月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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評判のエロカップル

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「櫂と朔良のカップルが評判いい」

SUUは口癖のように、そう言うことが多かった。
そして今日もまた、ふたりは呼び出された。

事務所はすっかりライブ仕様で、カメラが向けられている先には送られた花やバルーンが飾られている。

「すげーこれ、送られてきたやつ?」
「そうそう、告知したら大量に」
「すごーー」
「みんな応援してんねんな」

嬉しそうにプレゼントを眺める櫂を、こっそり朔良は視線で追う。

「なぁなぁ朔良! これ見てや!」
「なに?」
「俺らの名前入っとるで!」

興奮した様子で、『Kai』『Sakura』と名前入りのグラスを朔良に差し出す。

「すげぇ、こーゆーのってどっかに頼むの?」 
「そーじゃねぇの? すごいな……」

『Sakura』のグラスを手にキラキラと光を反射するそのグラスを、朔良は眺めた。


あれから、何度か顔を合わせたふたり。
朔良も、櫂も、あのコトには触れない。

「ライブはじめまーすっ!」
「いぇーーいっ!」
「櫂テンションたっか」
「楽しいじゃんかぁーみんな元気ぃ?」

カメラに向かって櫂は、無邪気に手を振る。

『元気だよー』
『櫂くんかわいい』

もうどこを見れば良いかも、慣れた。

映し出すカメラ。
指示を出すSUUやKAN。
画面の端を流れる、ファンからのコメント。

「櫂、かわいいって」
「ありがとうー」
「髪型、変えた?」
「あ、わかった? ココちょっと刈った」

髪を掻き上げ、変えた部分を見せる。
少しだけの違い。

「自分でやったの?」
「そうー昨日ちょっと気になってやった」
「すげぇな。あ、俺の髪も櫂が切りましたー」
「そうそう! ココで切ってKANちゃんに怒られたー」
「ハハッそうだったな。俺、逃げたけど」

自分で言って朔良は、ドキンと胸が波打つのを感じた。

髪を切ったあの日に起きたあの出来事は、触れずとも掠める記憶の、中心にある。


「櫂ってさ、結構髪型変えるよな?」

SUUがカメラの横から口を出した。

「確かに。髭も生やしたり剃ったりしてるし」
「そうーコロコロ変えるんだよ」
「なんで変えんの? 気分?」
「いや俺さー、飽きられるのが怖いんだよね」
「は? 誰が飽きんの?」
「見てる人たち」
「えー? そんな気にしてんの?」
「気にするわー! 飽きられて忘れられんの怖いわ」
「そんなん、自分は自分でいいんじゃん?」
「朔はそーゆーとこは強いよなぁ」

朔良を見下ろす櫂は、終始笑顔で。
「忘れられるのが怖い」そう言った櫂も、いつもと変わらぬ、尻尾を振った仔犬のような、笑顔だった。





「お疲れーっす」
「今日は帰んの?」
「おぉ、朔は?」
「帰るー」
「一緒に帰ろや」

櫂はそう言って、歩き出した。


冬の夜。
ひんやりとした澄んだ空気が、月を綺麗に映し出す。

その隣に朔良は並んで歩く。

「櫂、家どっち?」
「んーあっち? 今日は朔んちの近くまで行かなきゃいかんのよ」
「なんか用でもあんの?」
「妹。入院中なんよ、朔んちの近くに病院あるっしょ? デカいやつ」
「あーあるな」
「昔からカラダ弱くてすーぐ入院すんの」

ハハハと笑いながら櫂は、空を見上げた。

こんなとき、どう声をかけたら良いか、朔良は知らない。「そーなんだ…」と小さい声で言うしかない自分に、腹が立った。


「星が綺麗やなぁ~」

乾いた空に響く、乾いた櫂の笑い声。

「あ、俺さぁ、ココで働いてんだ」と櫂は、ポケットから1枚の名刺を差し出した。

「あ。知ってる」

横浜駅の、少し離れた路地にある路面店。
コアなファンが多い店。

『YUKI』

と、そこには名前が記されている。

「ゆ……き?」

朔良は初めて、その名前を声にした。

「ユキトってゆーんだよ、本名」
「へぇ、かっこいいな」
「え、朔良はなんだっけ?」
「ミツキ、ふつーだろ?」
「ミッキーって呼ばれてた時代あったやろ?」
「はぁ? まぁあったな……」
「だと思ったー!」

バシンと肩を叩き、また、口を開けて笑った。
暗闇の、月の似合わない男だと、朔良は思った。
どちらかと言うと、太陽の下で、海辺で走り転げ回っているような、そんな笑顔で。でもそこにうっすらとかかる雲があって、すっきりした晴れた空ではないような、そんな気が、朔良はしていた。


「今度、あの絡みやな」
「そうだなぁ。ちゃんと、できっかな」
「んー……まぁ俺らなら大丈夫やろ」
「俺らなら……な」
「エロカップルやからな」
「ハハッいつからそうなったんだろなぁ」

朔良は笑いながら、静かに視線を落とした。
黒いコンクリートは、街灯に照らされ白く光る。

ぼんやりと光るコンクリートに白い息が重なり、視界が少し、ぼんやりした。
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