月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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イベント〜ファンの姿〜

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腹に響く歓声は、SUUが話しはじめて静寂となり、それがより朔良の心を張り詰めさせる。

「それではモデルの紹介をします。まず、朔良!」

スポットライトが、パッと朔良を照らす。
出演作品など簡単な紹介をされ、「じゃぁ朔良、ひとこと」と、マイクを渡される。

「ひとこと?」
「なんかほらファンの皆さんに」 
「えっとー……今日はお越しいただきありがとうございます。えー……初めてのイベントで、どんな感じになるのかわからない部分が多いのですが、楽しんでいただければと思います。今日はよろしくお願いします」

なんとか絞り出した無難な挨拶に、自分で苦笑いする。そしてそんな挨拶を終え頭を下げた朔良に、歓声が沸く。
 
歓声を浴びたこと、そもそもこんなにも注目されたことなんて、あっただろうか。何が起きているのか、目の前に起きていることが現実なのか夢なのか。朔良は顔を上げて、眩しさに目を細めた。



SUUに促されるように、順に挨拶を行い、トークタイム、ファンからの質問タイムなど、考える暇もなくそのスケジュールが進められていく。


「質問ある人いるー?モデルに直接質問できるなんてなかなかないよー?」
SUUの声に、パラパラと手が上がる。

「今夜、一夜を共にするなら誰と一緒にいたいですか?」

少しだけ明るくなる客席に、その顔が明らかになる。
ほぼ、女性。
男性は、いるのだろうか。

一夜を共にする質問。

を、した女性。
は、本当に、ごく普通の。
普通の、30代くらいの女性だった。

「えー?誰やろなぁー?」
「俺はやっぱ斗真だなぁ~ぜんぜん会えないもん」

即座に答える凌空に、会場が沸く。
「凌空と斗真のカップルを、みんな待ってる」
いつかそう言ったSUUの言葉を、朔良は思い浮かべていた。

「俺は朔良かなぁ」

突如呼ばれた声に、朔良は弾かれたようにその声の方を見た。その顔を見た斗真は、ニヤリと笑う。

「え、俺っすか?」
「いやいや朔良、マイク使って。家じゃないから」

思わずマイクを膝の上で握ったまま反応した朔良に、SUUが突っ込む。慌てて朔良はそのマイクを口元に移動した。

「こないだやったんよな? 朔良と」
「あぁ、やりましたね」

今度はちゃんとマイクを使う。
会場に響く自分の声に、違和感を感じる。

「それがな、普通じゃないんだよな? 設定的に? だから今度は、ふつーのエッチがしたい」
「ふつーのってどんなよ?」
「え? あっまぁーーいやつ」
「はぁー? お前、俺以外と甘いやつやろうと思ってんの?」

斗真の言葉に、凌空が口を尖らせ、それにまた、ファンが息を吐く。

「いやちょっと待てよ、こないだ凌空は櫂に恋してたじゃん」

すかさず弦が、凌空に斬り込む。

「いやだって櫂見て? 櫂、おっとこ前でしょ?」
「いやいや何言ってるんですか……」
「なんかもうさ、あれ? 俺、櫂のこと本当に好きなんかな?って思ったよねこんな顔で見つめられてみって!」
「え? まてまて朔良何大きく頷いとんの!?」
「いや、その気持ちわかります」
「朔良も櫂に恋しとんの!? え、じゃあ俺今フラれた!?」
「この2人、すげぇ仲いいんだよ、さっき朔良の髪、櫂がセットしてたなぁ?」

