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第二章 プロジェクト始動
8.プロジェクトの発足
しおりを挟む五月も中旬に差し掛かり、多くの生徒がメランコリーな気持ちにさせられる中間考査の時期が近づいてきた。
GWから始まり、ここ一ヶ月程は、貰い物のちょっとお高めなお菓子の詰め合わせみたいにバラエティに富んだ事柄が多く、何かと慌しかったが、そろそろ学生の本分に立ち返る必要がありそうだ。
午後八時少し前の今、俺は久しぶりにねーじゅさんとのトーク画面を開いている。
中間考査の一週間前という事で明日から始まるテスト週間の過ごし方についての話があるとの事だ。
バックミュージックには、RADWIMPSの『25コ目の染色体』を流している。
彼らの記念すべきメジャーデビューシングルで、優しく静謐なオープニングからダイナミクスに展開する懐の深いナンバーだ。
ブルー『しかし、毎回思うんだけど、ねーじゅさんとブルーのトークで、雪代と緋本としてメッセージのやり取りをするのは未だ違和感があるな』
ねーじゅ『以前は二人とも敬語で会話してたもんね』
ブルー『それで話があるって事だったけど』
ねーじゅ『この前私言ったよね。緋本君が皆に好かれて認められるようになるための計画を練っておくって』
ブルー『ああ、確かにそんな事を言ってたな。不安を掻き立てる様な事を』
ねーじゅ『その構想を漸く具体化する事が出来ました! 後は実行フェーズに移行するだけです!』
ブルー『俺の意思は?』
ねーじゅ『それでは発表します! ドゥルルルルルル⋯⋯』
俺の言葉はスルーして、唐突に雪代の軽快なドラムロールが始まった。
ゆるぺんくんがその太鼓腹をドンドコ叩いているスタンプが押される。
それが鳴り止んだ後、華々しい効果音に続いて、いよいよそのプロジェクト名が明かされた。
『ジャジャーン! その名も『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』!』
お披露目されたそのプロジェクト名を見て、俺は思わず戦慄した。
『えっ、ダサ⋯⋯』
『こらそこ、文句を言わなーい』
『あの読者達から、「素敵なネーミングセンスの持ち主ですね」って絶賛されていたねーじゅさんはどこへいってしまったんだ⋯⋯』
『知らなーい。海外旅行にでも出かけたんじゃない?』
『だってこれはあまりにも酷すぎるよ。売れない駄作ラノベのおざなりに付けられたサブタイトルみたいだし。そもそもリア充ってもう死語化してるんじゃないか?』
『細かい事気にしてると将来ハゲるよ。それより、プロジェクトの概要を説明するよ。この『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』とは、学校や日常生活の中で起こる様々なイベントを通して、皆の好感度を上げたりして仲良くなる事で、緋本君を立派なリア充へと成長させようというものになります』
ブルー『その名称通りのまんまな内容だな』
ねーじゅ『よかったね。これで緋本君も陽キャでパリピの仲間入りだ』
ブルー『そんなのは決して求めてない』
ねーじゅ『まぁ私も、ウェーイとか言ってる緋本君は嫌だけどね。仮にそうなったとしたら、悪いけど永遠にブロックさせてもらうよ』
ブルー『安心しろ。絶対そうはならないから。そもそも俺は陽キャなリア充ってやつを嫌悪してるんだが』
ねーじゅ『君、ラノベなんかの影響でバイアスが掛かっていて、そういう人達に偏見持ってるってだけじゃない? 陽キャでリア充でもいい人達は沢山いるよ。むしろ絶対数では非リアより圧倒的に多いと思う。十把一絡げに語るのはよくない』
ブルー『そうは言うけど、君だって、あいつらからはいい加減離れたいとか言ってたじゃないか』
ねーじゅ『私の事はこの際どうでもいいよ。今大事なのは緋本君のこれから』
