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fan side…
しおりを挟む『弦くん……あっ……』
『朔良、お前その顔エロいね~』
『だって……そんなんされたらダメだって……』
『あーーやべぇ……イキそ……』
ポータブルDVDプレイヤーに差し込まれたイヤホンから流れる、喘ぎ声。液晶には、絡み合う男たち。
ベッドについた腕は筋肉が隆起して、血管が浮き出る。ハラリと落ちる髪が、その瞳を隠し、揺れるたびに覗く瞳が、組み敷く相手を優しく見下ろす。
その視線の先には、大人びた表情をした、まだハタチ前の、男の子。切れ長の、いわゆる塩顔。色白のクールそうなその男性が、すがるように手を伸ばし、顔にかかる前髪に触れ、そして頬に触れる。
「やばっ……なにこの子……」
思わず漏れた声に、ハッとする。
『あーっイキそう……弦くんっ……』
『イカしてやるよ……』
揺れる下半身に刺激を与えられながら、しごかれるソレは赤く全身の血液を集める。
頬にあった手は腕に移動し、そして色が変わるほどに、キュッとそれにしがみつく。
「あっーーダメ、イクッーー」
少し高めの、甘い喘ぎ声がより一層大きくなり、映像が変わる。そこには、吐き出される薄くて水気の多い白濁の液。
その映像はゆっくりと吐き出したばかりの張本人の顔へと、移動する。目を瞑り、まだ押し寄せる波を感じる、その表情。頬を染め、唇を震わせたその表情は、まるで紫蘭の花のようだと思った。
その表情を捉えた映像が今度は、もう1人の男性に移動する。
『俺もイッていい? もう我慢できねぇや……』
その言葉と同時にまた、グラインドを始め相手にまた、刺激を与える。
『あーーっ……朔良……なぁ、朔良……』
『弦くん……』
『朔良……お前最高だよ……あーッーー』
ニヤリと笑って彼は、白い、トロリとした液体を、吐き出した。
耳から、イヤホンをスポンと外した。
スマホを取り出し、LINEを開く。
『見た?』
すぐさま、返信がくる。
『見た。なにあの子。朔良?』
『エロすぎない?』
『新人に思えなかったんだけど』
そして送られてくる、テレビ画面を撮った画像。
そこには、思わず「やばっ」と口にしてしまったあの場面。
『この時の弦ちゃんの嬉しそうな顔よ』
『あ、ほんとだ。朔良のエロい顔しか見てなかった』
『すっかり朔良に釘付けじゃん』
『朔良やばい……好きだわ』
カタンと、スマホを机に置いた。
窓の外に広がる闇。
そこから覗く、月を眺める。
丸い、大きな月。
彼らは、どこで、どんな生活をして、そしてこの作品を作っているんだろう。
自分が、腐女子だという自覚は、ない。
そもそも腐女子だという言葉もBLなんて言葉も、ほんの1年前に知った。
映画が好きで、ありとあらゆる映画を見ていた。
そこで出会ったのが、男性同士の恋愛を描いた作品だった。
男性同士だからこその、世間に理解されない世界だからこその切なさ、やりきれなさ、募る想い、それに、惹かれた。
周りにそれを理解してくれる人は少なくて、でも誰かと分かち合いたくて、SNSでそのコミュニティを築いた。ただ、ここが好きだなんだと想いの共有をしているだけ、それが、楽しかった。そのうち、そこで気の合う人が生まれた。個人的にやりとりをするようになり、そこで紹介されたのが、彼らだった。
『嫌ならスルーして。私最近これにハマってる』
そう言って、仲の良くなった子が送ってきた短い動画。それが、『凌空』と『弦』の絡みだった。
映画では絶対に描かれない。
SEXシーン。
あったとしても、イメージ映像レベル。
それを、細かに再現しているように思えた。
AVというより、映画のワンシーンを見ているようだった。
そこから彼らの作品を集めるようになった。
結婚して3年、子なし。アラサー。
旦那は帰りが遅い。
パートを終えて帰り、家事をしても、自分の時間はたっぷりある。
この年にして初めて、アダルトサイトへ登録した。