弦が、それぞれの関係をかき乱す。

「弦は誰よ?」
「えーー?誰かなぁー……SUUにでもしとく?」
「はぁー!?モデル限定やろ!」
「ダメ? えーじゃぁ…俺は櫂にしよっかな、絡んだことないから」

ニヤリと笑って弦は、櫂を指名した。

凌空と斗真というカップルがいて。
弦がそれをかき乱して。
そこに朔良と櫂が、新たな風を吹き込む。

SUUの言っていた、この3人に新人がどう絡んでいくのか。どう関係が変わっていくのか。

その意味が、少しわかった気がした。

そして朔良はまた、凌空の言葉に少し、安心していた。

「櫂のこと本当に好きなのかと思った」

本音なのか、リップサービスなのかは、わからない。
でも少なくとも、自分の感じた感情に近いモノを、他のモデルも感じると話している。

男に抱く初めての感情は、この仕事特有のことなんだろう。朔良はそう、心に落とし込んだ。


「じゃぁこのあとは手売り&握手会です。この5人で行った温泉旅。これを今、購入された方には、特典としてポストカードとサインをプレゼントします」


SUUの進行で、ファンが移動する。
温泉旅行のDVD。
先行手売り。

DVDには、5人が笑顔で映る、浴衣の写真。
これだけ見たらアダルトビデオには、見えないジャケット。しかしその裏にはやはり、絡みやキス写真が小さく載る。

DVDと共に渡されるポストカードには、櫂と朔良の夕日のキス写真や、弦と凌空と温泉での写真、凌空と斗真の岩場での写真など、それぞれのカップルが、あの日撮影されたものだった。

これを今目の前にいるファンが買っていく。
どうにも不思議な感覚が朔良を襲う。

KANが事前に精算をして、購入をする。それを持ち、モデルひとりひとりにサインをもらい、そして握手をする。

先ほど遠くにいて、こちらを見つめていた女性たちが、目の前にいて、話をする。この人たちは、ナニモノなのだろう。

『腐女子って知っとる?』と、KANが言っていた。
所謂、ソレなのだろうか。
この際、腐女子かどうかはどうでも良くて。

「朔ちゃん、デビュー作良かったよ」
「弦ちゃんとの絡みエロかった~」
「朔良くん、可愛くて好き」

そう言ってサインをもらっていくその女性たちは、本当に、普通にその辺にいる女性たちで、なんら変わった人たちでもなんでもなくて。

この人たちが、あの絡みを、自分たちの絡みを見ていること、そしてそれを好きだと言って会いに来ること、そして目の前で万札を払ってそのDVDを買っていくこと。

朔良には、それは、不思議な光景。
そのものであった。

「お願いします……」

一際小さな声でDVDを差し出す女性。

「ありがとう」

少し、対応にも慣れてきた頃。
練習してきたサインをして、顔を上げてソレを渡す。

また、普通の女性。
髪の長い、清楚な女性だった。

そっと差し出す手を、握る。
その女性の手は、小さく震えていて、緊張が伝わってきて。

「大丈夫?」

思わず、俯く彼女を覗きこむ。

「朔良くんのファンです……」

そう言って彼女は、ボロボロ涙を流した。

「え?」
「……好きです」

目を真っ赤にして涙を流す。小さく震える彼女に朔良は、「ありがとう」そう返すことが、精一杯だった。


隣には、櫂と、弦がいる。

同じように、泣き出す女性がいたり。
「わー久しぶりだねぇ元気だった?」まるで遠い親戚のように弦と話すファンもいて。

こんな自分に、涙を流す『ファン』がいること。

単純かもしれない。
バカなのかもしれない。
流されやすくて、影響されやすいのかもしれない。

でも、そんな彼女たちを目の前にして朔良は、素直に、返していきたいと、思った。

本業ではない。
ラクではない。
犠牲と恐怖と覚悟と。
そんなのがないと、やっていけないこの仕事。

金を払ってそれを買って、見てくれる人がいて。
そして、泣くほど好きだと言ってくれる人がいて。

何かが、弾けたような気がした。
あの撮影から渦巻いていた、気づかないふりをしてきた嫌な感情。

アレもこうして、買って見てくれる人がいる。

いい加減な仕事はできない。
ちゃんと、返していきたい。

長い長い列に、手が痺れるほどにサインと握手を繰り返しながら、朔良は、そう感じていた。
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