嘘の私が本物の君についたウソ

四宮 あか

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第36話 本物の君がウソの私を振り切った

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「とりあえず、こういうことなので。ウィッグをかぶって髪をセットしてもらうのは辞めます。浴衣せっかく着せてもらったから、今日は地元の祭りのほうに帰りがてら一人で行ってこようかな。私、夜店のやきそばも、まるまる焼きも好きだし」
 乾いた笑いが私の口から、いろんな感情をごまかすかのように出た。
「いやいや、ダブルデートは駄目になっちゃったけど、せっかくだし花火大会行こうよ。ショウ君はだめになっちゃったけどさ」
 リサ姉が気を使ってくれるのはわかるけど、カップルのところに一人お邪魔な人がいては、せっかくのデートが台無しになってしまう。


「いやいや、人ごみも凄いし。私地元の祭りなら知り合いもいるから、そっちと合流してもいいし」
 これは嘘だ。地元の祭りに行くのなんて小学生低学年くらいまでで、それより大きな子は、親や友達と同日程の大きな花火大会のほうに行くのが普通という感じだった。
 ショウが花火大会は混むからと地元の祭りに行くから、私もショウがいるから地元の祭りに行っていただけだ。


 リサ姉は私がリサ姉を心配させまいと嘘をついたことを何となく気がついたようで、何度も私の彼氏がいても気にならないなら一緒に行こうよと誘ってくれたけれど……
 流石に、リサ姉の彼氏さんに悪いしそこまで迷惑をかけるわけにもいかない。

 顔はもう作っちゃったけれど、知り合いに出会ったときようにと、お面も持ってきているからこれで隠せば、このまま家に帰れる。


 真っ直ぐ家に帰るのは、せっかく浴衣を着たのにもったいない。
 リサ姉達も行く、ユウとしてショウと行く予定だった花火大会ではなくて。
 友達が来ないのは好都合だからと、ショウと毎年二人で行っていた地元の神社の小さな祭りによってから帰ろう。


 焼きそば、丸々焼きに、焼きトウモロコシ。とにかくいろいろ買って家に持って帰ってゆっくり食べよう。
 そうしよう。ショウと祭りに行けなくなったことは、すごく残念だったけれど。
 私って一人でもイベントごと行けるようになってて良かった。
 これも、日々のオタ活のおかげよね、団体行動してたら欲しい本買えないし。
 よし、今日はショウがいないけれど、いつも通り、地元の祭りに行って沢山買って食べるわよ~。

 気持ちを切り替えて、リサ姉の部屋を後にした。


 最寄り駅の一駅手前で一度おりて、ロッカーに荷物を預けてから一人で神社のほうへと向かう。
 毎年ショウといつも一緒に行ってたから、一人で祭りに来るのって初めてだ。


 昔は、お小遣いも少なかった。
 お祭りだからと特別にお小遣いもくれたけれど、それだけじゃあれこれ食べることはできないから。
 ショウと二人でお小遣いを合わせて何を買うか相談していろんなのを分け合って食べたのが懐かしい。


 神社までの道は祭りの今日は小さなぼんぼりがつるされている。
 神社までの道は覚えなくても、このぼんぼりを目印にして向かったっけ……
 子供のころは沢山あった出店も、大きな祭りと日程をぶつけられるようになってからは、若い子がそっちに行くようになってだんだんと出店が減っていった。


 いつの間にか、こちらの神社のお祭りにくるのは、地元の小さい子供連れのファミリーや小学生ばかりになったんだよな。
 出店が年々少なくなってきても、それでもショウといろいろ買って食べ比べるのが楽しかった。

 このお祭りだけでも、いくつもの思い出がポンポンっと出てくるくらいショウと一緒に何回も行ったんだよなぁ。
 楽しかったなぁ、ショウと友達でいるの。

 そんなことを考えながら、ぼんぼりの灯りを目印に歩く。
 今年は焼きそばあるかな? さっきから食べ物のことをいろいろ考えてきたけど、こういうの考えるときに『リンゴ飴あるかな』じゃなくて、腹にたまる炭水化物選んじゃうのがよくないのかな……女子として。
 
 いや、今日はそう言うのなし。
 お祭りなんだから、いろんなことは忘れて楽しまないと。
 体系の維持も一日位忘れて思いっきり食べて、このもやもやした気持ちを吹き飛ばすぞーーー!
 浴衣を着て、お面までつけて地元の神社の祭りに行くかなり気合の入った子はきっと私くらいだぞと頭につけていたお面を視界が悪くなるのを承知でつけて歩く。