『18歳以上ですか』
それに応えるように、『Enter』を押してその入り口を潜ると、そこには、様々な彼らが、いた。
彼らをいつでも見ていたくて。
郵便局留めで、荷物を受け取る術を覚えた。
まさかリビングの大画面で見るわけにはいかず、ポータブルDVDを、購入した。
そして万が一の時のために、鍵付きのBOXを購入して、そこに彼らのDVDを入れ、そしてさらにそれを、衣替え用の衣装ケースに入れ、クローゼットの奥底へと、しまい込む。
まるで、アダルトな世界を覚えたばかりの、思春期男子のような、そんな自分に、静かに笑う。
こんな自分、誰が想像するだろう。
彼らの何に、こんなに惹き寄せられるのか。
『オフショ見た?』
『まだ見てない』
『弦ちゃんヤバイよ』
先程止めたばかりの映像に戻る。
本編を終え、オフショット映像へと切り替わる。
『おーつかれちゃーんっ!』
スタッフのKANさんの声と共にシャワールームから出てくる弦が映し出される。艶やかな焼けた肌に弾かれる水滴を、白いタオルで豪快に拭き取る。
『お疲れー』
『今日は新人やったけど、どうやった?』
『朔良? アイツ本当に新人?』
『わかるー! スムーズやったよな!』
『全然違和感なかったわ、んでアイツ、エロい』
そう言いながら、私服に着替える。
作品の中で着ていたものが、衣装だとわかる。
長めのブラウンのカーディガンが、弦らしい。
『いま何時?』
『え? 23時やな』
『やっべぇ店遅刻だわ』
『何時から?』
『23時。ほらめっちゃ電話きてるわー』
『まじでー!? はよ言うてや! 大丈夫?』
『大丈夫大丈夫、BGM要員だからいなくても店は回る』
『鍵もった? 財布は?』
『持った! あとなんか持ってきてたっけ?』
『鞄忘れとるやん!』
『あれ? 俺鞄もってきてた?』
『ほらーこれそーやろ?』
『おぉー俺もうボケ始めたかもしれん』
『はいはいはよ行きやー! お疲れさまー!』
『お疲れー。朔良もお疲れ。良かったよ、お前』
ニヤリと笑って、恐らくカメラを構えるKANの後ろにいるであろう朔良に声をかける。カメラの横を覗き込むように、弦は朔良に声をかけ、それは一瞬作品の中の、弦で。そして次の瞬間、「じゃあ!」と言って、扉を開けて出て行った。
「どこの店なんだろう……」
思わず、呟いて、机に突っ伏した。
なぜこんなにも、惹かれるのか。
それは彼らが、オフショットやライブで、作品とは違う、素の彼らを見せてくれるから、だろう。
誰よりも、その部分を見せているのが、弦くんだと思う。『店』で働く、そして彼はそこで時々『BGM要員』として働くらしい。
夜働く彼は、オフショットでいつも眠たそうにしていて、旅モノ撮影での道中は、いつも爆睡している。
テレビに出るアイドルや芸能人は、そこまで見せてくれない。素の彼らを見て、作品の彼らを見て、そこに彼らの生き様を見せつけられている気持ちにもなる。
そして今、弦くんと共に作品に現れた『朔良』という新人が、気になって仕方がない。クールな彼が見せる妖艶な姿。それに、惹きつけられる。
『イベント行く?』
『……行きたい、けど、こわい』
『いこーよ、私行くよ』
『まじ……ついに初イベント……考えとく』
そうは言ったものの、行きたかった。
行きたくて仕方なくて、実際の彼らに会ってみたくて。何度か行われたライブを見れば見るほど、朔良というクールな青年に惹かれた。本当にクールで、あまり笑わない。でも凌空や斗真、同じ新人の櫂に弄られ笑う彼は、とても可愛らしく見えた。そして作品の中の妖艶な彼。そのギャップが、堪らなかった。
*
待ち合わせて、イベント会場に入った。
「ねぇ、……私帰りたい……」
「なんで? ここまで来たのに」
「会うのこわいー緊張で吐きそう」
「実物やばいよ……マジでカッコイイから」
そうして連れられて指定された席について、開演を待つ。周りには、自分と変わらない女性たち。何も変わらない、普通の女性たち。この人たちが、あの映像を見ているのかと思うと、不思議だった。こんなにも、普通の人たちが。
