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東垣の乱
一
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「殿下。正気ですか!?」
砦と化した、東垣の本陣に、乾いた司馬熹の大音声が轟いた。
居並ぶ十数名の将校達も、驚愕のあまり瞠目している。
上座に座する、董は唇を強く結んだまま頷いた。東垣の指揮権は董にある。指揮官が決めたのだ。
全幅の信頼が置ける、司馬熹が幾ら反駁した所で、結果は覆せない。
「牛剪率いる四万の軍勢が此方に向かってきている。東垣に布陣する、趙軍と併せれば、その数は優に五万を超える。対して、我々の兵力は一万強。地の利があるといえど、我ら勝ち目などない。だからこそ、賭けに出なくてはならぬ」
董の声は終始、穏やかであるが、人の心を直接打つ波長のようなものがある。
銘々は押し黙っている。
「決まりだな」
軍議はお開きとなった。去っていく、銘々の顔は暗澹としている。
「之で良いのだな?」
入れ替わるように、幕舎に入ってきたのは、胡服姿の楽毅と魏竜、司馬炎。
董は嘆息し、黄金の具足を鳴らして立ち上がる。
楽毅は真っ直ぐに、見据え頷いた。
「全く難儀したぞ」
細く笑む。董は楽毅の献策を入れた。
十代半ばの少年の玄謀とは、よもや誰も思うまい。董は楽毅少年を心から信頼していた。
まだ年若いが、楽毅は具眼の勇者としての資質が既に覚醒している。それは、薹が立てば獲得出来るという代物ではない。
天に愛される勇者のみが、生来から与えられる才能なのである、楽毅は呉起や孫武の兵法を独学で学んだといっていた。
彼の父は宰相であるから、霊寿の郊外にある館には、一式の典籍が揃っていたのであろう。だが、手許にあった所で、兵法を理解し、己の中に落とし込んで行く作業は並大抵の労苦では成せない。
此度の策も同様に、楽毅の頭脳は変幻を極めている。兵法を極めた兵法家の中には、極めたが故に従来の兵法の固執する者も多い。
だが、時代とは転変していくもの。戦略も時勢によって移り変わっていく。
楽毅は若く、旧態依然とした戦略に拘泥しない、柔軟さもある。
(全く末恐ろし子よ)と董は心の内に微笑を浮かべる。
(私が希望なのではない。楽毅こそが中山の希望だ)
彼と出逢うまでは、諦念に満ちていた。しかし、今は楽毅と共に大空へと翔び立てるのではないかという気がする。
「楽毅よ。共に羽搏こうぞ」
楽毅の雲英を宿した、双眼がひと際強く輝いた。
砦と化した、東垣の本陣に、乾いた司馬熹の大音声が轟いた。
居並ぶ十数名の将校達も、驚愕のあまり瞠目している。
上座に座する、董は唇を強く結んだまま頷いた。東垣の指揮権は董にある。指揮官が決めたのだ。
全幅の信頼が置ける、司馬熹が幾ら反駁した所で、結果は覆せない。
「牛剪率いる四万の軍勢が此方に向かってきている。東垣に布陣する、趙軍と併せれば、その数は優に五万を超える。対して、我々の兵力は一万強。地の利があるといえど、我ら勝ち目などない。だからこそ、賭けに出なくてはならぬ」
董の声は終始、穏やかであるが、人の心を直接打つ波長のようなものがある。
銘々は押し黙っている。
「決まりだな」
軍議はお開きとなった。去っていく、銘々の顔は暗澹としている。
「之で良いのだな?」
入れ替わるように、幕舎に入ってきたのは、胡服姿の楽毅と魏竜、司馬炎。
董は嘆息し、黄金の具足を鳴らして立ち上がる。
楽毅は真っ直ぐに、見据え頷いた。
「全く難儀したぞ」
細く笑む。董は楽毅の献策を入れた。
十代半ばの少年の玄謀とは、よもや誰も思うまい。董は楽毅少年を心から信頼していた。
まだ年若いが、楽毅は具眼の勇者としての資質が既に覚醒している。それは、薹が立てば獲得出来るという代物ではない。
天に愛される勇者のみが、生来から与えられる才能なのである、楽毅は呉起や孫武の兵法を独学で学んだといっていた。
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此度の策も同様に、楽毅の頭脳は変幻を極めている。兵法を極めた兵法家の中には、極めたが故に従来の兵法の固執する者も多い。
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(私が希望なのではない。楽毅こそが中山の希望だ)
彼と出逢うまでは、諦念に満ちていた。しかし、今は楽毅と共に大空へと翔び立てるのではないかという気がする。
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