バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤

文字の大きさ
29 / 198
神聖デメテール国編

第27話 分岐点

しおりを挟む
 ――デメテール国・墓地――

「ふぃ~、終わったな」

 20万のワイトを相手にしていたタロー。
 墓地を埋め尽くすほど出現していた死体たちはその姿を全て消していた。

「しっかし、これが偽物だっていうんだからスゲーよな。言われてもわからん」

 タマコから事前に知らされていたとはいえ、戦っている方からしたら本物にしか感じないほどの精巧な偽物に驚きは隠せなかった。
 と言ってもタローはワイトを見るのは初めてなので本物も偽物も無いのだが。
 そんなタローは戦いを終え地面に胡坐をかいていた。
 空を眺めながら暢気にタマコを待っていると――

「ん? なんだあれ」

 目線の先に飛行する物体を捉える。
 それは徐々に近づいてき、その姿をはっきりさせた。

「でっかい鳥?」

 以前討伐した死霊鳥ファントム・スカル・バードよりは小さいが人一人くらいは乗せれそうな大きさはある。
 その大きな鳥――風を読む白い鳥ドール・ピジョンは墓地に降り立つと背から男が地面へと着地した。

「――さすが魔王を使役した冒険者だ。20万のワイト……いや、人形では相手にもなりませんか」

 その男――カイエンは静かに辺りを眺める。
 冷静に見えるが、司教服はボロボロになっており先ほどまで戦闘をしていたことを物語っていた。
 タマコが負けるはずはない。
 ということは隙を見て逃げたのだということはタローでも想像できた。

「そっか。偽物の正体は人形だったんだな」

「えぇ、私の人形魔法で作りました。よくできているでしょう?」

 タローが頷くとカイエンは笑みを浮かべる。
 だが会った時とは違い、その目に生気は宿っていなかった。
 カイエンはタローのことなどお構いなしに墓地の端の方へと歩いていく。
 タローは立ち上がると、それに着いていった。

「愛する者を蘇らせたい。そのために動かぬ死体に魂を吹き込む研究をした。
 そんな私の使う魔法が、魂宿らぬ動く人形を作り出す能力とは……あまりにも滑稽、皮肉な話だ」

 そう自虐するカイエンにタローは何も言わなかった。
 しばらく歩くと墓地の隅にあった小さな石の前で足を止める。
 石にはよく見れば名前が書かれていた。どうやら墓石のようだ。
 その石に書いてある名は『マーサ』。
 カイエンはその石を愛おしそうに撫でた。

「彼女は教会内では大罪人。墓をつくることは許されなかった。
 こんな角になってしまったが、私が作りました」

 カイエンの話によるとマーサはその心臓をつるぎで一つ気にされ処刑されたそうだ。
 その後の遺体処理は別の者に任されていた。
 だが、カイエンの悲しみが魔法を強化した。
 それまで簡単な人形程度しか生み出せなかったが、リアルな人形を作ることができるようになり、彼女の遺体とすり替えた。
 遺体はカイエンがひそかにこの場所へ埋めたそうだ。

「全ては彼女にもう一度会うためだ」

 立ち上がりタローへと視線を向ける。

「それでも……私の邪魔をしますか?」

「あんたが人を犠牲にし続けるなら、俺はあんたを止める」

「それなら仕方ないですね」

 カイエンはそう言うと、持っていた錫杖を高く上げる。
 すると、地面が突然紫色に光りだす。
 それはサークルのように辺りを囲んだ。

「なんだ?」

 タローがサークルの外に離れると、地面から何かが這い出てきた。
 ワイト……ではない。
 骨のみであった身体には、腐っているが肉がついていた。
 その数、200体。

「リッチ研究の副産物だ――ワイトのもう一つの強化種、『ゾンビ』だ」

 ゾンビは頭部を損傷しないかぎり襲い続けるモンスター。
 ワイトより強く凶暴で厄介なモンスターの一つとして知られている。
 だが、カイエンの狙いはゾンビではない。

「ゾンビは厄介なモンスターだが、それでもアンデットの中では弱い。
 しかし、一定以上の数と、このドラゴンの血を混ぜることにより、最上級アンデットが誕生する!」

 懐から瓶を取り出す。中には赤い液体が見える。
 カイエンの言うドラゴンの血なのだろう。
 その瓶をゾンビのいるサークル内に垂れ流した。
 血が地面に触れた途端、紫色の光が強まる。
 ドラゴンの血が球体のように集まり宙に浮かぶ。
 その球体を核とし、ゾンビたちが次々と引き寄せられていく。

