嘘の私が本物の君についたウソ

四宮 あか

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第21話アルバイト

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 ショウは広げたノートにサラサラとペンを走らせる。
『今度遠出しない?』
 まさかの遠征デートのお誘い。今でさえ楽しいのに、遠くに出掛けるだなんてもっと楽しいに違いないと思う。
『遠出?』
 行きたいって答えは決まってるのに、私は聞き返す?
『江の島とか鎌倉とかどっかそっちのほうまで』
「あっ、もちろん日帰りで」
 書いた後に、あっと気がついたショウが日帰りだと声に出して念を押すのが何だかおかしい。


 その後ショウはスマホを見ながらサラサラと書いていく。
 新宿駅から藤沢駅・片瀬江ノ島駅までの往復と、江ノ電1日乗り放題がセットになってるプランがあるらしく、それだと1500円ほどだそう。
『江の島行ったことない』
 るるぶが広げられ、どこに行くだの楽しい話が次々と出てきた。


 そして、私は同時に問題に直面した。ずばりお金のことである。普段の2重生活に夏と言えばおなじみのオタクの祭典のアレ。
 ただでさえギリギリのところに旅行だ。
 お年玉の残りをここですべて使ってしまうその後が心もとなくなってしまう。


 ということで夏休みの間だけアルバイトを探すことにした。
 コンビニとかかな……、リサ姉に『割りのいいバイト知りませんか?』と聞いてみたところなんと紹介してくれるとのこと。

 ただユウの姿飲食店のホールでお願いってことだった。
 バイト先はリサ姉の知り合いがやっているから、リサ姉と同じ詐欺メイクってことを知った上で雇ってくれるそう。
 履歴書の写真は『ユウ』バージョンで、他の経歴や本名などはきちんと書いてもらわないといけないけど。私はショウの隣以外で初めてユウとしての場所ができた。



 ユウでショウといる時間が長くなるにつれて、ある日ボロが出そうと思っていたので、ユウに変身してユウとして女の子らしく振舞う時間が増えるというのは私にとっては思ってもみないことだった。

 ショウにとって、ユウとして受け入れられることは複雑だったけれど、ユウとしてやっていることは私が女の子らしく本来やりたかったことだったのだ。



 すぐにでも入ってほしいということで、緊張したけれどアルバイトは始まった。
 おしゃれなカフェだった。
 マスクをつけてるイケメンが現れた。
 店のオーナーと名乗る彼に淡々と仕事を教えられる。
 これから、このイケメンと同じ職場とかヤバい。
 駄目だこんなところでは働けないかもと思った時だった。
「そろそろ何か言われるかと思ったんだけど」
 そう言った声は女性特有のものだった。
「嘘だ……。だって喉仏が……」
 ふるふると私は喉仏を指さした。
「パテをね上手く使うと、喉仏だってつくれちゃうんだよね」


 そう、まさしくリサさんのお友達にふさわしい男装の麗人だった。
「いや~リサからの紹介だからばれちゃうかなと思ったんだけど案外ばれないんだよね……」
 マスクを外してニコっとほほ笑まれてドキっとするが、彼女もリサ姉と同じ男装レベルが高すぎる女性だったのだ。
「あっ、これ内緒ね。実は店では男ってことになっちゃって」
「いやいや、そんな外見してたらそうなりますよ。わざわざ喉仏まで作っておいて……」
 気さくな人だった、女性だとわかった瞬間急にほっとした。
「いや、喉仏は毎日は作ってないよ手間がかかるし。首元がわかりにくい服装したり首元に何か巻いたりしてごまかしてたんだけど。いつか誰か気がつくよねって面白半分やってたんだけど、いつの間にかもう男性として認識されちゃって……もう今さら本当は女性ですって言いにくくなっちゃってさ」
 そういってサッと目をそらした。
 この人も私と同じ変装して、楽しいってはじけて取り返しのつかないところにたどり着いた人である。しかも仕事関係で。
「手続きとかでばれなかったんですか?」
「本名が玲《レイ》だったもんだから、上手いことスルーされちゃって今に至る! 同じこじらせた者どうし仲良くしましょ。私もたまには女に戻りたいのよ~」


 仕事は思ったより簡単だった、商品の種類が多い店じゃないこともよかった。
 時給もいいのになぜ、バイトがいつかないのと思ったが原因が玲さんだった。
 男装した状態でウェイトレスとして入ってきた女の子にオーナーだから突然辞めたりされないように気をつけなきゃと優しくした結果。
 玲さんをめぐっての壮絶なバトルがバイト内で勃発。
「誰が一番好きなの?」
 そう詰め寄られても、そもそも男じゃないし。
 キッチンで調理担当してくれてるのが私の彼氏なんだけど……でもそんなこと言える空気じゃないし「もめると大変だから……仕事場では恋人作らない主義」との一言によって一斉に辞められたらしい。
 うぉおおおおいっという内容である。
 だから、今回は反省してリサ姉からの紹介だし最初にネタばれしておくことで修羅場回避したかったそうだ。

 玲さんの中身は当然女性だから、男性が気付かないことにシレッと気がついて褒めるという女性ではよくあるやつをあのビジュアルでやるのだ。
 勘違いしてしまったバイトの子は可哀想だけど、あの容姿でそれされてみろ、そりゃ惚れるだろうとしか。
 そして、辞めることによってもう店とは関係がないし、玲さんと恋の進展があるかもと行儀のいい客となって店に通うというシステムだった。


 玲さんからは、私が女性客から彼氏のことをきかれたら必ず、『同級生の彼がいるんですよ~だから、バイトがいつかないから、知り合いから頼まれて彼氏がいる私が雇われたんです』って言うことを念押しされた。
 メイクの話をしたり、新作の味見をさせてもらったりと楽しい職場だった。
 女性のお客さんにはちょっと玲さん関係でドキドキしたけれど。
「知り合いの妹なんだ~。男性客が多いし、かといって女の子雇うともめちゃうから僕のことおじさんって感じる世代の子に頼んで入ってもらった」の一言で鎮静化した。


 私はその日早速バイトが楽しくてショウに連絡をした。
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