バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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魔剣争奪戦編

第54話 魔剣争奪戦(開幕)

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 魔王ハザードの突然の来訪から二週間後、ギルドから試合の細かなルール、日程、場所が告げられた。
 場所は最初にタローとアキラが戦った場所を含めた地域エリア
 障害物の無い平原のみでなく、川や森などの環境も利用できるため、力に差があっても状況によっては有利になれる、という理由からだ。
 要するにアンフェアになることが少ないと言うことである。

「またここか……」

 いつものようにだるんだるんの白いシャツを着て、肩にクマのぬいぐるみ姿の魔剣プーを乗せて歩く。
 はっきり言ってタローにとって、このような催しは面倒だ。
 だが大金が手に入るのなら話は別。甘んじて受け入れることにした。

「優勝して100億か……これでもう働かなくて済むぜ」

「まだあったのかその夢」

 横でタマコがツッコむ。
 最近は文句を言いながらも真面目にクエストを受けていたので大丈夫だと思っていたが、やはり夢は捨てきれないようだ。

 と、そうこうしている間に目的地に到着する。
 そして、どうやらタローらが最後のようだ。
 到着した場所にはすでに、6人の冒険者と6柱の魔王が揃っていた。

「あらら、待たせちゃった?」

 Sランク6人と魔王6柱。
 各々気持ちは違えど、一斉にタローに視線を向ける。
 常人ならそれだけでも脂汗が出そうなシチュエーションだが、タローは全く意に介さなかった。

「大丈夫だよ。僕たちも先ほど揃ったばかりだからね」

 そう答えたのは腰に二本の刀を差した和柄の羽織を着た男。
 タローはその男――ムサシ・ミヤモトを見ると、すぐに駆け寄った。

「あの時はありがとね~。助かったよ」

 ぺこりと頭を下げてお礼を言った。
 以前"ワリトナオルワ"の捕獲の際に、快く獲物を譲ってくれたことである。

「気にしなくても大丈夫だよ」

 ムサシは微笑を浮かべてタローと改めて握手をする。
 タローは漸くお礼が言えたことにスッキリしたようであった。


 ***


 一見仲良く見える光景。
 しかし、他の者がタローを見る目はいろいろだ。

 シャルルは見知った顔を見て少しホッとしていた。
(あ、タロー様にマリア様、それからプー様も! あとで挨拶しなくちゃ)

 ランは興味を示していた。
(あの人がアキラさんをぶっ飛ばした人ッスか。あんま強そうに見えないッスね)

 アキラは復讐の炎を燃やしていた。
(タロー……今度は俺が勝つッ)

 アリスは困惑していた。
(くま……? ぬいぐるみ? え、食べれないの?)

 レオンは眼光を一瞬光らせ、タローを見つめた。
(……なるほど。これは――)


 ***


「すまない。待たせたな」

 タローが来てから少し時間が経った頃、ドラムスがやってきた。
 急いできたのか少し息を切らしている。
 一度深呼吸をして落ち着くと、改めてルールを説明する。

 ・最初の位置はギルドが転移魔法でランダムに決める。
 ・転移終了後に試合開始。
 ・トーナメント形式ではなくサバイバル形式で行う。
 ・相手を殺すことは禁止。
 ・環境を利用して戦うのはいいが、意味もなく環境(自然)を壊す行為は禁止。
 ・自分から負けを認めてもよい。
 ・本人が負けを認めなくても戦闘不能に陥った時点で負けた本人は脱落。
 ・脱落した者は転移前に施された魔法の効果により、強制的にギルドへ送られる。

 以上が、この戦いのルールである。

「質問はあるか?」

 ドラムスが訊くが、誰も手をあげなかったため、全員に転移用の魔法を施される。

「よし、では転移魔法を発動する」

 ドラムスが魔法を発動しようとする――が、その前にタローが思い出したように手を挙げた。

「なんだタロー?」ドラムスが尋ねる。

「ちょっと確認したいんだけどさ、そこのジャケットの人に」

「ん? 俺か?」

 タローが指を差したのは魔王ハザードである。

「俺が優勝したら100億ゴールドって話忘れてないよな?」

「あぁ。もちろん」

「ならいい」

 内容は100億を忘れていないかという確認のみだった。
 それを確認すると、すぐに安心したようだ。
 しかし、それを聞いた者からは異論があったようである。

「え~なになに。タローちゃんが優勝したら100億なの~? ズルいズルい! 私も何か欲しい~♡」

「ヒッヒッヒ……優勝したらマリアを嫁に貰うぞ」

「おい。何勝手に決めとるんだ貴様は」

「何か欲しいってわけでもないッスけど……優勝賞品があるなら欲しいッスね」

 突然の優勝賞品決定会が始まった。
 仮にも今から戦い合う(おそらくほぼ殺し合いになるだろう)にもかかわらず、暢気なものだ。

(さすがSランクだ。肝が据わってるというか……ズレてるというか……)

 ドラムスはその光景を他人事のように眺めた。
 だが、このままだといつまで経っても始まらないのが現実だ。
 そして魔王も冒険者も納得する商品となると難しい。
 金に興味のある者もいるが、興味の無い魔王や冒険者もいる。
 どうしようかと頭を悩ませたとき、ムサシがとんでもない提案をした。

「じゃあ――勝った人はを独り占めできる、ってのはどうかな?」

「「「「「え?」」」」」

 その案に全員が言葉を失う。

(な、なに考えてんだムサシぃぃいいい!?)

 魔剣を一人が総取りなどしたら、一人で世界を掌握できる可能性も十分ありえる。
 しかも魔剣は魔王の証、そしてプライドだ。
 そんな提案など却下されるに決まっている。

 しかし、意外にも賛同の声が上がる。

「面白いですね……魔剣を全て手に入れる機会など、この先ないでしょうし」

 そう言ったのはレオン・フェルマーである。
 ポケットにいる魔王アルバートも「面白そうだからいいんじゃない?」と楽しそうだった。

「ヒッヒッヒ……吾輩も賛成だ」魔王クロスも賛同する。

「……こまるけど、かてばいいんだからだいじょうぶ」アリスも。

「う~ん……このメンバーに勝つんだからそれくらいの商品はアリね」魔王エリスも。

 意外と受け入れられ、この提案は可決されることとなった。

「ハハハ……世界終わるかもな……」

 ドラムスは、ただただ乾いた笑いをだすだけであった。
 そんなドラムスを横目に、タローはかまわず意見を言う。
 そしてタローの意見は否定だった。
 やはり怠惰の魔剣ベルフェゴールのプーを大事に思って――

「えー、俺魔剣なんて要らないんだけど、金にしようぜ」

 ――いるわけではなかった。ただただ要らないだけだった。
 というか金が欲しいだけである。
 そんなタローを見て、ムサシは笑った。

「ハハハっ! やっぱり君は面白いなー!」

「?」

「いや、いいさ。とにかく始めようドラムスさん!」

 ムサシはタローを置いて、勝手に笑った後、開始の合図を促す。
 ドラムスは「もうどうにでもなれ」とすでに疲れ切った表情で、転移魔法を発動する。

「じゃあお前ら、幸運を祈ってるぞ」

 光に包まれ、タローたちはそれぞれの場所に転移する。
 壮絶なバトルの幕が、今上がった。
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