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魔剣争奪戦編
第89話 御伽噺
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「あらあら逃げないと危ないわよお!」
「ニゲラレナカッタラ――」
「死んじゃうよー(笑)」
襲い掛かる凶狼にタマコとエリスは必死に逃げている。
現在、二柱は窮地に立たされていた。
ケルベロス化したアンブレラの力は凄まじく、反撃もままならない。
何とか隙を見て攻撃しても、牙に噛み砕かれるか、爪で切り裂かれるかして全てを打ち砕かれていく。
「もう! しつこいんだから!」
エリスは空色のオーラを纏わせた色欲の魔剣をアンブレラに触れに行く。
色欲の魔剣の『燃恋冷愛』は相手に触れさえすれば発動する能力だ。
この能力で動きを鈍らせることが出来れば、こちらに有利に進む。
しかし――
「残念ねえ! わたし温度には敏感なの!」
全身を振動させその熱で、無理やり温度の低下を防いでしまうのだ。
無敗の魔王の一角は伊達ではない。
魔剣が通じないのなら、と次は自身の持つヴァンパイアの能力で挑む。
「吸血の牙!」
エリスの牙が異常に発達する。
その牙で狙うのは、真ん中の首――『母性』の喉元。
「――ングッ!?」
だが、かたい皮膚と体毛で歯が通らない。
鉄板や岩盤程度なら豆腐のように噛むことが出来るヴァンパイアの牙でさえ、その首に食らいつくことは叶わなかった。
「ムダダ!」
「そのていどのきばじゃ」
「わたしの皮膚は貫けないわよお!」
アンブレラは首を大きく振ると、まるで虫を払うかのようにエリスを引き剥がす。
その勢いでエリスは振り落とされてしまった。
そして、無防備になったヴァンパイアにアンブレラは見せつけるよう口を開けた。
「きばっていうのは――」
「コウイウノヲイウンダ――」
「いくわよお! 三頭の牙!」
三つの頭部が一斉に牙をむいた。
ヴァンパイアを遥かに凌ぐ強靭な牙は何の工夫もなく、ただ真っすぐにエリスに襲い掛かる。
(まったく……嫌味にもほどがあるわね!)
人間の世界ではヴァンパイアは恐ろしい牙を持つモンスター。
ヴァンパイア自身もそれを自負し、牙を大切に扱っている。
そんな自慢を軽々超える牙に、エリスは畏敬の念すら抱いてしまった。
こんな立派な牙に砕かれるなら本望かもしれない……ついそんな思ってしまうが、それは親友が許さない。
「音鎖!」
噛み砕く寸前、マリアの音鎖で後ろに引っ張られてしまう。
「クソガッ!」
「いーところだったのにー!」
「あらあらあら!?」
だがそれは一瞬のこと。
よろけながらも踏ん張ると、前に勢いよく踏み出す。
それにより鎖は容易に引きちぎられたものの、その一瞬でエリスは攻撃範囲から脱出して難を逃れた。
(やっぱりダメね……)
脱出しながら、エリスは考える。
攻撃は通じず、躱すのも精一杯。しかも相手はまだまだ余裕を残している。
現状、まず勝機を見出すのは難しい。
このままではどう足掻いても勝てない。
(――今のままだと、ね)
確かに"このまま"では勝てない。
勝つには"このまま"ではない"何"かが必要になる。
そして、その"何か"は――未知の力はすでに存在していた。
「――マリア!」
エリスがタマコの下へと降り立ち合流する。
何か作戦を思いついたのかと思い、タマコはエリスに耳を傾けた。
が、それは作戦と呼ぶにはあまりにもな内容であった。
「マリア、フェニックスの力を使いなさい」
「……っ」
高位のヴァンパイアの血を引く彼女の魔法は絶大だ。
普通の吸血鬼には無い『音魔法』というタマコの家系の者しか使えぬ強力な魔法。
そして、もう一つ。
伝説のモンスターであるフェニックスの血がある。
