?」とアオの背をポンポンと叩く。
「サツキさんが……ごめんて……」
「……え?」
「仕事やったんやで? 仕事で行ったんやけど、そこにサツキさんもおって。思い出せへんこと、サツキさんも絡んどって……あーなんやうまく言えんのやけど……」
「……うん」
「蓮みたいな人が、俺におって良かったって、言っとった……」
「うん……」
「早く言いたくて……蓮に」
多分少しだけ照れながら。
背中のシャツをギュッと握る手に、その心を感じながら。
「アオ……あの……可愛すぎるやろ……」
「え?」
不意に見上げたその顔は、ぼんやり月に照らされて。
初めて会ったあの日のように、綺麗に映し出される。
どんな偶然で出会ったのか。
どんな理由があって一緒にいるのか。
そんなことはわからないけれど。
アオが大切で、守りたくて、一緒にいたい。
ただ、その気持ちだけが、確かなことで。
月の光を浴びて。
アオの香りをめいっぱい吸い込んで。
その想いが伝わるように、熱い、熱いキスをした。
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