月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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イベント〜ファンてやつ〜

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「そろそろお時間となってまいりました」

SUUの声が会場に響き、閉幕が近づく。

「じゃあ朔良から挨拶をしようか」

マイクを渡され口を開いた。
そのとき、照明がパンッと落ちた。

真っ暗闇が、会場を包む。

「朔良ー!」
「「「お誕生日、おめでとうーっ!」」」

斗真の声が響き、それに、モデル、会場全ての声が重なり朔良に降り注いだ。

そしてパッと会場全体の照明が照らされ、目の前には大きな花束。そしてファンが持つ、『おめでとう』の書かれた大きな垂幕。

「え?」

パチクリと瞬きをした。

「え? え? 」

花束を持った弦が、朔良のキョトンとした反応を見てニヤリと笑う。

「ほら、朔良。20歳おめでとう」

色鮮やかな花束、そこから香る匂いが朔良の鼻を抜ける。

「朔良、なんか言うことは?」
「子どもか!」
「だって黙るから!」

SUUと凌空がマイクを通して会話する。
ファンが「おめでとうー!」と思い思いの声を投げる。

「えっとー……まじっすか……」

言葉が出なくて。
素直な心が言葉になる。

「あの、ありがとうございます。正直、朝から緊張していて……誕生日忘れてました。だから素直に、ビックリしてます」

先ほどまでの湧いた雰囲気とは真逆の、シンとした空気が広がる。

「こんなに多くの人に祝ってもらうことなんて多分、普通なくて、なんか、いろいろ悩んだりもしたんですけど、今日ここにいられて、良かったです。……ありがとうございます。いい20代に、したいです」

大きな拍手が朔良を包み、おめでとうの声が飛ぶ。
弦から手渡された花束の陰で朔良は、溢れそうな想いをグッと堪え、歯を食いしばった。





帰って行くファンを、見送る。

「また来るね」
「ありがとう」
「実物の方がカッコよくてビックリした~」
「ホントですか?ありがとうー」

ひとりひとり、帰って行くファンを見送り、ハグをする。

最後の1人を、送り出す。

会場の出口。
すぐ外に、出たばかりのファンが集う姿が見える。
そこはもう現実で、集うファンの周りを、道行く人が避けて歩く。

明るくなって、そして静かになった会場。
客席に座り、ぼーっとステージを眺める。

そこに自分が立っていたことが、いまだ現実のようには感じられない。

ドサッと朔良の隣に、弦が座った。

「どう?」
「なんか凄いっすね……」
「だろ? あの人たち目の前にすると、簡単には辞められんと思うよな」
「泣いてる人とかいて。え、俺だよ? って思った」
「な、ありがてぇよなぁ」

弦はそう言って、前髪をかき上げた。
周りでスタッフが、忙しなく動く。

「朔ちゃんプレゼント見た?」
「プレゼント?」
「いっぱい来とるで」
「え。見てないの?」
「なんすか?」

弦が徐に立ち上がり、控え室のある舞台裏へと歩く。
何も言わないその背中に、静かに朔良はついていく。

「朔ちゃんは弦ちゃんの弟子っつーか弟みたいやな」

後ろからKANがそれを見送り、小さく呟いた。



「え、なんすかこれ……」

そこには『朔良』と書かれた段ボールに、ラッピングされたナニかが大量に放り込まれていた。周りを見ると、『櫂』『弦』などそれぞれの名前の書かれた段ボールがあり、『斗真』と『凌空』に至っては桁違いなナニかが積まれていた。

「開演前にこの箱を置いとくんだって。そしたらファンが持ってきたもん入れるって」
「え、これ俺にってこと?」
「らしい……」

同じように、『櫂』の段ボールに積まれたソレを見つめながら、おそらく一足先にそこにいたであろう櫂が静かに話す。

「なにー? マジでなんなのこの世界……」
「ちょっとついていけないんですけど……」
「あははっ! ホントにな、すげぇんだよあの人たち」

段ボールから1通の手紙を手に取った。
綺麗な字で『朔良くんへ』と書かれた手紙。

そっと開くとそこには、ビッシリと文字が埋められている。

『この世界に入ってくれてありがとう』
『弦くんとの作品の表情が素敵でした』
『生きる支えになっています』
『ありがとう、また会いにきます』

そんなようなことが、文字となりそこにあった。

「え、俺らそんな感じなんすか」
「あの人たちにとってはなぁ……らしいよ」
「でもさぁ、俺、想像つかないんですけど」
「なにが?」
「あの人たちがあれ見てるんでしょ?」
「うん……」
「え、どんな顔して見てんのかなってさぁ……」
「いや、櫂! それは考えちゃいかん」
「とにかく見てくれてありがたいんだって」
「キュンキュンしてくれとんのや、とりあえず!」