「だ、だがあれは……」
フェニックスの力が強大ということは知っているが、タマコの父を恨む心が使うことを許さない。
だからこそ、その力を使わないのだ。
「――昔読んだ絵本にこういう話があるわ」
すると、エリスは唐突にこんな話をした。
――遥か昔、ある一匹のケルベロスが人間の村で暴れていた。
村は未曾有の危機に瀕し、誰もが死を予感した。
だがそのとき、天から青き炎を纏いしフェニックスが現れる。
そして、フェニックスは暴れるケルベロスを、その勇敢な炎で見事、ケルベロスを追い払った。
以来、町の住人はフェニックスを崇め、その町には現在も平和が訪れている――
それは、有名な御伽噺だった。
荒れ狂うモンスターから人々を守った伝説のお話。
本によれば、それはタマコやエリスが生まれるより遥か前のことらしいが……
「バカな……それはただの作り話じゃろ?」
エリスがその話をしたということは、そういうことなのだろう。
けれどそれはあくまでも誰かの妄想。想像に過ぎない。
ただの眉唾物だ。
「作り話かもしれない……でも誰も"嘘"とも言っていない」
「それはそうだが……」
なおも渋るタマコ。
だが、そうするしかない理由がある。
「今のままじゃ勝てない。
けれど、あなたのフェニックスの力があれば、勝てる可能性が少しだけ見えてくる」
どこまで通じるかわからない。
勝てるかもしれないし、負けるかもしれない。
それがどうなるかは、やってみるしかないのだ。
「貴女の過去は知ってる。けれど今、それに賭けるしか道は無いの!」
エリスの必死の説得にタマコは揺らいでいた。
(今のままじゃ勝てない?)
――ああ、わかっておるさそんなこと
――届かぬのはわかっておるのだ!
――でも、使いたくないのだ……
――憎んだ力を、恨んだ力を……使いたくないのだ……
「ナニコソコソハナシテンダ?」
「もー殺しちゃってもいいよねー?」
「そろそろ、『いただきます』の時間よお!」
アンブレラが凶爪を振り下ろす。
狙いは――タマコだ。
(――あっ)
心の内で葛藤していたためか、タマコは反応が遅れた。
眼前に巨大な爪が迫る。
だが――
「――マリア」
それを、エリスが受け止めた。
しかし、色欲の魔剣も使ったが、それでも完璧に止めたわけではない。
爪の一部は、エリスの横腹を抉っていた。
「……ガフッ」
「え、エリス!」
吐血するエリスだが、決して魔剣を握る手を緩めはしなかった。
勇敢な親友の姿に、タマコは思わず自分の油断を恥じる。
そんなタマコに向けて、エリスは片方の口の端を上げて視線を送った。
「マリア……恋愛下手な貴女に教えてあげる。
……『良い女』ってのはね――」
口を動かしながら、エリスは魔剣に桃色のオーラを付与。
刃は徐々に熱を帯び始めると……
「――過去じゃなくて、常に未来を見てるものよ!」
高熱の刃が、アンブレラの爪の一本を切断したのだ。
「「「なに!?」」」
驚愕の声を上げるアンブレラは、この戦闘で初めて、自分から身を退かせる。
凶狼が離れると、エリスは苦しそうに膝をついた。
「エリス!」
「あ~あ……こんなに怪我したのはあなたのせいよ」
それでもエリスは余裕そうに話す。
もちろんやせ我慢だ。
「あたしは……シャルルに治療してもらうから、マリアは――」
エリスはそっとタマコの肩に手を置く。
「――さっさとあの化け物、倒しちゃい、なさい……――」
その言葉を最後に、エリスは強制転移により退場した。
「――あぁ、まかせろ」
伝う涙を拭い、タマコは立ち上がる。
「――魔王アンブレラ」
後退したアンブレラに向かい、タマコは歩を進める。
その目に、もう迷いはなかった。
「貴様に……相応しい歌を送ろう――」
言葉と同時に、タマコの背中に翼が顕現する。
それは、いつものヴァンパイアの羽ではない。
