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第六章 初デートと夏休み旅行
31.宝石のような海と砂浜で
「海ー! あおーい!」
「ついにきたぜー! イカスミかってくらい真っ黒に日焼けするで遊びまくってやる!」
白鳥と朝倉が真っ先に喜びと驚きを叫ぶ。
透明度が高いコバルトスピネルみたいに鮮やかな空色をした海と、真珠のように輝く白い砂浜──。
そうやって、それぞれを宝石で例えたくなる程に、目に映る景観は美しかった。
駅から徒歩ですぐだった海辺の別荘は、本当にビーチの目の前で、最高の立地だ。
建物はログハウス風の二階建てで、BBQが可能なデッキ付き。
「別荘も木の温もりが感じられていい感じね」
涼葉は落ち着いた様子ながらも、胸が躍っているのか、頬は僅かに紅潮し口角も上がっている。
「まだ九時を少し過ぎたくらいなのに、もう随分と賑わっているみたいだね」
鳴宮が言う様に、砂浜にはカラフルなビーチパラソルが並び、気の早い海水浴客で一杯だ。
「細マッチョもムキムキも選り取り見取り。これは捗りますわー」
橘は筋肉フェチでもあるんだろうか。彼女の妄想の糧にされる男達が憐れだ。
「この旅行で俺は、絶対に······」
来栖は何やら思い詰めた様にしてブツブツと独り言を呟いている。
普段の鼻に付く爽やかなイケメンフェイスも険しいものに変わっているし、一見すると危ない人みたいだ。
そう言えば、早朝集合場所にきた時から様子がいつもとは違っていたな。
何かこの旅行中に決行したい事でもあるんだろうか。
まぁ大方怜愛に関係しているんだろうけれど······。
とまれ、巻き込まれない様にこいつには極力近付かないでおこう。
別荘には、二階に二人部屋が四つあるので、話し合いの結果、部屋割りは、来栖と鳴宮、俺と朝倉、白鳥と涼葉、怜愛と橘でペアを組んで使う事に決まった。
暑苦しい朝倉は基本敬遠したいのだが、一応林間学校でも一緒だった関係だ。
挙動が怪しい来栖や、腹の探り合いになりそうな鳴宮よりは、幾らかましだろうという判断で自分からそう希望した。
さっそく海で遊ぼうという事になり、部屋に荷物を置くと、同室の朝倉と共にサーフパンツに着替えた。
そうして、別荘の目の前に広がっている砂浜へと繰り出す。
「緋本、お前部活やってないのに、いい身体してんな」
俺の身体を不躾な視線でじろじろと見てくる朝倉。
「体育の授業で着替える時に言っただろ。毎日筋トレしてるって」
物覚えの悪い朝倉に、ツンとした態度で返した。
「あん時はよく見てなかったんだよ。あれだけのジャンプ力を維持するにはトレーニングは欠かせないよな。俺もやってるぜ、筋トレ」
腕を曲げて力こぶを作って見せる朝倉も、身長が高いだけでなく、引き締まってがっしりとしたいい筋肉の付き方をしている。
野郎の肉付きを見て喜ぶ趣味はないが、橘辺りは一瞬で食い付きそうだ。
そこに来栖と鳴宮がやってきた。
「女子達は未だみたいだな」
来栖もサッカーをしているので、筋肉質で見栄えはいい。
しかし、狙っている怜愛の水着姿が早く見たくて堪らないのか、そわそわと落ち着きがないため、女子からすれば露骨すぎてマイナス査定だろう。
「日差しが強いね。日焼け止めをしっかり塗っておかないと後で大変な事になりそうだ」
草食系でお肌が弱そうな鳴宮。身体付きも線が細くなよっとしている。
したくもない男達の身体の評価をしていると、そこに女子達が揃ってやってきた。
「男子達もうきてたんだー! 着替えるの早いねー!」
白鳥はピンクで花柄のフリルデザインがされた三角ビキニだ。
メリハリのあるボディなので、大胆でセクシーなビキニがよく似合っている。
動きに合わせて揺れるひらひらが可愛らしい。
別の二つの大きな果実も揺れている。
だが、あまりそこばかり凝視していると、背中に雪を入れられたような視線がどこからか飛んできそうなので程々にしておく。
「先ずは海の家にいって、ビーチパラソルとビニールシートをレンタルしてきましょうよ」
シンプルなモノトーンギンガムチェックのタンキニを着ているのは涼葉。
彼女も女子にしては身長が高い方なのですらっとしていて、モノクロのスタイリッシュさが際立ち、ビーチに映えている。
「緋本君って、着痩せするタイプだったんだ⋯⋯! じゅるり⋯⋯」
橘は赤のドット柄ワンピースで、小柄な彼女の可愛らしさを引き立ててはいるのだが、その発言で台無しだ。
完全に捕食者の目をしている。舌舐めずりはやめろ。
「私はパラソルの下にいるから、皆は気にせずに遊んできて」
スマホを片手に持ちながらそう告げた怜愛は、上から長めのガウン風ラッシュガードを羽織っている。
その為、下にどんな水着を着ているかは判然としない。
だからだろう。期待していたであろう来栖などは、あからさまにがっかりと肩を落として項垂れている。
準備万端となった後は、色んな道具の貸し出しサービスを行っている海の家で、ビーチパラソルやビニールシートをレンタルして、砂浜の空いているスペースに設置した。
ちなみに、泳げない白鳥は、個人的に浮き輪をレンタルしていた。
「よーし、泳ぐぞー!」
「きゃっほーい!」
手短に準備運動を終えた朝倉と浮き輪を付けた白鳥が、先を競うように海へと駆け出していく。
「はしゃぎすぎよ、二人とも。そんなに急がなくても海は逃げないわよ」
涼葉はクールぶっているが、彼女も早く海に入りたいらしくその足取りは早い。
「私はちょっと人間観察にいってくるねー」
橘。君が言う人間観察とは、俺のそれとは違って、男達限定の観察だろ?
「僕は海に入って日焼け止めが落ちるのを防ぐために、砂浜で遊んでるよ。緋本君も泳がないなら、一緒に棒倒しでもどうだい?」
鳴宮に、「仕事帰りに一杯飲みにいく?」くらいの軽い調子で誘われてしまった。
ただの遊びとはいえ、こいつと駆け引きするのは精神的に疲弊しそうなんだが⋯⋯。
とはいえ、以前グループに誘われた時のように、無下にもしたくない。
俺はあれから幾つもの試練を乗り越えて成長したんだ。
腹黒の一人や二人、軽くあしらってやろうじゃないか。
「ああ。じゃあ付き合うよ」
「ありがとう。理人、君も海にはいかないみたいだけど、どうする? 僕達と一緒にやるかい?」
「俺はここで怜愛と一緒に残ってるよ」
来栖は誘いを断ったが、怜愛はそれを許しはしなかった。
「私は一人で落ち着いていたいから、来栖君は彼らと遊んできてよ」
やんわりとした言い方だけれど、その実、明らかに邪魔者扱いしていると分かる冷徹さが宿った声音だ。
「そ、そうか? じゃあ⋯⋯」
しょげた顔ですごすごとパラソルから離れ、俺達に合流する来栖。
最近、彼の事を憐れむ機会が多くなってきたな。
別に勝ち負けなんかどうでもいいし、棒倒しでは接待プレイで慰めてやるとしよう。
俺も寛大になったもんだ。
などと考えていたのだが、鳴宮の小賢しい挑発に乗ってしまい、つい熱が入り、来栖を完膚なきまでに叩き潰してしまった。反省。
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