なんとなく入ったこの世界で、3つの作品を創った。
1作目がまだ、世に出ただけで、そして今日、2作目が発売された。

ゲイの人たちに向けた作品だと思ってはじめた仕事。でも、そうではなくて。男同士を好む女性に向けた作品で。

その女性たちは、自分たちをどんな存在、位置付けとして見ているのか。朔良にはわからなかった。それでも、彼女たちにとってとても大切な存在としてモデルが存在している、それは、理解した。

あんな彼女たちを前にして、「簡単には辞められない」それは、痛いほどわかった。



「お疲れさまーお前らだけでイベントできるようになったんだなぁ」

その時後ろから聞こえた、聞き覚えのある声にピクリと朔良は反応した。そこには、あの日心底嫌いだと思った、JINがいた。

細身の身体にスーツを着て、眼鏡をクイッとあげる仕草を朔良は、睨みつけた。

「おー朔良、こえぇ顔すんなよ。その後ケツは大丈夫か? いい作品になりそうだよ」

カツカツと靴音を響かせJINは、朔良の肩にポンと手を置き、そしてそのまま斗真に近づいた。

「よかったな斗真、仲間が増えて」
「そやな」
「あれ? JINじゃないか」

1階の荷物を搬出し終えたSUUが、2階へと上がってきて、そしてそこにJINを捉えた。

「おぉ、SUU。なかなかじゃないか」
「だろ? だいぶお前には反対されたけど、なかなかやるだろこの子たちも」
「俺は今でも反対してるけどな」
「……相変わらずだな」

SUUとJINは、ニヤリと笑いながら、静かに言葉を交わす。そこには、いがみ合っているわけではないような、そんな空気があるように、朔良は感じた。

「JIN、何しに来たん?」
「ん? 激励だよ。本当はもっと早く来たかったんだが撮影が長引いてな」

そう言ってJINは、机にドンと、紙袋を置いた。

「お、いつもありがとなぁ」

SUUはそれを覗き込み、JINに言った。

「これからまた撮影だから失礼する。斗真、お前、いつも言ってること、忘れるなよ」
「わかってるよ」
「JIN、そこは任せてくれないか」
「おっと、すまんな。また来るよ」

JINはそう言って、カツカツと去って行った。

その後ろ姿を見送った弦は、「アイツ気分萎えさせる天才だな」と言って、ふっと笑った。

「存在があかんねんやアイツは」
「ハハッ俺らの天敵だからなっ」
「あーーーどっと疲れ出たわー帰ろーぜ早く」

んーっと伸びをして、凌空は立ち上がった。
それに、弦が続く。

座ったままの斗真の肩に、ポンとKANが手を置いた。

「大丈夫か?」
「ん、気にしてない」
「このまま大阪帰るん?」
「うん、仕事あんねん」 
「こっちの仕事やったら良かったのにな」
「ナニ基準やねん」

笑ってKANを見上げるその顔は優しくて、そして少し、寂しげに見えた。

大阪に帰るという斗真を駅へと送り、そして車は、横浜へと向かう。

イベントの高揚感と、JINの出現と斗真の表情に感じた違和感。

それを抱いて、朔良は櫂の隣で、眠りに落ちた。
櫂もまた、静かな寝息を立てる。

「疲れとんのやな」
「そら疲れるよ。初めてのイベントだもん」
「ファンからの手紙、読みながら寝たんだわ」
「あ、この人、俺のファンだって言ってた人だ」
「うわっ! ファン取られてる!」
「わー俺の時代終わったか」
「いやいや弦ちゃんの時代来てたかー?」

高速道路を走らせる。
朔良は遠くに、凌空や弦の声を聞く。

「本当にさ、ファンてやつは、ありがたいなぁ」
「そうだなぁ……あの人たちがいなかったら、成り立たないもんな」
「朔良の誕生日のサプライズもファンからの提案だろ?」
「あったかい人たちだよなぁ」

心地よい疲労感と、温かい声を遠くに聞き、朔良はまた一段と深い闇へと、意識を沈めた。
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