美しき、青き炎の翼である。
魔王リアム=エリス=アメジスト 脱落
「ニゲラレナカッタラ――」
「死んじゃうよー(笑)」
襲い掛かる凶狼にタマコとエリスは必死に逃げている。
現在、二柱は窮地に立たされていた。
ケルベロス化したアンブレラの力は凄まじく、反撃もままならない。
何とか隙を見て攻撃しても、牙に噛み砕かれるか、爪で切り裂かれるかして全てを打ち砕かれていく。
「もう! しつこいんだから!」
エリスは空色のオーラを纏わせた色欲の魔剣をアンブレラに触れに行く。
色欲の魔剣の『燃恋冷愛』は相手に触れさえすれば発動する能力だ。
この能力で動きを鈍らせることが出来れば、こちらに有利に進む。
しかし――
「残念ねえ! わたし温度には敏感なの!」
全身を振動させその熱で、無理やり温度の低下を防いでしまうのだ。
無敗の魔王の一角は伊達ではない。
魔剣が通じないのなら、と次は自身の持つヴァンパイアの能力で挑む。
「吸血の牙!」
エリスの牙が異常に発達する。
その牙で狙うのは、真ん中の首――『母性』の喉元。
「――ングッ!?」
だが、かたい皮膚と体毛で歯が通らない。
鉄板や岩盤程度なら豆腐のように噛むことが出来るヴァンパイアの牙でさえ、その首に食らいつくことは叶わなかった。
「ムダダ!」
「そのていどのきばじゃ」
「わたしの皮膚は貫けないわよお!」
アンブレラは首を大きく振ると、まるで虫を払うかのようにエリスを引き剥がす。
その勢いでエリスは振り落とされてしまった。
そして、無防備になったヴァンパイアにアンブレラは見せつけるよう口を開けた。
「きばっていうのは――」
「コウイウノヲイウンダ――」
「いくわよお! 三頭の牙!」
三つの頭部が一斉に牙をむいた。
ヴァンパイアを遥かに凌ぐ強靭な牙は何の工夫もなく、ただ真っすぐにエリスに襲い掛かる。
(まったく……嫌味にもほどがあるわね!)
人間の世界ではヴァンパイアは恐ろしい牙を持つモンスター。
ヴァンパイア自身もそれを自負し、牙を大切に扱っている。
そんな自慢を軽々超える牙に、エリスは畏敬の念すら抱いてしまった。
こんな立派な牙に砕かれるなら本望かもしれない……ついそんな思ってしまうが、それは親友が許さない。
「音鎖!」
噛み砕く寸前、マリアの音鎖で後ろに引っ張られてしまう。
「クソガッ!」
「いーところだったのにー!」
「あらあらあら!?」
だがそれは一瞬のこと。
よろけながらも踏ん張ると、前に勢いよく踏み出す。
それにより鎖は容易に引きちぎられたものの、その一瞬でエリスは攻撃範囲から脱出して難を逃れた。
(やっぱりダメね……)
脱出しながら、エリスは考える。
攻撃は通じず、躱すのも精一杯。しかも相手はまだまだ余裕を残している。
現状、まず勝機を見出すのは難しい。
このままではどう足掻いても勝てない。
(――今のままだと、ね)
確かに"このまま"では勝てない。
勝つには"このまま"ではない"何"かが必要になる。
そして、その"何か"は――未知の力はすでに存在していた。
「――マリア!」
エリスがタマコの下へと降り立ち合流する。
何か作戦を思いついたのかと思い、タマコはエリスに耳を傾けた。
が、それは作戦と呼ぶにはあまりにもな内容であった。
「マリア、フェニックスの力を使いなさい」
「……っ」
高位のヴァンパイアの血を引く彼女の魔法は絶大だ。
普通の吸血鬼には無い『音魔法』というタマコの家系の者しか使えぬ強力な魔法。
そして、もう一つ。
伝説のモンスターであるフェニックスの血がある。
「だ、だがあれは……」
フェニックスの力が強大ということは知っているが、タマコの父を恨む心が使うことを許さない。
だからこそ、その力を使わないのだ。
「――昔読んだ絵本にこういう話があるわ」
