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4話 右だ。いや頼む、右に行くと言ってくれ!

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「これで全部だな。すまないがアレス君、よろしく頼む。」

「勝手に漁ったりしないでよ。」

「アレスさん、お願いしますね。」

早速荷物持ちの仕事かあ。
てか、勝手に漁ると思われてるとか心外なんだが?
アリサお前俺のこと絶対嫌いだろ。

「確かに預かった。任せろ。」

とは言ったものの、うーん、そりゃあ勇者パーティーだから荷物多いとは思ってたけど、まさかここまでとはなあ。
しかも3人分だろ?
しゃーない、あれ使うか。

俺は収納魔法を使い、みんなの荷物を中に入れていく。
仕方ないよね。
こんなに多い荷物担いで探索とか流石に厳しいわ。

「あんた!いったい何してるの!?」

えっ?俺何かまずい事した?
楽しようとしたことが芳しくなかったか?

「これはまさか、収納魔法...。アレスさん使えたんですね。」

「うそでしょ!?信じられない!」

「私も驚いた。流石アレス君といったところか。」

なるほど、これは....。
ヘレナ『お前なんかがいっちょ前に収納魔法使ってんじゃねえよ。』。
アリサ『金もらってるのに収納魔法使って楽しようとか信じられない!』。
セリス『まあコイツならやってもおかしくないな。』。
といったところか。
俺の脳内翻訳機がそう言っている。
間違いなく軽蔑されたな。うん。


そして俺たちはミネルネ地方にあるカンパイーン洞窟に向けて旅立つ。

・・・・・・・・・・・・・・・

「てか、アリサも収納魔法使えるんだろ?わざわざ荷物持ちなんて雇わなくてよかったんじゃないか?」

「生憎あたしは収納魔法は使えないの。悪かったわね。」

「あっ、ふ~ん、なんかすまん。」

やべぇ...地雷踏んだか?
ここは無難に...

「誰にだって使えない魔法の一つや二つはあるから心配するな。」

現に俺も使えない魔法あるし。
嘘は言ってないよな、うん。

「あんたに使えない魔法なんてなさそうだけど、ちなみに何が使えないのよ?」

「俺の場合は、【自動で卵を割ってくれる魔法】が使えないな。」

「そんな魔法聞いたこともないわよ!馬鹿にしてるの!?」

「馬鹿になんてしていないさ。あれは使えると便利だぞ。料理が楽になるしな。」

小さいころ、よく母さんが使ってたなあ...。
いやあ、あれは見ていて壮観だった。
最大で卵10個割ってたからなあ...。

「アレスさんは自分で料理したりするんですか?」

おお、よくぞ聞いてくれたヘレナ!
汚名挽回のチャンス来たれり!

「ああ、裏稼業の任務には当然長時間を要するものもあるからな。自分で料理ができないと話にならん。」

ドヤ顔したくなるのを抑えつつ、料理自慢アピールをする。

「あらあら、アリサとは大違いね、ふふっ。」

「なっ、あたしだってその気になればできるし!?」

「確かに。今までの探索は私かヘレナが料理をしていたな。」

「セリスまで!?」

なんだかかわいそうになってきたな。
仕方ない、ここはフォローしてやるとしますか。

「アリサ。」

「何よ?」

俺は収納された物たちの中から1冊の本を取り出す。

「これを読め。料理に使える魔法がいろいろ書かれている。もちろん、自動で卵を割ってくれる魔法もな。きっと役に立つはずだ。」

「ぁり...とう。」

「んん?なんて?」

「ありがとうって言ってるの!」

ほほ~う。
案外コイツ素直になれないだけでいいヤツかもしれないな。




アリサ『自動で卵を割る魔法....、あたしに使えるかしら?』


・・・・・・・・・・・・・・・・

そんなやり取りをしながらミネルネ高原を歩いていると、ようやくカンパイーン洞窟が見えてきた。

「ここで間違いなさそうだ。みんな、準備はいいか?」

「ええ。」

「はい。」

「ああ。」

なんか便乗して返事したけど俺ただの荷物持ちなんだよなあ。

・・・・・・・・・・・・・・・・

薄暗い洞窟の中を松明の光を頼りに進んでいく。

「暗いし、じめじめしてるし、最悪だわ。」

「そうですね、それに寒いですね。」

先頭をセリスが進み、その後ろをアリサ、ヘレナ、俺の順番で進む。

「待て、分かれ道だ。」

「どうしましょう、二手にわかれて進みますか?」

「アレスは一人でいいんじゃない?」

「確かにアレス君なら一人で大丈夫か。」

「そうですね、わたくしたちがいなくても大丈夫でしょうし。」

はあぁぁぁ!?
いやいや、ちょっと、なんで俺だけ一人、いや独りでこんな暗い中を進まないといけないん?
え?何?ようやくパーティーに馴染んできたと思ったらハブられるの俺?
お家帰っていい?
まあ、帰る家無いんですけどね!

一人は嫌だし...二手に分かれるとパートナーの足手まといになりそうだし....。
よし!ここはいっそ適当に決めちまおう。

「右だ。」

「何だ?アレス君は右に行きたいのか?」

「いや、みんなで右に行った方がいい。」

「なぜです?戦力的にもアレスさん一人で右、わたくしたち三人で左に行った方が良くないですか?」

「そうよ、その方が確実だわ。」

「左は...なんか違う。」

いや流石に無理があるか?
でもここで一人は嫌だ!
頼む、納得してくれ!

「なんか違うってあんたねえ...。」

「いや、アレス君の言う通りにしよう。」

「なっ、ちょっとセリス!?」

「アレス君のことだ、きっと深い考えあってのことだろう。まさか、『一人になりたくないから』など浅はかな理由ではないはずだ。」

すみません、浅はかな理由です....。

「そうですね、アレスさんが言うならそうなのでしょう。」

「ヘレナまで!あぁもう、わかったわよ、右に行けばいいんでしょ!」

うぉっしゃあ!一人ルート回避成功したぜ!
とりあえず一安心だな。うむ、我ながらナイス。

こうして俺たちは分かれ道を右へと進むことになったのだった。
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