ひょんなことから悪役令嬢を●してしまいました! 〜処刑エンド回避のため、私は彼女を演じます〜

甘酢あんかけ

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1話 転生したら悪役令嬢を✕してしまいました!

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 仕事で冷え切った身体を湯船に沈めた瞬間、私はようやく息をついた。
 今日も終電一歩手前。
 朝から夜まで、笑顔と謝罪を貼りつけて働き続けた一日だった。

「……はぁ……」

 白い湯気が視界をぼやかす。
 スマホを見る気力もなく、ただ天井を見上げる。
 ——少しだけ、目を閉じよう。
 その「少し」が、最後だった。
 
 次に目を開けたとき、私は湯船の中にはいなかった。
 冷たい。
 背中に伝わるのは、硬い地面の感触。
 耳に届くのは、水音ではなく、ざわざわとした葉擦れの音。

「……え?」

 起き上がろうとして、私は息を呑んだ。
 頭上には、真っ暗な夜空。
 無数の星が、こぼれ落ちそうなほど瞬いている。
 都会では絶対に見られない、異様なほど澄んだ星空だった。

 ふわりと風が吹き、土と草の匂いが鼻をくすぐる。
 コンクリートの上で感じる埃とは、まるで違う。

「……ここ、どこ……?」

 私はゆっくりと身体を起こし、周囲を見渡した。
 見えるのは、太い幹を持つ木々ばかり。
 ブナなのか、カエデなのかも分からない。
 とにかく——人の気配が一切ない。
 静かすぎる。
 あまりにも。
 胸の奥が、ひやりと冷えた。

「……私、死んだ?」

 つい、そんな言葉が口をついて出る。
 過労死の心配は、正直ずっとしていた。
 このまま働き続けたら、いつか倒れるだろうな、と。
 でもまさか、本当に——?

「労災……認定されるのかな……」

 どうでもいい考えが浮かんで、すぐに虚しくなる。
 死んでしまったら、意味なんてないのに。
 大きく息を吐き、私は地面に手をついた。
 ——そのとき。
 ふにゃり、と。
 掌の下に、土ではない感触があった。

「……え?」

 もう一度、確かめる。
 柔らかくて、
 わずかに、温かい。
 嫌な予感が、背筋を駆け上がった。

「……ま、まさか……」

 恐る恐る、視線を落とす。
 
「ひ、ひいいいいいっ!!」
 
 悲鳴が、森の静寂を切り裂いた。
 私の身体の下には、人がいた。
 金髪の、若い女性。
 白い肌に、高価そうな赤いドレス。

「だ、大丈夫ですか!?」

 慌てて飛び退き、彼女を揺する。
 返事はない。
 瞼も、指先も、ぴくりとも動かない。
 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
 私は震える手で、彼女の首元に触れた。
 ——脈を探す。
 ……何も、感じない。

「……嘘……」

 頭の中に、はっきりと浮かぶ文字。

 死。

 私が倒れ込む前から、彼女は死んでいたのか。
 それとも——私が、殺してしまったのか。
 どちらにせよ、最悪だった。
 改めて彼女の顔を見る。
 整った顔立ち。
 陶器の人形のような、美しい女性。
 そして——

「……あれ?」

 胸元の逆さ五芒星の銀のペンダント。
 見覚えが、あった。
 数秒考えて、私は息を呑む。

「……ミア・ウォルター……?」

 ウォルター公爵家の長女。
 乙女ゲーム『薔薇色の乙女聖戦!』に登場する——
 悪役令嬢。
 まさか、と思いながらも、確信してしまう。
 この森。
 この服装。
 そして、この死体。

「……私、ゲームの世界に……?」

 頭が追いつかない。
 けれど、ひとつだけはっきりしていた。
 ——このままじゃ、まずい。
 私は震える足で立ち上がり、周囲を見回した。

「……と、とにかく……隠さなきゃ……」

 自分が“人殺し”かもしれないという恐怖を、
 必死に胸の奥に押し込みながら。



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