降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第八章 青黎祭と文学市場

46.文学市場での大きな衝撃

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 九月十四日。

 昨日から三連休に入っているため、世間では短期の旅行に出掛けたりしている人達も多いんじゃないだろうか。
 俺も偶には、ふわっと飛ばす紙飛行機みたいな、緩やかな一人旅をしてみたいものだ。
 けれど、経済的にも余り贅沢は出来ないし、それは大人になってからの楽しみに取っておくとしよう。

 そんな連休を利用して、俺は、有明にあるコミケでも有名な東京ビッグサイトにきていた。

 今日はここのホールの一つを貸し切って、文学市場という、大きな文学の祭典が開かれる事になっている。
 この展示即売会では、出店者自身が制作した、小説、詩、短歌、俳句、批評、ノンフィクション、エッセイ、絵本、紙芝居の他、写真集、ZINE、漫画等、幅広いジャンルの作品が出品される。
 流石にコミケ等と比べてしまうと規模は数段落ちるものの、同人小説などの文学作品を販売するイベントとしては、国内最大規模だろう。


 正午になり、スタッフのアナウンスにより開場が告げられ、待機列に並んでいた俺は、前売りチケットを持っているので、優先的に入場する事が出来た。
 事前にオフラインで閲覧出来るWebカタログも見ていたが、一応入口で無料配付されているパンフレットも手に入れておく。

 そうして、俺は陰に埋もれている逸材を探そうと、気合いを入れ直して、出店者達が自身で制作した作品を並べている各ブースを見て回った。


   §


 とにかく、出店者、来場者達の熱気が凄い。

 各々の出店ブースでは、両者が読後感や作品への想い入れを語る等している光景を、あちらこちらで見る事が出来る。
 書店にはない、作り手との交流が生まれるのが、この祭典の醍醐味の一つだろう。
 資本主義とは真逆で、クリエイターの夢と情熱が詰まった、ここでしか見る事が叶わない作品の数々──。

 それらを試し読みしつつ、各ブースを見て回っていると、一冊の本が目に留まった。
 可愛らしいパンダがその本を指差して示しているポップには、『あなたも恋がしたくなる。定期刊行文芸誌ビブリオファイルズ恋愛編 文学サークル「ライターズシエスタ作」』と記されている。

「綺麗で可愛らしいイラストの表紙ですね」

 売り子をしている眠そうな目をしている女の子に声を掛けた。

 俺は陰キャで人と会話するのは苦手だが、最近は、他クラスの女子生徒等からも話し掛けられる事が多くなってきた為、かなりの耐性がついているのだ。
 その少女は小柄で、百五十センチにも満たないんじゃないだろうか。
 この文学市場に年齢制限はないから、中学生──ともすれば、小学生という事もあり得る。
 その背後では、既に成人していると思われる大人の女性が二人、椅子に座って雑談しているので、彼女達に誘われでもしたんだろう。

「そのイラスト、私が描いたの」

 あのド変人江南よりも薄い、ストーンという擬音が聞こえてきそうな絶壁の胸を張りながら、えへんと得意げに鼻を鳴らす。年齢の割に尊大な態度の少女だ。

「そうですか。お上手なんですね。試しに読ませてもらってもいいですか?」

 こちらは低姿勢を崩さないまま尋ねた。

「ん。どうぞ」

 掌を向けて促され、俺はその同人小説としてはやや厚めの文芸誌を手に取り、試し読みを始めた。
 ホールには、各出店者が試し読みのための見本誌を置いたブースも設けられてはいるが、やはりこうして交流しながらの方が、作り手の反応が見られていい。

 冒頭一作目に掲載されている短編の恋愛小説を、パラパラと頁を捲りながら読み進める。
 筆力はフレッシュな勢いが感じられるし、ストーリーも意外な切り口で悪くない。
 これは幸いにも、掘り出し物に巡り合えたかもしれない。

 俺は、続きは購入してからじっくり読もうと、見本誌を元あった場所に置き、財布から千円札を一枚取りだして、売り子の少女に差し出した。

「大変面白そうなので、購入させてください」
「ん。ありがと。はい」

 少女からその文芸誌を受け取った俺は、ホクホク顔でその場を離れた。


   §


 文学サークル『ライターズシエスタ』の文芸誌を手に入れた後は、他のブースでも目星い本を数冊購入し、会場を後にした。

 会場の近くには、怜愛とよくいくエリーズ珈琲がここにもあったので、そこで一息つく事にした。
 
 入店し、カプチーノを注文すると、さっそく購入したばかりの、続きが気になっていた短編の恋愛小説を読む事にする。

 そして、耽読する事一時間半弱。

 読了した俺は手にしていた文芸誌をテーブルに置くと、一つ深い溜息を吐いた。

 大きな衝撃を受けた。

 ねーじゅ先生の作品を初めて読んだ時以来の。

 終盤に近付くにつれて盛り上がっていくストーリーは圧巻の一言に尽きる。

 友人の死の場面の描写では、ヒロインの慟哭する様が、その痛切な悲鳴が直に聞こえてきそうな程にリアルに描かれていた。
 その悲しみを乗り越えて、主人公とヒロインが結ばれるラストシーン。
 そこでも、ただ啄むようなピュアなキスをしているだけなのに、ある種の官能を呼び起こされるような生々しさがあり、だが、少しもいやらしさは感じられず、爽やかな純粋さで溢れていた。

 それは、百頁にも満たない一遍の物語──。

 けれど、それを読み終えた時、暫くは、半ば恍惚として多幸感に包まれていた。
 壮大でスペクタクルな映画を見た後の様な圧倒的なカタルシスと、美しい旋律の名曲を聴いた後のような心地良い癒し──。

 しかし、やるべき事があると思い至り、すぐさま会計を済ませると、俺はもう一度文学市場の会場に戻った。


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