「見よ、これがワイトの強化種。その最終形態だ」

 ゾンビ200体が全て集まると、その形は人型ではなくなった。
 それは巨大な竜。
 肉はゾンビのように腐っているが、大きさは死霊鳥より大きい。

「――蘇生する腐敗竜リバイバル・ドラゴンゾンビ。私の奥の手だ」

「グォオオオオオッッ!!!!」

 空気を大きく振るわせる咆哮。
 鼻が曲がりそうになる強烈な腐敗臭。
 戦意を喪失したくなる圧倒的な巨体。
 口から出る大量の涎は地面に着いた途端に煙を上げる。おそらく強力な酸性の液体なのだろう。
 クエストを発注するなら難度AAAはくだらない最悪の怪物である。
 その怪物を目にしたタローは、タマコとの会話を思い出していた。
 それは分かれる前に宿で話したについてだ。





 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・





『カイエンがもしリッチの研究をしていたら、もしかしたらゾンビを生み出しているかもしれん』

『ゾンビ?』

『肉のついたワイトだと思え。ただの雑魚じゃ』

 ベッドに腰を掛けながら言うタマコ。
 だが問題はゾンビではない。

蘇生する腐敗竜リバイバル・ドラゴンゾンビというモンスターがおってな。
 大量のゾンビとドラゴンの血があれば生まれるモンスターなんじゃが……コイツが出てきたら一つのが発生する』

 タマコは眉間にしわを寄せるとベッドから立ち上がり窓から外を眺める。

『腐敗竜が暴れ街へと出たら、最悪この国は全滅するだろうな』

『マジかよ』

『だからこその分岐点じゃ』

 タマコはタローに二本指を立てる。

『分岐点は腐敗竜が現れたとき。
 腐敗竜を仕留めきれず街へと解き放てば全滅。
 墓地へ留め確実に討伐すればハッピーエンド。簡単な話じゃろ?』

『責任重大だな』

『魔剣と主殿が居れば可能さ♪』

 タマコは笑みを浮かべた。
 どうやら討伐できると信じて疑っていないようだ。

『なんとかカイエンを説得はしてみるが期待はできないのでな……全て任せるぞ』

『はぁ……面倒だけどしょうがないか』

 頭を掻くタローにタマコは再び笑った。

『頼んだぞ、主殿♪』





 ・・・

 ・・・・・

 ・・・・・・・



(タマコの話じゃ、ここが分岐点ってことだよな)

 タローは魔剣を構え蘇生する腐敗竜リバイバル・ドラゴンゾンビへと駆け出す。
 上からの涎に気を付けながら足を棍棒に変えた魔剣で殴りつけた。
 強力な一撃により、腐敗竜の足が吹き飛んでいく。
 だが、喰らった箇所はすぐに再生し元通りになった。

「っ! マジか」

 驚くタローに腐敗竜は体を大きく回し尾を振るう。
 すかさず反応し魔剣でガードするが衝撃はすさまじく、壁の方まで後退させられた。
 すぐに体勢を立て直すが、腐敗竜は大きく口を開けると大きな水の大砲を放った。
 その場を駆け出し回避する。
 当たった壁を見るとドロドロに溶けて原形をとどめていなかった。
 どうやら攻撃のすべてに酸性、もしくは腐敗させる能力が付与されているようだ。

「厄介だな」

 愚痴をこぼすタローだが、さすがの防御力によりダメージはほとんどない。
 しかし腐敗竜はそんなタローをよそに大きく翼を広げた。
 首は街の方へと向いている。

(――飛び去る気か)

 すぐに感づくと、近くにあった墓石をフルスイングしてブッ飛ばす。
 墓石は猛スピードで飛んでいくと、腐敗竜の顔面を大きく抉った。
 腐敗竜は再生する頭部をタローに向けた。

「そう急ぐなよ――もう少し遊ぼうぜ?」

 蘇生する腐敗竜リバイバル・ドラゴンゾンビに意思は無い。
 ただ生きる者を喰らうという目的のために暴れるモンスター。
 しかし、その時確かに腐敗竜はタローを殺したいと感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...