月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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距離(前編)

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『朔ちゃんと櫂、評判ええで』

イベントで、全員と連絡先を交換し、グループで会話できるようになった。

KANからのメッセージが入る。
斗真は地下鉄に揺られ、フッと笑った。

『さすがだな。期待の新人だなー』
『櫂朔カップル誕生だな』

凌空や弦が、すぐさま返信する。

重いカラダにムチ打って、立ち上がる。
周りから聞こえる関西弁は、心地よい。
生まれも育ちも大阪で。
大学だけ、関東へ出た。

標準語を聞いている、それだけで、疲れた。
就職は関西でしよう。
そう決めて、就職は、関西の会社を選んだ。

就活が終わりかけた頃、アイツと出会った。

「お兄さん、モデルとか興味ない? 絶対売れるから! 絶対俺が売ってやる!」

4年前、横浜の駅前で声をかけてきた眼鏡をかけた男。
それが、JINだった。JINはやたら興奮していて、その勢いに推された。後に聞くと、本当にコイツは売れると確信して、逃すわけにはいかないと、思ったらしい。

モデルとは言ってもただのモデルではない。
アダルトな世界のモデルと知って斗真は、怒り、逃げようとした。そんな斗真と向き合って、正座で説得を続け、そして、デビューまで、いやデビューからも、面倒を見たのがJINだった。いや、当時はJINではなかった。

あのとき、あまりに説得の時間が長く、痺れた足に力が入らず「足痺れたーあージンジンする立てねぇよマジで!」と生まれたての子鹿のようにフラフラする彼に、「ジンジンジンジンうるせぇなぁお前は!」と、放った斗真の言葉から、彼は、JINとなった。ふざけたネーミング。所詮、そんなもん。


ゲイビモデル。
バイト感覚のモデル。
金稼ぎ、暇つぶし。

モデルなんて、使い捨てだった。

何回か出演して金を手にして辞めていく。
現実に、1回撮影を終えて次から来なくなる奴も、ザラにいた。

「斗真、お前は使い捨てられるな。お前はやってける」

JINはいつも、そう言っていて。
「アイドル」というジャンルを作り女性ファンの取り込みに成功したのは、JINの功績だった。

JINと並んで、やり手だったのが、SUU。
SUUは凌空をスカウトし、そして、斗真と同じくゲイビ界のアイドルとして売り出した。

「ゲイビ界のアイドルってなんだよ……」

当時の斗真と凌空の口癖だった。
それでも、斗真と凌空のファンは爆発的に増え、ふたりのカップリング作品は多く作られた。

「SUUは甘い。そんなんじゃいい作品は作れん」
「いやJINのやり方は古い。今の子にはあれは耐えられない。辞めたら元も子もない」
「あれで辞める奴はそこまでの奴だ」

よく、そう討論して、折れないふたりをなだめるのが、斗真と凌空の役目だった。

「ドラマを大切にした作品を作りたい。その部署を立ち上げたいんだ。社長にも打診してある」

SUUの言葉に斗真は、素直にやりたいと思った。
親のように育ててくれたJINにも、それを伝えた。

「アイツのところに行くのか」
「そういうわけやないけど」
「俺はお前をちゃんと引退さしてやりたい」
「は? 辞めろ言うんか?」
「違う、お前は華々しく引退するんだ」
「なんやそれ意味わからん」
「ココまで人気の出たお前が辞めるのは、大変なことなんだよ」
「どーゆー意味や」
「俺のところなら、ちゃんと引退作品を作ってやれる。引退ロードを敷いてやれるんだ」
「辞めさしたいんか! 今はまだ辞めんし。SUUのとこに行く」