ブルー『でも皆の好感度を上げるって、果てしなく大変そうじゃないか? なにせ冴えない根暗な陰キャぼっちの俺だぞ?』
ねーじゅ『「唯一の脱出方法は、通り抜ける事だ」』
ブルー『唐突だな。文学作品からの引用か?』
ねーじゅ『アメリカの詩人、ロバート·フロストの言葉だよ。これは逆説的な表現で、課題や困難に直面した時に、逃げずに立ち向かって経験し尽くす事で克服できるって説いている』
ブルー『困難に打ち勝ってこそ、得られるものがあるって事か。確かに、けだし至言だな』
ねーじゅ『そういう事。じゃあ心構えも出来たところで話を本題に戻すよ。それでプロジェクトを成功するためには、多くのミッションを完遂させる必要があります』
ブルー『ミッションっていうと、何かアクション映画に出てくる特殊部隊に課せられる任務みたいなイメージだな』
ねーじゅ『それでは今回の『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』──略して「ひそリプ」の第一回目の今会議では、最初に行うミッションの内容を発表します! 第一ミッション! 『中間考査でいい成績を残そう&クラスメイトに恩を売ろう!』
ブルー『アニメのタイトルみたいな略仕方に、予想通り中間考査関係のミッション。まぁ事前に聞いていた情報から、成績の事だと予想はしてたけど、その後に&で続いてるのについては? 何か言葉の響きがゲスく思えるんだけど』
ねーじゅ『まぁそう焦らずに。順を追って説明するからよく聞いててね。この第一ミッションでは、中間考査で上位十位以内に入ってもらう事が目標です。ちなみに緋本君、前の定期考査では何位だった?』
ブルー『一年最後の学年末考査では、確か二十三位だったかな』
ねーじゅ『へぇ、結構上位なんだね。まぁ作品を読めば、地頭のよさは何となく察する事が出来るけど』
ブルー『俺は部活もバイトもやってないから時間ならあるからな。読書や創作活動にも費やしてるけど、勉強も疎かにはしていないつもりだ。まぁ五位以内が定位置の雪代に誇れる程じゃないけど』
ねーじゅ『緋本君には、最終的にその私を抜いて学生トップの座に君臨して欲しいっていうのが、『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』の一部なんだけど、今回は初回だからね。さすがにそこまでは求めないよ。十位以内に入れば、廊下の掲示板に結果が張り出された時に、順位表に名前が載るから、それで今回はミッションコンプリートって事にしよう』
ブルー『十位以内か。結構厳しそうだな』
ねーじゅ『だよね。だからそのために明日から勉強会をするよ』
ブルー『俺達二人でか?』
ねーじゅ『そうだよ。他に呼ぶような人いないでしょ?』
ブルー『勉強会をやるのはかまわないけど、教室では駄目だぞ。一緒に勉強しているところを見られて関係を疑われたりしたら面倒だからな。ただでさえ今でも色々と陰で言われてるっていうのに』
ねーじゅ『私は配慮が出来る女だからね。そう言うと思ってちゃんと場所は確保しておいたよ』
ブルー『用意周到だな。それで、それってどこなんだ?』
ねーじゅ『特別棟の二階にある視聴覚室。そこなら放課後空いてるから使っていいってさ』
ブルー『よくそんな場所確保出来たな』
ねーじゅ『生徒会にちょっとしたツテがあってね。その人に頼んでみたんだ』
ブルー『へぇ、学校では孤高の存在って言われてる君にそんな知り合いがいたなんてな。ちなみに生徒会の誰なんだ?』
ねーじゅ『会長の樫井悠果さんだよ。君も見た事くらいはあるでしょ?』
ブルー『あの人か。ゆるふわオーラを漂わせていて、包容力があって母性に溢れているイメージだな』
ねーじゅ『中身もそんな感じ。実はあの人、私の従姉妹のお姉ちゃんなんだよね』
ブルー『従姉妹?』
ねーじゅ『うん。お互いの家も近くて小さい頃はよく一緒に遊んでいたんだ。今でもたまにお互いの家にお泊りしてパジャマパーティとかやったりするよ』
