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6 幼馴染みの男
しおりを挟むあれから二ヶ月、何ごともなく早都は過ごしていた。
ちょうどタイミング悪く、高校時代の同級生グループで合コンの話が出たが、もちろん早都はその気になれず断った。断りのメッセージをグループに送った途端、崇史から早都に個人的なメッセージがきた。
〝早都が合コン断るなんて珍しいじゃん。女好きのくせに。彼女できた?〟
〝ばーか! できるわけないだろ。今、俺は女じゃたたねーの!〟
〝は?〟
最後の返事の後、崇史から早都に即電話がかかってくる。
『ちょ、あのメッセどういうこと? 何で? ちょっと俺が忙しくて会えない間に何があったの?』
ちょっと早口で崇史がまくし立ててくる。
「どうもこうもねーよ。男とセックスして呪われて、女相手に勃たなくなったの!」
早都が面倒そうに言うと、しばしの無言の後、崇史から『は? 何でだよ』と低い声でキレ気味に言われた。
『ちゃんと説明しろ。呪われてるならお祓いしないとだろ』
崇史のまさかの真っ当な意見に早都はハッとした。その場で、話を聞きたいからお前んちに行くと言われ、しばらくして本当に早都の家にきた崇史の息は上がっていて、全速力で走ってきたのかと思うくらいだった。
崇史は早都の住む田舎の、近所の森を所有する地主の家の子だった。本当に幼い頃からの幼馴染みだった。
小さい頃は森で遊んで二人で怒られたり、地区の墓に肝試しに行って怒られたりした。
ここまで早都が崇史との腐れ縁が続くと思わなかったのは、崇史の家が地元でも権力のある家だからこそ、田舎すぎて地元に高校と大学がないから仕方なく出てきているだけでいずれ地元に帰ると思っていたからだった。崇史がこちらで就職した時は、早都だけじゃなく地元の誰もが驚いた。
実を言えば、早都も誰にも気を許さない孤高のイケメンが自分と友達というのが嬉しかったし、自慢だったのだ。「早都がこっちで就職するなら俺も」と言われた時の優越感を早都は気づかぬふりをした。
「はやちんは俺が守ってたのに……仕事やめる……はやちんの家に住む……」
玄関先でずっとそうぐずっている崇史に早都は「イケメンが台無しだな」と声をかける。
「にしても、そんなことがあって以来、うんともすんともでさぁ、男になら反応するのか試してみようかと思ってマッチングアプリに登録してみたけど、肉食系だとそん時のこと思い出して怖いし、奥手な子だとこっちが手を出さない限り進まなくて、詰んでるんだよなぁ……やっぱお祓い行くべき?」
早都が言うと、崇史はバッと顔を上げた。涙で顔がベチャベチャになっているのを見て、早都は笑った。
「ふっ……マジでイケメンが台無しだな」
早都が笑うと崇史は、またベソをかいた。
「違うって! はやちんおかしいって。ちょっと待って。女に勃たないからって、男に手を出してみるって昔のはやちんなら絶対考えなかったって! ……もしかして、そんなに良かったの?」
恨みがましい目で崇史が早都を責めるように見る。
「良かったとかじゃなくて。無理矢理乗っかられても気持ちは良かったけど……いや、やべえなって気持ちのほうが強かった。……勃たないからイけなくて、今まで発散してたのにできないから、男ならイケるかって……それが……」
早都はモゴモゴと煮えきらない。崇史は急に花がほころんだように笑うと、立ち上がり早都の肩をポンポンと叩いた。
「要するに、抜けないのがつらいってこと? そりゃ大変な呪いだ。はやちんつらかったね! でも、マッチングアプリなんてどんな相手がくるかわからないし危ないよ。はやちん、……俺がしてあげようか?」
言いながら崇史が手を筒を上下するように動かした。イケメンからくり出される手の動きはそれだけでエロい。
「何言ってるんだよ、崇史、俺、男だぞ?」
「知ってるけど? はやちんと何年一緒にいると思ってるんだよ。はやちんなら大丈夫だよ。俺やってみるよ!」
言うが早いか玄関先で靴も脱がずに嘆いていたのはどこへやら、崇史は靴を揃えて勝手知ったる家とばかりに早都の部屋に上がり込んだ。
「うわー、確かに、はやちん呪われてるわー」
部屋の中に入るなり、崇史はそう言って、目の前を手で払った。
「はやちんなんでこれで生きてるの……生きててくれて良かったけど」
はーっとこれ見よがしに大きなため息をつく崇史に、早都は首を傾げた。
「そんなに部屋汚いか?」
そこまで部屋が汚いつもりではなかった早都は、ばっちいものでもみるような崇史の視線と、その辺を手で払わないと座ることもできないというような態度にほんのり傷ついていた。
「そのせいで、他の浮遊霊とかも寄ってきて、この部屋めちゃめちゃよどんでるし……俺がはやちんにつけてた守護霊様もゲンナリしてる」
「は? 守護霊様??」
初めて聞く言葉に早都の語尾が上がる。
「そう。警告したのにまったく通じなかったって」
「どんな?」
「……赤ちゃんの泣き声」
「それが一番怖かったわ!」
思い出して早都は声が大きくなる。早都の耳の中で赤ちゃんの声が鳴り響いた気がした。ブルッと身震いした早都の背中に、崇史は手を回してポンポンと肩を叩く。何だかそれだけで気持ちが楽になって、早都は息を深く吸った。
「ははっ……はやちんだからなー。しゃーないか。で、とりあえずこの部屋をきれいにするためにも、早々にお清めしよう! はやちんやべーやつとやってからやれなくなったって言うし、そもそもまず、はやちんを清めなきゃだな。じゃあ風呂だな! 俺とはやちんでお清めセックスだな!」
「……は??」
早都は自分史上一番低い声が出たなと思った。
「お清め……なんて?」
「お清めセックスって言ったけど?」
しかし、崇史は全然気にせず笑っている。
「だってこれ生きてるのが不思議なくらいヤバイもん。霊とかは強い生命エネルギーが苦手だし、俺が注ぎ込めば多分霊的な問題は解消すると思うんだよなぁ……」
「マジか……ってか、え? 注ぎ込む?」
「俺の精液を、はやちんに……」
「いやだぁ無理だぁ……」
「だってはやちん、このままじゃ死ぬもん」
「それもいやだぁ……」
「ほらほら、とにかく風呂行こう? 俺に見せなさい」
「いやだぁ……」
早都はズルズルと洗面所に引きずられた。いやいやしていると、崇史はしょげたように小さな声で「初めて会ったやべーやつとはセックスしたのに、俺は嫌なんだ……はやちんを助けてあげたいだけなのに」と言ったので、早都には勝ち目がなかった。
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