ぬらりひょんと私

四宮 あか

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私たちと市街地

第18話 私だけ

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 あれから、時間が一カ月、二カ月、三カ月、四カ月とながれた。
 ちなみちゃんは、あれから私たちのクラスに休み時間に遊びに来たり、放課後一緒に帰りませんか? とやってくるようになった。
 相変わらず、口調は噛み噛みだけど……


 風月は、あの日以降姿は見ていない。
 けど、社が家みたいなものってシュカが言っていたから学校の敷地にはいるんだと思う。
 シュカはというと、私と一緒に登校して授業をうけて、ちなみちゃんとワイワイ遊んで、放課後は3人で念のため弱い妖怪がいないかを探しながら帰って。

 私のお母さんが作ったご飯を食べて。
「ミチ天才!?」
 って、大げさに誉めたり。
 私の弟と一緒にテレビをみたりゲームをしたり、タブレットをして遊んだり。
 風呂に入れば、私の部屋に引いた客用の布団に横になり私と雑談をしながら眠るの繰り返しだった。



 友達のように遊んで家族よりも長い時間をシュカと過ごしていた。
 時間の経過とともに、シュカがいるのが当たり前のようになってきて。
 それでもフッとしたとき、弟とシュカは楽しそうに遊ぶけれど、弟からシュカに話しかけることはないとか。
 学校で友達と楽しく話している場にシュカが混ざっている間は違和感なく話しているのに、シュカがその場を離れた途端、シュカは初めからいないようにふるまわれる違和感に気がつく。


 シュカが部屋にいても誰も違和感を持たないけれど、自分からは誰も話しかけに行かない。
 シュカとの思い出は、その場だけのもので、時間の経過とともに忘れてしまうことに嫌でも気がついてしまう。


 風月の言葉が私の中によみがえる。
 シュカが妖怪を倒して格が上がり、シュカが私にに勝てば――私がシュカに勝ったことで得た力は人間の私からは失われる。
 そうすれば、私は妖怪のことなど狙われることはなくなり、シュカと出会う前の元通りの生活に戻れる。
 けれど、シュカを倒したことで得たら力を失えば私はもうシュカを認識することができなくなる。


 ぬらりひょんは人に認識されず、人の家を渡り歩く妖怪。
 シュカと過ごした日々も、シュカが私に勝てば全部全部時間の経過とともに、ぬらりひょんの特性によって私の中から曖昧になり消えていく。


 他の妖怪に狙われるって言われたときは冗談じゃない! って思っていた。
 でも、今はシュカのことが見えなくなるのも、シュカのことを認識できなくなるのも。
 シュカとの思い出も全部消えちゃうことも嫌だ。


 いつのまにか、私は弱い妖怪を必死に探すシュカの隣で、妖怪なんか見つからなければいいのにと思うようになっていた。
 でも、そんなことシュカには言えなかった。


 私はシュカとこのままいたいけれど、シュカは違うかもしれない。wikiwikiペディアでもう一度ぬらりひょんについて調べたけれど。
 ぬらりひょんは人の家を渡り歩く妖怪で同じ人の家にずっと滞在する妖怪じゃない。
 シュカも人の家を渡り歩いて強くなるとか以前ちらっと言っていた。


 だから、シュカはきっと私といることを望んでなくて私だけの我がままだと思ったから、親友のように仲良くなれても、私の気持ちだけはシュカには絶対話たら駄目だと思ったの。


「あ、あの。今日はア、アッアイスの割引券をもっていて」
 ちなみちゃんはそう言って、たまには妖怪探しではなくてアイスを食べに行こうと誘ってくれた。
 シュカはどうだろうっと私はチラッとシュカのほうをみた。
 いつまでもシュカに傍にいてほしいと思うようになってしまった、私。
 でもシュカは早く私を倒して自由になりたいかもしれないと思ったからシュカの出方を待つことにしたのだ。


「おっ、ちなみ気が利くじゃん」
 いつのまにか、シュカはちなみちゃんのことも私と同じで呼び捨てするようになっていて。
 ちなみちゃんの肩に手を回すと、アイスの割引券をシュッと奪った。

 ろくろっ首は首から上は妖怪だけれど、身体は人間。
 私がシュカを見ることはできなくなっても、ちなみちゃんは妖怪でもあるから、シュカが見えて、シュカが術さえ使わなければシュカを認識できてこれまで通り。

 風月も神の使いだから、人じゃない。
 私だけが、シュカの記憶だけが消え、姿も見えなくなる。

 なんかヤダ。ずるいってちなみちゃんに思ってしまった。
 ちなみちゃんは何もしてない。むしろ、巻き込まれた私のために、弱い妖怪ながらも、他の妖怪を探す手伝いを、毎日してくれてる。


 私は忘れて、ちなみちゃんは忘れない……ちなみちゃんは弱くても妖怪で。私は人間……
 ちなみちゃんの肩に回ったシュカの腕……

「しずく、予定変更~今日はアイスだ! 俺トリプルにしちゃおっと」
 シュカはそういってニカっと笑って私に割引券をひらひらと見せた。
「……ヤダ」
 気がついたら、思っていて言わないようにしていた言葉が私の口からこぼれおちた。


「えー何。どうせ探しても妖怪きっと今日も見つかりっこないし、暑いし。アイス食べようよ~、しずくアイス好きじゃん。チョコのきっとおいしいよ~。ほら、ちなみもしずく説得してほら、はい」
「えっ、えっ? わた私? あのアイスは、おいしいと思いますです、はい」
 シュカに無茶ぶりをされて、しどろもどろにちなみちゃんがアイスを勧めてくる。


 私、今ちなみちゃんに凄く嫌なこと思っていた。


「あーほら、ちなみの説得が悪いからしずくが「うん」って言ってくれないじゃん」
 えぇ!?って顔にちなみちゃんがなる。
「ごめんなさい。ぬらりひょん様」
「まーだ様つけて呼ぶし、シュカでいいよ~。堅苦しいの苦手だし、俺一応この辺り治めてるじゃん。妖怪も遠巻きにしか見てこないし友達って貴重なんだよね。ちなみを妖怪の友達第一号に任命する」
 そういってシュカはちなみちゃんの頭をぐしゃぐしゃとなでた。


 イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ。


「ろくろっ首って首だけ伸ばせる? 部屋で寝たまま他の部屋にテレビを観に行けたりするのめっちゃ便利じゃない? しずくもそう思わない?」

 二人は妖怪で、私だけが人間。

「どうしたの? 顔色悪いよ?」
「あの、あの、期限はまだあるので、具合が悪いならこ、こ、今度に」


 口を開いたら、二人にひどいことを言ってしまいそうで私は後ろにじりじりと下がる。



 ちなみちゃんが心配そうに私を見つめる。
 シュカもちなみちゃんの肩に回していた手を外すと、私の頬に手を伸ばす。
「ねぇ、ほんと顔真っ青なんだけど……しずく、具合でも」
「触らないで!……あっ、違っ」
「し、し、しずくちゃん?」
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