嘘の私が本物の君についたウソ

四宮 あか

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第12話 家に来ませんか?

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 なぜこんなことになってしまったのだろう。
 私はエコバックの中にはポテチとポッキー、籠バックにはなぜかこの前買った水着と財布とスマホを入れたのを持った状態で、自分家の最寄り駅にユウの姿でコソコソと立っていた。
 知り合いにあいませんように、いや、あってもユウキと同一人物だと気がつきませんようにと祈るしかない。



 ことの始まりは少し前にさかのぼる。水着は買ったものの、結局着るの恥ずかしいので、ショウの遠回り過ぎるプールの誘いを見事に天然のフリで気づかずスルーし続けた。
 ショウと行くなんで約束してなかったんだもの。友達とプールに行くときだって水着くらい買うもん。スク水では絶対に行かないし。

 ことの始まりはいつの間にか私もプレイしたかったゲームをショウが実は買っちゃったんだって言ってきたあたりからおかしくなってきていた。
 プールを上手く断れた安堵感とユウキのほうにするような話と好きなことを語るとき特有のショウとのいつものテンポのやりとりが悪かったのだと思う。
『私も買うか悩んでたけど、最近の金欠のせいで、少しプレイしてから購入したいって思ってたんだよね』というのもよくなかったのだと思う。
『試しに家くる?』
 ユウキのときよくあるやり取りだったのだ。
『本当、じゃぁ、お菓子沢山持っていくね』
 ユウで会話していたはずが、いつのまにかユウキとして普通に会話していた私は、いつものような誘いにいつものように答えてしまったのだ。



 あれ? 私どっちで会話してたっけと気がついたときには遅かった。
 私のアホンダラ。
 やっぱりと断ろうとしましたよ、もちろん。なのにその日はもう寝るみたいで話は打ち切られてしまうし。
 リサ姉にどうしようって言ったら、『YOU家に行って押し倒してきちゃいなYO』となんとも参考にならないこと返信だったし、もう絶対にリサ姉は私の状況を楽しんでいる。

 ショウに断りを入れるつもりが、家に来るの楽しみってことを、ユウにもユウキにもやられて断りきることができなかった。


 ショウのお母さんは、もう幼馴染の私の第二のお母さんみたいなもんだし。本当にこの姿でおあいしても大丈夫なのかと嫌な汗が伝う。


『リサ姉!!!』
『はいはい、今度はどうした』
 電話口から聞こえる声はまたですか~という感じだ。
『ショウのお母さんと会ったら、どうしよう。私小さい時からお世話になってて同じ女性だしさすがにばれるかも……』
『安心して、私達の化粧はもはやイリュージョンみたいなものよ。というか、彼女を家に呼ぶのにお母さんがいる日なの?』
『えっ』
 確かに……


『ショウ君のお母さんは専業主婦なの?』
『いえ、小学校に上がったあたりからガッツリ正社員で働いてイラッシャイマス』
『その日はどうなの?』
 思い返せば、私が遊びに行った時いない日も普通に結構あったし、夕方頃帰宅してきたと思う。
『どうナンデショウカ……』
 今回遊ぶのは夏休み中だし、いつもユウキで遊ぶときと同じ11時頃から夕方のつもりで……
『お姉さんは、無駄毛の処理は一応したほうがいいと思うな。後、どうしても無理な時は生理じゃなくても生理って言いなさい』
『ハイ……』
 リサ姉のアドバイスが急にいつものふざけたやつから、リアルなものに変わる。



 遊びに行く前日、珍しくショウからの連絡が電話だった。
 ショウは途中まで迎えに行くよってことだったけれど。いやいや、私が最寄駅まで行くねっとごまかした。
 家が近所だから最寄駅で待ち合わせといっても、一度ユウキの姿で定期が使える範囲の駅に降りてからユウに着替えて、名前の入っている定期が万が一見つかるとまずいから定期は着替えと一緒にロッカーに預けて、自腹を切って電車で最寄り駅にもう一回戻ろうとか考えてたのだから。
 それでも悪いから、迎えに行くとショウは言うけど、これ以上電車賃使うような設定などいらない私は必死に最寄駅まで行くと言い張った。

「じゃぁ、水着を持ってきて、着て見せてくれるなら最寄駅で待ち合わせにする」
 ショウにしたら、これで私が断ると思ったんだと思う。
 プールも遠まわしに回避回避回避してきたから。
「……うっ」
「ほら、じゃぁ途中まで迎えに行くから」
 はい、迎えに行くので決まりという風に話が進むが。
「……水着持っていきます」
「えっ」
「最寄駅行くから」
 私はそう言って電話をたたき切ったのだ。

 その後折り返しの電話が5分もしないうちにきたけれど。私は夜遅いから寝ちゃったということにして無視をした。

 ユウキのほうには、『どうしよう』とスタンプが沢山送られたきた。
 こちらは返信しなければ、出るまで鬼電、ヘタをすればこの調子だと時間かまわず今から家に押しかけてくる可能性もあるので仕方なく返信をすることにした。
 私の部屋は明日の準備もしてあるし、みられるとまずいものだからけだから今ショウを部屋に入れるわけにはいかない。


『こんな時間にスタンプ沢山送ってくんな!』
『どうしよう!』
 あいかわらず返ってきたのは『どうしよう』だった。
『どうしようはさっきからいろんなスタンプで死ぬほどきてるから。それだけはしっかり私に伝わってるから』
 既読になったけれど、返事はなかなか返ってこない。

『彼女が水着で家に来る』
『落ち着け、その文の通りだとすればショウの彼女、痴女ちじょだよ』
『確かに、えっと……彼女が家に来る。水着を着て!』
痴女ちじょのままだよ。水着を着たままで家まで来ないでしょうよ。少し落ち着いたほうがいいって』
 ショウから送られてくる文は相変わらず乱れている。
『彼女が家に遊びに来て、俺の部屋で水着を着る』
 あってる。それが正しい。というか、ショウから改めてそう連絡がくると、私がいかにとんでもないことを約束してしまったのかがわかる。
『そういう、カップル間のプレイの情報はいらない』
 これ以上言わせまいと突き放す。


『そういうプレイをしないから連絡してる。写真とか撮ってもいいと思う?』
 部屋で水着を着てる私の写真……プールで着ているのを撮ったものは水着でも違和感ないけど。ショウの部屋でのビキニの写真などどこのAVだよ。
 絶対だめだ、絶対断る。こっそり撮られないように釘を刺さねば。
『必ず本人の了承をとって撮ったほうがいいと思うよ。もし、こっそり撮影したのがばれたら下着みたいなもんだし嫌われると思う』
 確実に嫌われるを強調した。
『じゃぁ、どれくらい近づいてみてもいいと思う?』
 はぁ? どれくらい……近づいてって……ゆっくりとショウの文の意味を考える。


 ビキニの水着なんて、部屋できていたら下着とどう違うんだ? って感じだし。
 いつものユウキのときの距離だとしてもビキニでは無理。
 ましてや、ほぼ裸じゃないかみたいな状態の私の隣に服をきたショウが手をつなげる距離に座るのを想像して私はうぁぁぁあ! っと小さく叫んでしまった。
 だめだ並ぶだけでもアウトだから、それ以上近づくのなんてもってのほか。
 というか、ショウの部屋の間取り的に、部屋の入り口にショウが立って私がベッドの上に乗ってさらに壁に張り付いてる距離だとしても駄目だわ。
 脳内でシュミレーションしてみたけど、水着姿で同じ部屋とか無理だ。
 あぁ、なんて約束をしてしまったんだろうって余計に考える羽目になってしまった。

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