ブルー『仲がいいんだな。男子達に知られたら、『尊い』とか言われそうだ』
ねーじゅ『そんな訳だから、場所については何の問題もないからね。そしてクラスメイトに恩を売るって件についてだけど、これは過去問の傾向や先生ごとの授業中の発言、出題の癖なんかを分析して、今度の中間考査におけるテスト問題を事前に予想し、その対策を纏めたプリントを作ります。そしてそれをクラスメイトの一部に配布して、彼らの成績を向上させて信頼を集めようというものになります」
ブルー『それは理解したけど、肝心の対策プリントは俺が作るのか? そうしておいて、もし的中率が低かったりしたら、無駄な事やらせられたって逆に責められる事にもなりかねないぞ』
ねーじゅ『無問題。それは私が作るからね。緋本君のリア充化のために、ちょっと本気出しちゃうよ。だから君は大船に乗ったつもりでどーんとかまえてればいいから』
ブルー『何かズルしてるみたいで気が引けるけど、俺には無理そうだからな。だけど、そのクラスメイトの一部に──っていうのはどうしてなんだ? 雪代に自信があるなら、どうせなら全員に行き渡らせた方がより多くの信頼が得られるんじゃないか?』
ねーじゅ『保険だよ。私も出来る限りは頑張るつもりだけど、物事に絶対はないからね。大きく外れた時に被害を最小限に抑えるため』
ブルー『なるほど。ローリスクハイリターンを狙うって訳か。詐欺の常套句じゃないか』
ねーじゅ『よろしい、ならば戦争だ』
ブルー『おっと突然の宣戦布告。君、ちょっと血の気が多過ぎやしないか?』
ねーじゅ『君のために血反吐を吐く覚悟でいるこの私に対してその侮辱した発言。そんな態度でいていいと思ってるの?』
ブルー『許してくれ。悪気はなかったんだ』
ねーじゅ『今後は発言に細心の注意を払ってね』
ブルー『了承した』
ねーじゅ『それに君は詐欺扱いしてくれたけど、ハイリスクをとったとして、君の事を信頼してくれる人がどれくらいいると思う?』
ブルー『そうでした。俺は冴えない根暗な陰キャぼっちでしたね』
ねーじゅ『だから切羽詰まって藁にも縋りたいって気持ちでいる人達を狙って声をかけてみよう。例えば部活でレギュラーに入ってる人達とかね』
ブルー『その心は?』
ねーじゅ『うちの学校はそこそこ偏差値が高い進学校だからね。定期考査で赤点をとると、部活停止を喰らって試合に出れなくなっちゃうんだよ。夏のインターハイに照準を合わせて頑張ってる人達にとっては死活問題だね』
ブルー『そこにねーじゅさんから渡された対策プリントを手に、俺が救世主として現れる訳だな』
ねーじゅ『そのとーり! これでいい結果が出れば、緋本君の好感度は爆上がりってもんですよ』
『イエスザッツライト!』とゆるぺんくんがサムズアップしているスタンプを添えて。
ブルー『その無駄に自信があるところに、そこはかとなく不安を感じないでもないけど、まぁやれるだけやってみるか』
ねーじゅ『一言余計だけど、その意気だよ。それじゃあ『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』を見事成功させるためにも、明日からのテスト勉強頑張ろう! えいえいおー!』
ブルー『おー』
気のない返事をする俺。
──今から俺は、導き手の真っ白な少女に連れられて当てのない旅に出る事に出る事になるのか⋯⋯。
脳裏に浮かんだ叙情的な言葉の陳腐さに、思わず自嘲気味な笑いが零れる。
少々面倒な事になってしまったが、俺の状況を案じての事だし、その気持ちは本物と言っても差し支えないだろうから、ここは大人しく従っておこう。
ただ一点だけ──。
その安っぽい響きのプロジェクト名だけはどうにかならなかったんだろうかと、モヤモヤする気持ちを抱える事になってしまった。
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