すると、エリスは唐突にこんな話をした。
――遥か昔、ある一匹のケルベロスが人間の村で暴れていた。
村は未曾有の危機に瀕し、誰もが死を予感した。
だがそのとき、天から青き炎を纏いしフェニックスが現れる。
そして、フェニックスは暴れるケルベロスを、その勇敢な炎で見事、ケルベロスを追い払った。
以来、町の住人はフェニックスを崇め、その町には現在も平和が訪れている――
それは、有名な御伽噺だった。
荒れ狂うモンスターから人々を守った伝説のお話。
本によれば、それはタマコやエリスが生まれるより遥か前のことらしいが……
「バカな……それはただの作り話じゃろ?」
エリスがその話をしたということは、そういうことなのだろう。
けれどそれはあくまでも誰かの妄想。想像に過ぎない。
ただの眉唾物だ。
「作り話かもしれない……でも誰も"嘘"とも言っていない」
「それはそうだが……」
なおも渋るタマコ。
だが、そうするしかない理由がある。
「今のままじゃ勝てない。
けれど、あなたのフェニックスの力があれば、勝てる可能性が少しだけ見えてくる」
どこまで通じるかわからない。
勝てるかもしれないし、負けるかもしれない。
それがどうなるかは、やってみるしかないのだ。
「貴女の過去は知ってる。けれど今、それに賭けるしか道は無いの!」
エリスの必死の説得にタマコは揺らいでいた。
(今のままじゃ勝てない?)
――ああ、わかっておるさそんなこと
――届かぬのはわかっておるのだ!
――でも、使いたくないのだ……
――憎んだ力を、恨んだ力を……使いたくないのだ……
「ナニコソコソハナシテンダ?」
「もー殺しちゃってもいいよねー?」
「そろそろ、『いただきます』の時間よお!」
アンブレラが凶爪を振り下ろす。
狙いは――タマコだ。
(――あっ)
心の内で葛藤していたためか、タマコは反応が遅れた。
眼前に巨大な爪が迫る。
だが――
「――マリア」
それを、エリスが受け止めた。
しかし、色欲の魔剣も使ったが、それでも完璧に止めたわけではない。
爪の一部は、エリスの横腹を抉っていた。
「……ガフッ」
「え、エリス!」
吐血するエリスだが、決して魔剣を握る手を緩めはしなかった。
勇敢な親友の姿に、タマコは思わず自分の油断を恥じる。
そんなタマコに向けて、エリスは片方の口の端を上げて視線を送った。
「マリア……恋愛下手な貴女に教えてあげる。
……『良い女』ってのはね――」
口を動かしながら、エリスは魔剣に桃色のオーラを付与。
刃は徐々に熱を帯び始めると……
「――過去じゃなくて、常に未来を見てるものよ!」
高熱の刃が、アンブレラの爪の一本を切断したのだ。
「「「なに!?」」」
驚愕の声を上げるアンブレラは、この戦闘で初めて、自分から身を退かせる。
凶狼が離れると、エリスは苦しそうに膝をついた。
「エリス!」
「あ~あ……こんなに怪我したのはあなたのせいよ」
それでもエリスは余裕そうに話す。
もちろんやせ我慢だ。
「あたしは……シャルルに治療してもらうから、マリアは――」
エリスはそっとタマコの肩に手を置く。
「――さっさとあの化け物、倒しちゃい、なさい……――」
その言葉を最後に、エリスは強制転移により退場した。
「――あぁ、まかせろ」
伝う涙を拭い、タマコは立ち上がる。
「――魔王アンブレラ」
後退したアンブレラに向かい、タマコは歩を進める。
その目に、もう迷いはなかった。
「貴様に……相応しい歌を送ろう――」
言葉と同時に、タマコの背中に翼が顕現する。
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魔王リアム=エリス=アメジスト 脱落
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