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13. 俺の番
しおりを挟む腕の中で眠る高大のそのうなじに、自分の所有印のように噛み跡がついているのを見て、横峯は自分の顔が緩んでいるのがわかった。
横峯が見たかったものが見られたのだ。かわいい巣の中で丸くなっている高大が、「噛んで」と言った瞬間理性を飛ばさなかった自分を褒めたい。
最近はずっと顔が緩みっぱなしで、横峯自身にも気持ち悪い自覚はある。話しかけやすくなった、と知らない女子にまで話しかけられるようになったのはさすがに閉口したが、話しかけやすくなった理由が恋人ができたからと知ると「応援してるね」なんて言われて自然に笑顔になってしまう。
こんな、自分のものみたいに噛んで、番にして満足している。
ずっと、多分好きだったのだと思う。
自覚なく、目で追っていた。
横峯は、高大のことを知っていた。
中学高校と同じクラスにはならなかったのは、二次性の結果を学校に提出することになっていたから、アルファとオメガは同じクラスにしないという学校側の配慮もあったのだと思う。
だが、昼休みと放課後、僅かに時間を潰すため、図書室にきていた高大をたまたま見かけた。本当に偶然、窓の外を見ていた高大が、何かが面白かったのかふっと笑ったその笑顔に横峯は心を奪われた。
全体集会やふとのぞいた教室ではずっと硬い表情をしていた高大が、図書室の窓際の隅のその場所でだけはガードが緩むのをちょっと遠くで見るのが、いつしか横峯の楽しみになっていた。
話すタイミングがないまま、大学を決める時に先生の机に無造作に置いてあった志望校の希望用紙を横峯は盗み見た。横峯の選択肢の中にもあった大学だったから、志望をその学校に変えた。
さすがに学部まで一緒にはできず、結局一般教養の授業でも時間が違っていたため、全然授業もかぶらず、いつか話すタイミングがあったらと思いながら、他学科も使う場所――図書室や学生食堂――にはなるべく行くようにしていたが、広い構内で会えることもほぼなくて、横峯は高校の卒業前に声をかけなかった自分を馬鹿だと思い始めていた。
そうこうしてるうちに、大学三年になり、次会えたら絶対話しかけるという気持ちも揺らぎ始めていた横峯に、突如チャンスが訪れた。
逃すものかと声をかけたら、いい匂いがしてかわいくて、横峯はとにかくその場限りで終わらせたくなくて「付き合って」と言ってしまった。
まさか、それに対して嬉しそうに「付き合ってくれるの」などと言われるとは思っておらず、横峯は本当にその時、すがりついてでも土下座してでも離すまいと思っていた。
この執着が、自分がアルファで高大がオメガだからなのかどうかは知らない。
ただ、高大の笑顔をたくさん見たい。
横峯はそう思っていただけのはずだった。
どんどん欲が深くなり、番にして独り占めにしたい、巣作りして欲しいと服を洗濯しないで溜めたり、柄になく浮かれた。
そうして、それが就職活動のためだったとしても、番候補に自分を考えてくれたことが嬉しくて、横峯は緩む顔を抑えきれなかった。何ならすぐにでも番にしたかった。番にするしないは置いておいても、ヒートをひとりで過ごさせたくない。大事に大事にしたい。
そのために、横峯は定期的に行く病院で少し強い抑制剤を「恋人ができたから」と出してもらった。
すべては、高大を囲うためだったとしても、うまくいかず、洗濯しないで溜めた服は、洗濯機に突っ込まれて怒られた。
怒られたことすら嬉しかった。
どこかそれまで、すべてにおいてちょっと遠慮が見えた高大が「洗濯しろよ!」と声を荒げた時、巣を作ってもらえなくて残念に思いながらも、嬉しかった。
ゆがんだ気持ちだとわかっているけれど。
横峯は高大に「『恋は盲目』過ぎる」と言われても、高大を離すことはできない。
眠る高大のうなじにキスすると、くすぐったかったのか身じろぎする。
本当は誰にも見せたくないし、危ない目にあってまで就職なんてしなくていいとさえ思っている。
高大ががんばっているから、就職活動を応援しているが、決まらなくても多少強引にでも一緒に住むつもりで、横峯は最近準備していた。
番ったからには、親に挨拶、結婚、と一気に周りまで固めたい。
横峯は、眠っている高大をしばし見つめると、優しく起こした。
応援ありがとうございます!
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