あの時のJINの想いはただ、子を思う、親の気持ちだったんじゃないかと、思う。目を潤ませたJINのあの顔と震わせた声は、今でも鮮明に思い出せる。

「引退か……」


斗真は小さく言葉を吐き、そっと目を瞑った。








「なぁ、もうイキそ……」
「だめ……もっとこのまんまでいたい」
「えぇ……」

恨めしそうな顔をして、斗真はそのグラインドを緩めた。

「ゆっくりも気持ちいい……」

凌空は頬を染めて微笑んで、斗真の口元に手を伸ばした。

「斗真……もっと一緒にいたい」
「凌空……俺もやで……あっ、ダメ……ッーー」

斗真は歯を食いしばり、自らを鎮めるようにキュッと目を瞑った。そんな斗真を見て凌空はニヤリと笑って、腰を振る。

「あかんて……あかんっ!イッてまう……」
「イカしてやるよ……」
「あーもうっ!ーー凌空ッーー」

凌空の刺激に抗うように自らも腰を振り、斗真は果てた。

「もーぅ……なんやねん……先イッてしまったやん」
「イッてしまったなぁ……気持ちかった?」
「……うん」
「うんって!……可愛いなぁ斗真……」

覆いかぶさるようにしなだれる斗真の髪を、凌空が撫で、そっとキスをした。

「はい、カットぉー」

そこへSUUの声が響いた。その瞬間、ガバッと斗真が起き上がる。

「お前なんやねん! タチに先イカすとかあるかぁ!」
「いいじゃんたまには。なぁ?」
「いや、初じゃないかな……」
「これ俺がイカさなあかんやつやん」
「そやな…口か手でイカしたりや」

ウケもタチも、イクことが絶対。
その場面を、カメラに収めるコトが絶対。
それができないと、終わらない。

たまには、どうしても勃たないときもあるわけで。
たまには、どうしても早くイキそうになるときもあるわけで。

それをどうにか調整しながらその時を迎えるのが、鉄則。のはずが、今日は凌空が、暴走した。

「もー早くやろーや」
「は? さっさと片付けよーみたいに言うなよ」
「あ? なんやねん? んなコト言っとらんわ」 
「大阪帰らないと行けないもんねーそだよなー」
「は? それとこれとは関係ないやろ」
「あるだろ! 最近早く終わらせよう感出てるよな」
「はぁ!? んなことねぇだろうがよ!」
「はいはいストップー! まだ撮影終わってないよー」

言い合いに、たまらずSUUが口を挟む。
堪らず投げたクッションが、散乱した衣服やコンドームの空袋の上に転げ落ちた。ゆっくりとそれを拾い上げたKANは、何も言わずにベッドのセッティングをする。

切れた気持ちを再び入り込ませること。
どれだけ大変なことか、知っている。
その日はもう撮影できないこともある。
でもそれが許されないのが、今の状況。

以前なら、仕切り直そうとSUUが言った。
以前なら、納得するまで喧嘩した。
以前なら、ちょっと風あたってきぃやと、KANが背中をポンと叩いた。

「……ごめん」

唇を噛んだ凌空の顔。
少し頬を赤くして、キュッとシーツを掴んだ。
その姿が、心を締め付ける。

「煙草……1本だけ吸わして……」

それで、気持ちを切り替えられるほど、甘い世界じゃない。でも、それでできてしまうくらい、慣れてしまったのかもしれない。

美しい作品。
ただのゲイビと言わせない。
映画のワンシーンのような。

そんな作品を目指して、撮影時間が深夜に及ぶことも何日にも渡ることも厭わず取り組んできた。

それが、叶わなくなって、それでもできてしまう作品。そうさせてしまう全ての原因は自分にあって。

それが、苦しくて。
苦しくて。

「スケジュール、余裕持って組めへんくてごめんな」

駅まで送る車の中で、KANが言った。

「んや……俺焦っとんのや」
「なにに?」
「本業でさ、いろんなこと任されるようになって……」
「もう、3年目やもんなぁ」
「楽しいねん、仕事」
「うん……」
「こっちの仕事が嫌なわけやない。でも、今までとは違う比重になってしまってるんやろなぁ」
「できひんときは、できひんでええねんで?」

KANはいつでも優しくて、いつでも味方でいてくれる。その優しさがまた、心を抉る。




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