 今年は隣にショウはいない。いつもいる右側が開いてるのがちょっと違和感があるけど、こればかりは、しょうがないと歩いていたときだった。



「ユウキ」
 聞きなれた声で呼ばれて私は思わず振り返った。
 そこには、なんとショウが立っていた。



 なんで? どうして? ここにいんのさ? 疑問が沢山頭に浮かぶ。
 何か予定ができてユウと花火大会に行くの断ったんじゃなかったの?
 予定はどうした? というより、なんて私《ユウ》がここにいるってわかったの?
「なんで?」
 思わずそう聞き返して、しまったと慌てる。


 だって、ショウは今私のことをユウではなく、ユウキと呼んだ。
 ショウは私をユウではなく、ユウキとして呼びとめたのだ。
 そして、私は名前を呼ばれてつい普通に振り返ってしまっている

 今の私には重大な問題が一つある。
 たまたま、今はお面をつけていたけれど。
 私がつけているお面の下の顔はショウが名前を呼んだユウキではなく、詐欺メイクでユウになってしまっている。
 まずい、まずい、まずい。
「じゃなかった、ヒトチガイデスヨ~」
 ウィッグをつけてないことが仇となった、浴衣を着てるとはいえ後ろ姿は見慣れて幼馴染パターンだった。


 お面していてよかったと思いつつお面が外れないように、手でしっかりと押さえて視線をそらす。
 何か用事でも入ったと思ったのに、まさか地元の祭りエリアで会うとは完全に油断していた。
 ショウは彼女であるユウとの約束をドタキャンしたくらいだから、よもやこんなところで遭遇すると誰が思っただろうか。


「いや、ごまかされないだろそれじゃ。今、俺に名前を呼ばれて普通に振り返っただろ」
 他人のふり作戦はあっさりとショウに論破されそうになる。
 まだよ! 顔が割れたわけじゃない。お面の視界はせまいから、よく見えなくて間違えたと言い訳すればいいのだ。

「いや、お面で視界が悪くて知り合いと間違えてしまったようです」
 苦しい言い訳をしてみる。

 そのときだ、ショウは私のもとにズカズカとやってくると、ムンズっと私のお面を掴んだ。
 ヤバい、今日このお面の下はユウキじゃない、ユウなんだってば。
 ユウキだと認識されている状況でお面をはぎ取られたら――まずい。

「待って待って待って、認める。ユウキです。認めますから取らないで」
 お面をはがそうとするショウの手をガッと掴んだ。
「何んだよ」
 不機嫌な声とともにショウの手がお面から離れてほっとする。
「いやいや、何なんだよはこっちのセリフよ。彼女と花火大会はどうしたの? なんでショウが今この時間にここにいるの? 今ここにいるってことは、もう花火大会に間に合わないじゃない」
「何でって、お前ライン見てなかったのか?」
 ショウが予定があるってユウのほうを断ってきたから、まさかユウキのほうにラインで連絡来るかもとか一つも思ってなくて完全に油断してた。



「いや、今日はスマホを家においてきちゃってて……なんか急な用事だった?」
 浴衣に合わせた小さな巾着は小さいからスマホが2台入らなかった。
 巾着からお財布を出したりしたときに、ユウキのスマホが見つかってはまずいとあえて家においてきてたし。
「なんだよそれ……」
 安堵のため息をショウはついていた。
「なんだよはこっちのセリフよ。彼女どうした彼女、ショウは地元を裏切りでかい祭りの花火を見に行くんじゃなかった?」
「いや、そうだったんだけど……なんでもいいだろ」
「いやいや、何でもよくないでしょ。何か私に用があって話しかけたんじゃないの?」


「……お前てっきり今日はハルキと祭りに行くんだと思ってて。お前のほうにラインしても返ってこないから、ハルキのほうにラインしたら、お前と祭りいかないって言うし」
 そりゃ、私の身体は一つしかないからショウとのお祭りを選択すれば必然的にハルキとは一緒にいけない。


「お前祭り毎年楽しみにしてるじゃんか。食べきれないほど買ってさ。なのに、祭りいかないなんてどうしたんだと思ってラインするけど一向に既読にならないし……」
 そういいながらショウは自分の頭をくしゃくしゃとかいた。
 目の前の幼馴染が彼女との予定をふいにして、私の安否を気遣って駆けつけたことがわかってしまって何とも言えない気持ちになる。

 馬鹿だなぁ。『ユウキ』と連絡つかなくても『ユウ』とお祭り行けばよかったのに、なんでここで『ユウキ』のほう優先しちゃうかな。


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