ぬらりひょんと私

四宮 あか

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私たちと市街地

第24話 心の隙間

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 わかっているの。
 このままじゃ他の誰でもない人間のが危ないってことを。
 
 皆が私のために頑張っていることを。
 
 シュカとの別れがそう遠くない間に来てしまうことを。


 わかっているの。でもそれを私はうまく受け入れられなかった。
 ちなみちゃんは私のためにしてくれている、でもそれに対して、そんなことしなければ、まだもう少しシュカの傍に入れるのにって思ってしまう自分がいる。
 そんなことを考える私を罰するかのように、私の心がずきずきと痛んだ。


 電気を消してベッドに横になった。いつもは割とすぐに寝るシュカのほうから珍しく話しかけてきた。
「俺さ、ここでお世話になってどれくらいたったっけ?」
「えっと、四……いや、もう五カ月近くたってるよ」
「もうそんなに経ってる? 確かにもう夏服じゃないもんね。そんな長い間お世話になってたか。まぁ、それももう少しなんだと思うと、ちょっとさびしい……かな」
 シュカの口からさびしいって言葉が出て以外だった。


「あーしずく、俺がさびしいとか言うの以外とか失礼なこと思ってない? ぬらりひょんはさ孤独なの。人の輪には入れるけれど、人は俺がいたことを忘れるし。妖怪はさ、あのカッパみたいに畏れて絶対に近づいてこない。明日は何するって話できるのすごい新鮮だったなぁ。ミチのご飯も毎日おいしいしね。ここんちの子になろうかな俺」
 恥ずかしくなったのか、いつものようにシュカは冗談でごまかそうとする。


「なってもいいよ。最初は漫画勝手に読むし、私の家で私よりくつろぐところ気になってたけどさ。今はシュカがいなくなったら凄くさびしいんだろうなって思うもん」
 私がシュカにそういうと。
「あーそういうの俺本気にしちゃうタイプなんだけど。まぁ、しずくはこのままじゃ危ないからそれを何とかしてから考えるかな。気付いてもらえたことで俺の術がまだまだだってこともわかったし、めんどいこともあったけど、俺は割と楽しんでるから」
 そう、シュカとの毎日は楽しかった。
 学校の七不思議を調べに行ったり、神様の社に招待されたり、知っていた子がまさかのろくろっ首っていう妖怪だったことがわかったり、ろくろっ首の友達が私にできたり。
 そう言えばカッパも見えたし私って妖怪見えるようになってる……思い出してクスっと笑ってしまった。


「うーん、本当に普通に生活していたら一生できないような経験したかも」
「まぁ、人間は妖怪とか普通は見えないからねー。明日もう一回カッパのところに行ってみよ。もしかしたら、もう誰か知り合いの妖怪見れるかも」
「えっ、もう明日?」
 そんな早くにカッパのところに行くの?
「うん、なんかよくわからない妖怪がうろついているし。勝負できるかできないかは聞いてみるまでわかんないけど。なるべく早く蹴りをつけたほうがいいかなって思ってんの」
「そっ、そっか~」
 シュカの言うことはもっともだ……でも気持ちの折り合いが付けられない。
「さて。明日も頑張るから寝ますか~おやすみ、しずく」
「うん、おやすみシュカ」


 すぐにシュカのほうからは寝息が聞こえてきた。
 私は明日でシュカが弱い妖怪に勝つのでは……そしたらお別れって思うとなかなか眠れなかった。

 横を向いたり、上を向いたり、反対側を向いてみたりといろいろいてみるけれど。いろいろ考えいる私は一向に寝れない。
 受け入れなきゃ、シュカは私が危ない目にこれ以上合わないためにしてくれているんだから。


 私が寝れたのは、お日様がでてきて辺りがほんのり明るくなってからだった。



「ふわぁあーー」
 寝不足であくびをしてしまう。
「ちょっと、あんま寝れなかったの?」
「うん」
 眠くて目を思わずこすってしまう。
「まぁ、この前あんなことがあったからね。そりゃ寝付けないか。でも、心配しないでよ。それも今日で終わりかもしれないから。ほら、しずく早く学校に行こう」
 シュカの言葉にうなづいたけれど、複雑だった。


 なんとか授業をこなしたけれど、眠い。
「あーもうしょうがないな」
 私は思わず机に突っ伏した。
「もう、どんだけ眠いの? ちゃんと夜はねなよ……もう、しょうがないなぁ」
 そういって、シュカは後ろを向いてかがむ。


 私は意味がわからなくてシュカの背中を見つめた。
「ほら、乗るの? 乗らないの? 大サービスなんだから。ほら、さっさと行くよ」
 そう言うシュカの背中に私は飛び乗った。
「うわっ、勢い考えてよもう。前に倒れるじゃん」
 そういいながらもシュカは私をおんぶして歩き出す。


「なんだその姿は……」
 おんぶされている姿に風月は眉をひそめた。
「しずく、あんなことに巻き込まれてから日が経ってないでしょ。あんまり寝れなかったらしくてさ」
「あっあ、あんなことがありましたから。しょしょうがないですよ。早く解決して、もう怖い目にあわないようにしないとですね」
「そうなんだよね、んじゃ行こう~」
 そういって、歩き始める。


 歩く振動が心地よくて、妖怪も心臓があるのか、くっつくと心臓の音がするのに安心して眠くなる。


 こうしていると、人間の男の子とちっとも変らない。
 ちなみちゃんは、明らかに首が伸びるっていう妖怪らしい特徴があったし。
 風月は妖怪じゃないけれど、キツネだし、人間の姿で耳としっぽだけポンッと出る姿はやっぱり人とは呼べないだろう。
 その点シュカは完全に見た目が人なのだ。


 人の家を渡り歩くだけあって、人らしく振舞うその姿は、妖怪ということを忘れそうになる時がある。
 ちょっとめんどくさがりなところはあるけれど、頼りがいがあって、いざという時かっこいい。
 シュカが人間の男の子だったらよかったのに。



 そしたら、私は……私は……




「おい、しずく。なんだその首のあざは!?」
 その時、風月が大きな声を出したのだ。




 大きな声なのはわかる、そんなことより眠い。


『見つけ申した……見つけ申した……心の隙間』
 私の頭に先日の妖怪の言葉が急に響く。それでも私は眠くて仕方ない。

 シュカがかがんでちなみちゃんと風月が私を地面に横にする。
 そんな扱いをされているのに私は眠い。
 


 あぁ、眠い。眠い。
「もう…………遅い」
 昨日の奴の声だった。
 私の頭がフカッとしたものに触れる。
 あっ、枕だ。
 私、凄く眠くてそれで。
 その枕はクルンっとひっくり返される。


「しまった」
 風月が急いで札を取り出そうとする姿、ちなみちゃんがおろおろとしている姿。
 ゆっくりと閉じられる瞼、私が最後に見たのは、私に慌てて手を伸ばす焦ったシュカの顔だった。


 あぁ、シュカ……どうしてあなたは妖怪だったの?
 ……人間の男の子だったらよかったのに。


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