恐らく上から吊るされていた幕が落ちて、そこには、モデルが5人、立っていた。
甲高い歓声が響く。
浴びるスポットライトよりも、彼らの放つ光の方が、眩しいと思った。
彼らから溢れ出る笑顔、こちらに向けるその瞳。それは本当に普通の、普通の青年、なのに眩しくて、眩しくて、思わず目を逸らした。
金を払い、新たなDVDを手にする。
アダルトビデオを手に、そこに出演するモデルの前に立つ。
「お願いします」
緊張で、それしか言葉にできなかった。
「ありがとう~」と、スラスラとサインをするのは、モデルのようなスタイルの櫂くん。
サインを書き終え、顔を上げた櫂くんと目が合った。
「ほんとにモデルさんみたいですね……」
「そう? 親に感謝だねー。遠くから来たんすか?」
「ううん、近く。家、都内だから」
「そーなんだ。じゃぁバッタリ会ったりするかもしれないすねー」
そう言って櫂くんは、あの可愛らしい笑顔で、にっこり笑って手を差し出した。そっと差し出した手を握る。大きな手は、あたたかかった。
そして、隣に立つとそこには、朔良くんがいた。
「お願いします……」
「ありがとう」
櫂くんの隣に、スラスラとサインをする。
サインを終えて、顔を上げた朔良くんは、ジッとこちらを見つめていて。その瞳は、クールな朔良くんで、言葉が出なくて。
「……朔良くんの、ファンです」
そう言って、なぜか私は、涙を流した。
言葉にできない、初めての感情。
作品の中の妖艶さとも、ライブで見せる可愛らしさとも違う。クールだけど優しさの溢れる青年が、そこにはいた。
「朔良くんが、好きです」
震える私に、きっと朔良くんも、戸惑っていたのだろう。
「ありがとう」と言った彼の声も、少し、震えていたような気がした。
差し出された手を握る。
恐らく、震えていた私の手を包み込むように、そっと握ってくれた。
「なんか、ごめんなさい……」
涙の止まらない私を前に、きっと彼は困っていて、でも朔良くんは優しく笑った。
「大丈夫、大丈夫。ありがとう」
そう言って、強く、手を握ってくれた。
そして帰り、1人ずつ、向き合ってお見送りをしてくれる。
一言話して、そして、ハグをする。
「泣いちゃってごめんなさい」
「ハハッまた謝ってる」
「だって……」
そっと、彼に包み込まれる。
そんなに大きくないカラダ。
でもやはり、彼は男の子で、しっかりした骨格と、筋肉を感じて、ドキッとする。
「大丈夫、大丈夫。また会いに来てください」
耳元で囁くその声に、倒れそうになる。
何も言葉にできなくて、コクコクと頷いて、そして、彼から離れた。
彼の温もりと、『大丈夫』『また会いに来て』という声が、今でも、忘れられない。
『櫂……好き……好きだよ櫂……』
『朔良……』
『櫂……もっと、もっと突いて……』
「やばっ……」
イヤホンから流れる喘ぎ声に、思わず足をジタバタさせる。
あの日、「大丈夫」と言って握り締めた手。
「また会いに来てな」と囁いて、包み込まれた、あのカラダ。
それが今目の前で、絡み合っている。
クールで普通の男の子が見せる、エロい世界。
「マジで、なんでこの世界にいんのこの人たち!」
思わず大きな声で叫んだ。
ピコンとスマホが光る。
絶対に見逃してはいけないこの連絡。
『今から帰る』
この連絡を合図に、私は、日常に戻る。
静かに、それらを片付ける。
旦那が開けることのない、自分のクローゼットの奥底に、そっと彼らを押し込んだ。
きっと彼らも今頃、彼らの日常を送っていて。
『朔良』ではない彼の日常があって。
窓の外に光る、月を見上げる。
この月の下で、彼は何を想い、どんな生活をしているのだろう。
そんなことを考えている時間が、ただ、幸せで。
こんな時間が、ずっと続けばいいのにと、思う。
ずっと、ずっと。
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