星月の蝶

兎猫

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1章 奇跡の魔法

16話 洋館

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 洋館の中はかなり古びている。

 ギシギシと音のなる床を恐る恐る歩いた。

「床ずしゃってなりそう」
「音はなるけど、ならないから安心して」
「きゃうん!」

 薄暗く、足場が悪い。段差があるのに気づかず躓いて転んだ。

「クロの定期報告だと転んだなんて聞いてないんだけど」
「みゃぅん?」
「ゼノンといる時も毎回転ぶわけじゃないよね?」
「みゃん」
「なんで僕と一緒の時だけ転びまくるの」
「謎」

 ミディリシェルはフォルと一緒にいる時だけ転びやすい。

 その理由は本人ですら分かっていないが、わざとではない事は確かだ。

「それにしても本当に……なんか変な音する」
「変な音?」
「うん。エレが良く作ってゼノンに怒られてた、爆だ……時限式魔法具の音」

 微かにだが、チッチッと音がしている。

 それは聞き慣れた音。

 身を守る術として、愛用している魔法具の数々。
 その中でも特に使いやすく、便利で愛用していた。その音と一致した。

「……どこから聞こえる?」
「んっと、あっちだから入り口付近」

 音が聞こえたのは、入り口の方向。音は複数聞こえている。
 詳しい場所は分からないが、奥の方からは一切聞こえない。

「走れる?」
「にゅ」

 防御魔法で防ごうにも、ここに入ってから魔法が使えくなっているようだ。

 爆弾と気づき試してみたが、使う事が出来なかった。

 ミディリシェルはフォルと手を繋ぎ、奥の方へ走った。

 走っている最中に音が変わった。

 チッチッチー

 それが、ミディリシェルの愛用していた魔法具の爆破合図。

 轟音と同時に爆風で建物が崩れ、黒い煙が立ち昇る。

「けほっ、お気に入りが」
「今度好きな服買ってあげる」
「ふにゅ?魔法使える。フォル、もしかしたらこの洋館にはいる時に服に何か付着してたのかも」

 服はボロボロになってしまったが、魔法は使えるようになった。

「エレ、魔法使えなくて良いからこれ着といて」
「ふにゃ⁉︎こ、これは」

 フォルが仕事時には必ず着ているケープ。それを脱いでミディリシェルにかけてくれた。

「仕事用の特殊素材でできてるから、君が」
「にゅぅ」

 大好きなフォルが着ていたというだけで、この状況を忘れる程喜べる。

 ミディリシェルは一人でその喜びを堪能していた。

「ほんとに君と一緒にいると必要ない事までしたくなるよ」
「にゃん?」
「こんなとこで言うのもどうかと思うけど。愛してるよ、エレ。これは嘘なんかじゃない」
「ふぇ?ふぇぇぇぇ⁉︎」


 ミディリシェルにとってこれほど喜ばしい言葉はない。だが、それを聞けるとは思っていなかった。

 あまりに予想外すぎる言葉で驚いていた。

「……さない。……なのに」
「フォルがエレを好き?好き?好きってなぁに?」
「エレ?何してんの?」

 ミディリシェルは収納魔法の中から魔法具を取り出した。

 球体型の魔法具をじっと見つめる。

「好き?なぁに?これ?爆弾?いらない。ぽいっ」

 ミディリシェルが爆弾を適当に投げると、爆発した。

「好き?」
「なんで……ここが」

 爆弾が爆発したところから女性が出てきた。

「この子使って誘き出そうと思ってたけど、ほんと何するか分かんない」
「にゃぅ?ちゅぅ?」
「こうなったら」
「にゃ?みにゃ⁉︎にゃむにゃむにゃむ!」

 突然、普通の言葉を喋れなくなった。

 何かの魔法だろう。

 ミディリシェルは必死にフォルに訴えかけるが、言いたい事が言えない。

「さあ、わたくしの可愛いお人形。この女を処分しなさい。この女は人を惑わす魔法を使って操る悪き女。遠慮は要りません」
「みゅにゃぁ」

 反論したくとも反論できない。

「……処分か。それもありだね。いくらあなた方でも、私用での禁呪は処罰の対象ではありませんか?しかも、本物の御子の可能性のある姫君に」
「私用ではありません。忘れたのですか。あの女の正体が邪に侵されし者だという事を」
「みゅにゅにゅぅ!みゅみゅぅ」

 ミディリシェルとゼノンは多少の違いがあるが色を使い、ある事を見分けられる。

 ゼノンは感情を見分け、ミディリシェルはその場に渦巻く悪意や憎悪を色で見分けられる。

 この女性は悪意に満ちている。それを伝えようとした。

「あら、なんて言ってるのか分かりませんね。人の言葉を喋って頂かなくては。昔から本当に汚らわしい」
「みゅぅ」
「お転婆姫は大人しくする事覚えて。大丈夫だから。僕は絶対にエレを見捨てない」
「みにゅにゅにゅにゅ?にゅみゅ⁉︎にゅにゅにゅぅ!」

 フォルの言葉でミディリシェルはかつての記憶と目の前にいる女性の姿が重なった。

「みぃにゅぅ」
「ゼロに酷い事して捨てた女にエレの王子様は渡さない?それって誰の事?」

 言う事の出来ないミディリシェルは答える代わりにじっとフォルを見つめた。
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